アフガニスタン情勢の国連会議 タリバン代表も初参加へ

イスラム主義勢力タリバンが統治するアフガニスタンの情勢について話し合う国連の会議が、中東のカタールで始まります。タリバンの代表者も初めて参加する予定で、女性の人権の制限を続けるタリバンに対して、国際社会がどのように関与できるかが焦点です。

会議は30日から、カタールの首都ドーハで2日間にわたって行われ、国連のディカルロ事務次長のほか、欧米やロシア、日本など20か国以上のアフガニスタン問題の担当者が参加します。

タリバンからも報道担当の幹部のムジャヒド氏ら、代表が初めて出席する予定で、国連の主導によるタリバンと国際社会との対話が本格的に始まるとみられます。

アフガニスタンでは、女性が小学校までしか学校に通えない状況が続くなど、タリバンによって、女性の権利の制限が強まっていることから、各国から人権問題についての発言が予想されます。

これまで、タリバンの暫定政権を承認した国はありませんが、アフガニスタンの隣国の中国は関係の強化を進めていて、資源開発などを有利に進めるねらいがあるとみられています。

また、ロシアも、柔軟な姿勢を見せていて、過激派組織IS=イスラミックステートの自国への脅威が高まる中、テロ対策の分野でタリバンと協力を深めたいねらいがあるとみられています。

これに対して、欧米は女性の人権問題をめぐって、厳しい批判を続け、各国のタリバンへの対応の隔たりが鮮明になってきていて、国際社会がどのように関与できるかが焦点です。

ロシアはタリバンに柔軟な姿勢

ロシアは、アフガニスタンで実権を握るイスラム主義勢力タリバンに柔軟な姿勢を見せています。

ロシアでは、タリバンは2003年にテロ組織に指定され、活動を禁止されてきましたが、ロシアのメディアはことし4月、外務省と法務省などが、テロ組織指定の解除を検討していると伝えました。

これについてプーチン大統領は5月、記者の質問に答え「アフガニスタンには問題があり、それは誰もがよく知っている」と述べたうえで、「暫定政権と関係を築く必要がある。彼らは国を支配している。今権力を握っているのは彼らだ」と述べ、現実に即して関係を強化する必要があると強調しました。

この背景にあるとみられるのが、ロシア国内で相次ぐイスラム過激派組織の関与が指摘される事件です。

ロシア南部のダゲスタン共和国では、6月23日、ロシア正教の教会やユダヤ教の礼拝所などが武装グループによって相次いで襲撃され、21人が死亡しました。

この事件には、イスラム過激派組織が関与したという見方も出ています。

また、3月にモスクワ郊外のコンサートホールで140人以上が死亡したテロ事件は、過激派組織IS=イスラミックステートの戦闘員による犯行とみられています。

アフガニスタンはタリバンと対立するISの地域組織が活動するなど、テロの温床になると指摘されてきました。

これについてラブロフ外相は6月、記者会見で「アフガニスタンにはISやアルカイダなどが存在している」としたうえで、「タリバンはそれらのテログループを排除するために戦っており、われわれはその戦いを支援することが基本的に重要だと考えている」と述べ、テロ対策でタリバンと連携する必要があるとの考えを示しました。

ロシアとしてはアフガニスタンを拠点にするISの地域組織の脅威が高まるなか、テロ対策でタリバンとの協力を深めたいねらいもあると見られます。

こうした中、6月、ロシア第2の都市サンクトペテルブルクで開かれた国際経済会議には、タリバン暫定政権の労働・社会問題相代行が率いる代表団が招かれており、関係構築を模索する動きとして注目されました。

関係強化進む中国とタリバン

年前に復権したタリバンの暫定政権をめぐっては、女性の人権を制限していることなどを背景に、政府として承認した国はありませんが、隣国の中国は、天然資源の開発などこのところ、さまざまな分野で、タリバン側との協力を強化しています。

中国は去年9月タリバンの復権以降初めて新しい大使を着任させ、タリバンの暫定政権も、去年11月、大使を北京に送りました。

中国政府はアフガニスタン中央銀行の国外資産の凍結措置の解除を訴えるなど、タリバン側を擁護する姿勢も示していて、リチウムや石油など豊富な天然資源をもつとされるアフガニスタンで、巨大経済圏構想「一帯一路」を通じた協力を強化したいねらいがあるとみられています。

また、国際的な孤立を深めてきたタリバン側も、中国の外交的な後ろ盾や投資を呼び込むねらいがあるとみられます。

首都カブールの空港には「一帯一路」と書かれた看板や、ホテルや飲食店の中国語の広告が大きく掲げられていました。

また、カブール市内では、中国の援助で、住宅や公園などをつくる大規模な都市開発プロジェクトが進められていて、中国の大使も出席した起工式で、タリバン暫定政権のハムドゥラ・ノマニ都市開発・住宅相代行は「われわれは復権後に外交ルートを通じて、かつての支援国に接触を試みたが、危機的な状況のなかで助けてくれたのは友好国の中国だけだった」と中国の姿勢を称賛しました。

NHKの取材班が先月現地で取材した産業見本市では、中国が援助する都市開発プロジェクトに資材を納入する鉄鋼業者や、中国の企業とともにレジャー施設の建設を進める企業なども参加していました。

このうち鉄鋼業者の男性は「アフガニスタンで活動する中国などの企業は尊敬するし、投資や支援をしてくれることに感謝している」と話し、さらなる投資に期待を表していました。

専門家「米が抜けた穴を埋め中国やロシアが影響力拡大」

中国がタリバンの暫定政権と関係を強化し、ロシアもタリバンに対して、柔軟な姿勢をとっている状況について、アフガニスタン情勢に詳しい中東調査会の青木健太研究主幹は「3年前、アメリカが軍を撤退させて、タリバンが復権したが、アメリカが抜けた穴を埋める形で中国やロシアがタリバンに影響力を拡大している」と指摘しています。

そのうえで、中国のねらいについては「アフガニスタンには3兆ドル以上の天然資源が埋蔵されているともいわれ、経済的利益は大きい。戦略的要衝にもあり、アフガニスタンが平和で安定すれば中央アジア、中東を結ぶ地点にもなるので『一帯一路』の一角としても参画してもらおうという考えもあると思う」としています。

また、ロシアについては「モスクワでも最近テロが起こったが、アフガニスタンがもたらしうる脅威の一つがテロの流入だ。統治しているタリバンと協力関係を密にして、テロ対策をしてもらうのが接近のメリットだ」として、タリバンと連携して過激派組織IS=イスラミックステートなどの掃討を進めるねらいがあるとしています。

そして「経済的な苦境にあるタリバンにとっては、石油や天然資源の開発など大きな投資をしてくれる国として、中国の存在は大きい。また、ロシアはタリバンにとって政治的な後ろ盾になってくれる。人権問題などについてもタリバンが『内政干渉だ』と認識するような批判をしない」とタリバンにとっても、中国とロシアはつきあいやすく、今後も関係が深まる可能性があるとしています。

一方、女性の権利をはじめとした人権の問題については「例えば言論の自由などの問題について、中国やロシアはタリバンに助言できる立場になく、タリバン側も今の状況を黙認されているように解釈する可能性がある」として、タリバンが両国と接近することで改善が遠のいてしまう懸念もあるとしています。

そのうえで「女性の教育を再開しないとどのような不利益があるかを説明し、話し合いを進めていくしかない。まずはタリバンと話し合える土壌をつくり、一歩一歩進めるのがよい」として、日本をはじめとした国際社会が、タリバンと引き続き対話を行う必要性を指摘しました。