災害トイレ備蓄 大阪府内自治体の2割 必要な「回数分」足りず

南海トラフ巨大地震など大規模な災害を想定した簡易トイレなどの備蓄について、NHKが大阪府内の自治体に取材したところ、国のガイドラインにある避難者1人あたりのトイレの「使用回数」分に届いていない可能性がある自治体が、2割に及ぶことが分かりました。専門家はトイレの備蓄については「使用回数」を意識した備えが重要だと指摘しています。

災害時には断水や下水道の破損などで常設のトイレが使えなくなることが多く、ことし1月に発生した能登半島地震の被災地でも、水洗トイレが使えなくなって衛生環境の悪化が課題になりました。

このために重要になるのが、簡易的に設置できる災害用トイレの備蓄ですが、凝固剤や処理袋などを含め使用回数を考慮して準備する必要があります。

大阪府と府内43の市町村は、災害用のトイレを避難者50人につき1台確保するという「台数」の目標を定めていますが、使用回数の限度を考慮して何回分用意する必要があるのかは特に定めていません。

そこでNHKは、各自治体が備蓄している災害用トイレについて、1人あたり1日5回トイレを使用するという国のガイドラインをもとに、大規模災害時に想定している避難者数と避難の日数などから「使用回数」を試算。この数が確保できているか検証しました。

その結果、43市町村のうちおよそ2割にあたる10の市と町では、災害用トイレの備蓄が必要な「使用回数」分に届いていない可能性があることが分かりました。

災害時に避難者のトイレのニーズを満たせなくなるおそれがあり、災害時の避難生活に詳しい兵庫県立大学の阪本真由美教授は「実効性を考えれば、トイレの備蓄は、『台数』だけではなく『使用回数』を意識して備える必要がある」と指摘しています。

能登半島地震 珠洲市ではトイレがあふれて…

能登半島地震で大きな被害を受けた石川県珠洲市では、各地の避難所でトイレの問題が発生しました。

その一つが蛸島小学校です。衛生担当のリーダーを務めている洲崎普美代さんは、地震のおよそ1時間後に小学校の体育館に避難しました。

その時すでに大勢の人が避難していましたが、停電や断水でトイレの水は流れない状況でした。トイレは我慢できない人たちが用を足したままになっていて、ひどく汚れていたということです。

翌日になってトイレに設置する処理袋と凝固剤が届きましたが、使うためには便器にたまった排せつ物を片づけなければなりませんでした。

洲ザキさんは、別の消防団員と2人で雨がっぱを着てゴム手袋を装着し、さらに上からビニール袋をはめて作業にあたったと言います。

洲崎普美代さん
「準備をしてトイレに入りましたが、思わず立ち尽くしてしまいました。誰かがこれをやらないと先に進めないので、『やらなきゃだよね』『そうだよね』と自分たちに言い聞かせて、抱えるようにすくって片づけました。過酷でした」

洲崎さんたちが意を決して片づけたことで、処理袋や凝固剤を設置できるようになりました。

しかし、この時、避難所に届いた処理袋と凝固剤は全部で800セット。

当時、避難所には900人以上が避難していて、1人あたり1回分にも満たない数でした。

洲崎キさんはこの経験から、改めてトイレの備えが必要だと訴えています。

洲崎普美代さん
「避難所に、最初から処理袋や凝固剤の備蓄があれば一番よいと思います。置いてある場所がわかって、災害時に使うことを皆が知っていれば、もっと衛生的に過ごすことができたと思います」

トイレ備蓄「使用回数」と「利用フェーズ」意識して

災害時の避難生活に詳しく、能登半島地震の被災地でも調査にあたった兵庫県立大学の阪本真由美 教授は次のように指摘しています。

「大阪府がトイレの備蓄に『台数』の目標を設定して市町村に働きかけているのはよいことですが、実効性を考えると、その台数で『何回使えるのか』が大事です。人は1日あたり5回前後トイレを使うので、その回数分を準備できているかが避難生活の快適さに大きく関わります。いくら『台数』があっても『使用回数』を意識しておかないとトイレの問題は起きてしまいます」

災害から1時間もするとトイレの問題は発生します。一度トイレが排せつ物であふれてしまうと、その後、トイレが使えなくなってしまうので、最初が肝心。災害が起きた瞬間からトイレ対策を動かせるようにしておく必要があります。マンホールトイレなども整備が進んでいますが、設置の仕方を知っている人がいなかったり、能登半島地震のように下水が大きな被害を受けたりすると、地震直後から使用できないこともあります。そのため、避難所に大勢の人が集まり物資も足りないような『緊急』のフェーズでは、簡単に使うことができる処理袋や凝固剤が有効です。そのうえで、時間の経過にともなって、▽洋式のトイレを増やす▽障害のある方でも使いやすいものにする▽においのしないものにするなど快適なトイレに変えていく対応が必要です」

行政だけでなく、私たちも備えを

阪本教授は、行政はより実効性のある対策を検討する必要があると指摘したうえで、私たち一人ひとりも備えを進めることが大切だと指摘しています。

「処理袋や凝固剤は保管にそれほど場所をとるものではないので、行政はそれぞれの避難所などに初動で足りるだけの量を用意しておくことが大事です。また、災害直後には、避難所などに行政職員が駆けつけられないケースもあるので、そうした場合でも地域の方だけでトイレ対策を動かせるよう、連携しておくことも大切になります」

トイレの備えを行政だけに頼るのは限界があるので、私たち一人ひとりも備えておく必要があります。まずは、自分や家族が1日に何回トイレを使うか把握して、それに見合った数の処理袋や凝固剤を用意し、できれば練習してみて下さい」

「日本は世界で最も快適なトイレを開発してきたと言っても過言ではありません。和式が好きな方、洋式の方がよいという方、ウォシュレットが無いと嫌だという人や、便座が暖かいのがよいという人など、いろいろな好みもあってふだんからトイレにこだわりがあります。であればこそ、災害時のトイレにもこだわっていただきたいです。災害が起きないとなかなか気づけない課題ですが、能登半島地震でリアルに問題意識を持ったと思うので、今、備えているトイレがきちんと使える状態なのか、足りないものは何なのかこの機会にもう一度見直して、実効性の高い準備をしてほしいです」