南海トラフ巨大地震の事前復興計画 策定できない自治体も 高知

能登半島地震の発生から半年がたちましたが、被災地の復興の議論は長期化する見通しです。
こうした中で重要とされるのが、被災後のまちづくりをあらかじめ議論し決めておく「事前復興計画」です。
南海トラフ巨大地震による被害が想定される高知県では、この「事前復興計画」の策定を進めようとしているものの、国の補助金が確保できず複数の自治体で計画づくりがストップしていることがわかりました。

「事前復興計画」とは

東日本大震災

「事前復興計画」は南海トラフ巨大地震などの大規模な災害に備え、被害が想定される自治体であらかじめ被災後のまちづくりを考えておく計画です。

例えば住宅を現地に再建するのか、それとも高台に移転するのかや、仮設住宅の用地の確保などを事前に調整することで、復興のスピードを早めることを目的としています。

13年前の東日本大震災の際に避難生活で多くの住民が地元を離れたことで住民の声がまちづくりに反映されにくくなり、復興事業が完了するのに長い年月がかかっただけでなく、人口の流出にもつながったことを教訓としています。

このため国土交通省は全国の自治体に計画の策定を呼びかけていますが、去年7月末の時点で策定を終えたのは2%にあたる30自治体にとどまり、策定を進めている自治体も1%にあたる20自治体にとどまっています。

一方、策定の検討をしていない自治体は、76%にあたる1351の自治体にのぼっています。

災害時の危機管理に詳しい専門家

東京大学大学院 片田敏孝特任教授
「計画を立てておかなければ、災害はある程度乗り越えてもそのあとの地域の衰退が激しく被災同等の大きな被害になってしまうことも考えられる。計画策定の重要性に気づいてもらい、大きな災害想定がある地域は一刻も早く計画の策定をしておくべきだ」。

南海トラフ巨大地震で津波被害が想定される高知県

事前復興計画づくりを進める高知市は

高知市は高知県内では早く動き出し、昨年度から事前復興計画づくりを進めています。

ことし5月の検討委員会で計画の策定が必要な具体的な地区が決まり、津波で1メートル以上の浸水が想定される潮江地区や長浜地区など市内8地区が対象になりました。

高知市防災政策課 戸田幸一副参事
「高知市は人口も家屋も多いので、南海トラフ地震が発生すると大きな影響がある。地元住民の意見を聞くのも時間がかかると思うので、できるだけ早くたたき台を作って示し、策定を進めていきたい」。

3つの自治体では計画づくりがストップ

高知 奈半利町

こうした中、高知県は南海トラフ巨大地震で津波による被害が想定される沿岸の19市町村に対し、3年後の2027年度までに計画を策定するよう求めています。

すでに昨年度までに高知市など7つの自治体が計画づくりを始めていて、今年度は新たに6つの自治体で始める予定でした。

しかし、このうち四万十市、中土佐町、それに奈半利町の3つの自治体は今年度の国からの補助金を確保できず、計画づくりがストップしていることがわかりました。

補助金は国の「都市防災総合推進事業」の事業費を充てる見込みでしたが、高知県の要望額に対して半分にあたる3065万円にとどまったということです。

補助金の減額について国土交通省は、「日本海溝」や「千島海溝」を震源とする巨大地震に備えて北海道や東北からハード面の整備にかかる補助金の申請が多く寄せられた影響だとしています。

高知県によりますと、計画の策定には2年から5年ほどかかり、計画づくりが先延ばしされれば、目標とする2027年度までに完了できないおそれもあるとしています。

国の補助金が確保できず、策定がストップしている自治体の1つ、奈半利町は南海トラフ巨大地震で最大16メートルの津波が来ると想定されています。

奈半利町総務課 井上明課長
「南海トラフ地震はいつ来るかわからず、1年でも早く事前復興計画を作成したいと思っているが、国からの配分がないと独自の財源だけで計画を作るのは難しい。国や県には引き続き要望していきたい」。

片田敏孝特任教授
「大きな災害の想定が全国各地に出ている状況の中で、国の予算がそちらに大きく割かれた事情もわかるが、だからと言って事前復興計画を進めないということにはならない。事前復興計画の策定は被災したあとの地域の立ち上がりに対して非常に大きな影響を及ぼす。例えば県や市町村も独自の予算を入れてでも事前復興計画を進めておくことが一番重要だ」。

石川 奥能登地域では策定されず 復興議論は長期化へ

能登半島地震で大きな被害のあった奥能登地域の輪島市、珠洲市、能登町、それに穴水町では「事前復興計画」が策定されていませんでした。

4つの自治体では地震から4か月がたった5月から復興計画の策定に向けた議論を本格的に始めましたが、いずれも策定のめどは年内から年度内としていて、議論は長期化する見通しです。

石川県が発表した先月1日時点の人口推計によりますと、地震の発生以降、転出数が転入数を上回る「社会減」は奥能登地域の4つの自治体だけで2095人に上るなど人口流出が続いていて、将来のまちづくりに影響が出かねない事態となっています。

片田敏孝特任教授
「地域の伝統工芸とか地場産業も3年4年と何も動かない状況になってくると、復興させていくにも支障が出てくる。超高齢化の中で議論している間に住民の高齢化はさらに進み、人口の流出も進むので状況は厳しくなっている」。