能登半島地震 携帯不通の原因 “通信ケーブル切断”が6割近く

能登半島地震で広い範囲で携帯電話が使えなくなったことを受けて、総務省が原因をまとめたところ、通信ケーブルの切断による割合が6割近くに上り、過去の災害と比べて大きかったことがわかりました。国は今後、基地局の強じん化や避難所での衛星通信の活用など、災害時の通信確保に向けた対策を進める方針です。

能登半島地震では携帯電話サービスも大きな被害を受け、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの大手4社では、あわせて800を超える基地局で電波の送受信ができなくなりました。

このため、能登半島の6つの市町のサービスエリアのうち
▽KDDIは1月3日に最大82%で
▽NTTドコモは1月4日に最大70%で
▽ソフトバンクは1月3日に最大45%で
▽楽天モバイルは1月3日に最大38%で
携帯電話が使えない状態になったということです。

総務省が基地局ごとの原因をまとめたところ
▽外部からの電気の供給や非常用電源が止まる停電が起きたケースが68.5%
▽土砂崩れなどにより通信ケーブルが切断されたケースが57.8%にのぼり、停電が主な原因だった東日本大震災や熊本地震と比べて、通信ケーブルの切断による割合が大きかったことがわかりました。

各社は発災直後から、車や船、ドローンを使った移動基地局を投入するなどして通信の復旧を図りましたが、道路の寸断などで立ち入りが困難な地域を中心に長期間携帯電話を使えず、情報面で孤立するケースもあったということです。

総務省は今後、主要な基地局の非常用電源を強化したり、ケーブルの切断に備え、基地局のあいだの通信に衛星回線を使えるようにしたりするほか、避難所で衛星通信を活用できるようにするなど、災害時の通信手段確保に向けた対策を進める方針です。

通信途絶で長期孤立 その時住民は

能登半島地震では、物理的にも情報面でも孤立した地区が多く見られました。

石川県輪島市の山間部にあり、1月11日におよそ30人の住民が自衛隊のヘリコプターで救出された空熊町もその1つです。

区長の山下與孝さん(77)によりますと、この地区では土砂崩れにより、外部につながる3本の道路がいずれも通行できなくなったということです。

携帯電話と固定電話も地震直後から使えなかったうえ、住民のほとんどが高齢者のため歩いて山を越えることも難しく、市などに支援を求めることはできなかったといいます。

山下さんが外部と連絡を取れたのは発災から6日後で、2キロほど離れた隣の地区の住民が市役所から借りた衛星携帯電話を使って、離れて暮らす子どもや親族にようやく無事を伝えることができたということです。

山下さんは「携帯電話も固定電話もつながらず、救急車も呼べない状況で、食料や燃料がいつまでもつのか不安が大きかった。自分がもう少し若ければ先頭を切って歩いて市に報告したり、助けを求めたりできたが、隣の地区に行くのが精一杯だった。これまで考えてみたことも無かったが、山間部で生活するにあたって非常に不安が残る」と話していました。

新しい技術あっても知識不足で…

携帯電話やインターネット回線が復旧するまでのあいだ、能登半島各地の避難所などで通信手段の確保に活用されたのが、アメリカの企業が手がける衛星通信サービス「スターリンク」です。

衛星通信サービス「スターリンク」

比較的低い上空およそ500キロを飛ぶ衛星を介して電波を飛ばすため、高速通信が可能で、民間企業と国から、利用に必要なアンテナなどの機器あわせて600台以上が貸し出されました。

珠洲市の井関寿一さん(64)も効果を実感した1人です。

井関さんがいた宝立小中学校の避難所では、携帯電話の電波が不安定な状況が続いていましたが、1月10日に機器が設置されたあとはネット環境が整い、住民の不満も減ったといいます。

一方で、無線関連の仕事をしていた井関さんは、知識不足によって新しい技術を有効に使い切れなかったケースがあったと指摘します。

実際、避難所に医療支援に入った団体が機器を使おうと試みたものの、接続に必要なアプリなどの設定ができず、知識があった井関さんが手伝ったことがあったということです。

また、ほかの避難所では、自転車置き場や喫煙所の近くなど、衛星の電波を受けるのに支障があるような場所に、アンテナが置かれている様子も見られたということです。

井関さんは「ネットにつながるようになると周りの人たちの不満も減り、避難所も雰囲気がよくなった。ただ、使い方がよくわかっていなくてもったいないと思うこともあったので、事前に訓練して資格を持つ人が、設定やチェックに回るような仕組みも必要だと思う」と話していました。

総務省 新たな体制を整備へ

総務省は地震の教訓をもとに、災害時に通信手段を確保するため、それぞれの地域で無線の資格を持つ人や通信技術に詳しい人など、住民自身にも対応してもらう新たな体制を整備する方針です。

能登半島地震では、使い慣れていない衛星携帯電話や衛星通信サービスの機器を被災者や支援者がうまく使えなかったことや、自治体の職員が限られるなか、防災行政無線や消防無線などの通信インフラの被災状況を把握するのに、時間がかかったことなどが課題になりました。

このため総務省は、災害時に通信手段を確保するための新たな体制を整備する方針で、今月、北陸地方の自治体や携帯電話会社の担当者などが参加する会議で説明しました。

それによりますと、無線の資格を持つ人や通信技術に詳しい人に事前に訓練を受けてもらったうえで、災害時に避難所の通信環境の確保や、通信インフラの被災情報の収集にあたってもらうということです。

また、国が自治体や通信事業者などと連携して、全国の地域ブロックごとに「情報通信災害対応計画」を策定し、その計画に基づいて必要な機器を整備するとしています。

総務省の中川拓哉 重要無線室長は、「災害時に地域の力で通信の課題を解決できれば、自治体職員や通信事業者が来るのを待つより早い。無線や通信の技術が好きな人の力を借りられるようにしていきたい」と話していました。

専門家「普段から訓練を 外部からサポートする仕組みも重要」

災害情報学が専門の東洋大学の中村功教授は、災害時における通信の重要性について「災害時には被災した人が安否確認をしたり、行政などの支援に関する情報を得たりするニーズが非常に高まる。普段から通信に頼り切った社会構造になっているので、昔よりも通信の重要性は増していて、何らかの形で継続して維持することが必要だ」と指摘しています。

その上で、能登半島地震で使われた衛星通信サービスについては「自治体や避難所で利用されて非常に役に立ったが、停電しているため発電機をつなげてガソリンを補充する必要があるなど、設置にかなりてこずったという声も聞いている。機器を備えるだけでなく、普段から訓練を行ったり、組み立てや設定を外部からサポートする仕組みを整えたりして、使いこなせるようにすることが非常に重要だ」と話していました。

また「スターリンクは外国のいち企業がやっている通信メディアで、いつ何時、仕様変更やサービス停止があるかわからない怖さも抱えているので、頼り切りになるのではなく、従来の防災行政無線など多様なメディアを備えておく必要がある」と述べました。