珍しい「モトスマリモ」 全国で発見相次ぐ 東京 大阪 大分で

河原で拾った石を入れた水槽から、国内で1例しか報告例がない珍しい「まりも」が出現したと、ことし3月に国立科学博物館が発表したところ、全国から情報が寄せられ、同じ「まりも」が東京や大阪、大分からも相次いで見つかったことが分かりました。

相次いで発見されたのは、まりもの一種で、これまでに国内で2例しか報告例がなかった「モトスマリモ」です。

北海道の阿寒湖などに生息する「マリモ」と富山県などで確認されている「タテヤママリモ」の2種に続く国内3種目としておととし、山梨県内で初めて確認されました。

その後、神奈川県に住む男性が多摩川の河原で拾った石を熱帯魚を飼育する水槽に入れたところ、出現したまりもが2例目の「モトスマリモ」だったことが分かりました。

このことをことし3月、国立科学博物館が発表すると、水槽の中に現れた丸い藻の情報が全国から寄せられ、このうち30件余りについてサンプルを取り寄せて顕微鏡での観察や遺伝子の解析をもとに分類を行いました。

その結果、東京や大阪、大分など8つの都府県から新たに「モトスマリモ」が見つかりました。

このうち、東京のものは2例目と同様に河原で拾った石を入れた水槽の中から現れ、大阪のものは、店で購入した熱帯魚や水草を水槽に入れていたところ現れたということです。

市民から多くの情報が寄せられ、これまで情報が乏しかった「モトスマリモ」の研究が短期間で大きく進展したことは研究者にとっても驚きだったということで、分析を行った国立科学博物館の辻彰洋研究主幹は「日本で今まで2例しか記録がなかったまりもが、個人の所有する水槽の中にこんなにいたことは全く初めての情報で、とても驚いている。調査に協力してくれた人たちに感謝したい」と話しています。

《相次いで発見「モトスマリモ」経緯は》

多摩川河原で拾った石を入れた水槽から再び

今回、新たに見つかった「モトスマリモ」の中には、2例目と同様、多摩川の河原で拾った石を入れた水槽の中から現れたケースもありました。

都内に住んでいる丸山真一さん(50)は、メダカやエビを飼育している観賞用の水槽の水草を固定するため、数年前に多摩川の河原で石を拾い、水槽に入れていたところ、いつの間にか石の表面に生えた藻が丸くなり始めたと言います。

小石の上に丸くなりつつある1、2センチほどの藻は「モトスマリモ」とみられると言うことです。

はじめは水槽の中のエビが丸くしたのではないかと思っていたということですが、ニュースで知った「モトスマリモ」とよく似ていたことから、国立科学博物館に連絡したと言うことです。

河原で拾った際には石を洗っており、まりもが現れたことは意外だったということで、丸山さんは「まりもに似ているとは感じていましたが、まりもだとは思っていませんでした。エビの遊び場でもあるのでかわいがって大切に育てたい」と話していました。

水槽の中から大量のまりも

一方、河原で拾った石を入れていない水槽の中からも、「モトスマリモ」が大量に見つかりました。

大阪市内にある飲食店の店主、福手洋聖さん(60)は9年前から店に水槽を置き、ペットショップで購入した熱帯魚や水草などを入れて飼育しています。

飼育を始めた頃、水槽の中に生じた藻は取り除いていたそうですが、手入れに手間がかかるため次第に放置するようになったところ、遅くとも5年前には丸い藻が現れ始めたといいます。

毎年暖かくなると丸くなり出し、数が増えるということで、今では大量のまりもが発生していて、水槽の中で浮いて漂っています。

サンプルを国立科学博物館に送った結果、「モトスマリモ」だと判明したと言うことです。

水槽の中の丸い藻が珍しいまりもだと分かったことについて、福手さんは「グッピーの餌を入れたり水槽に水を足したりするほかはほとんど何もしないので、なぜこんなに増えるのか驚いているくらいですが、お客さんからは冗談で『カレーのスパイス効果』だと言われています。最初はグッピーがかわいかったですが、今ではまりもがいちばんのお気に入りです」と話していました。

また、以前から水槽の丸い藻が気になっていたという常連客の男性は「普通ではないと感じていましたが、まさか本当にまりもだとは思わず、驚きました。これまでと違ってもっと尊敬して眺めたい」と話していました。

《水槽の丸い藻 その正体は》

わずか2か月余で多くの情報 比較も可能に

国立科学博物館によりますと、「モトスマリモ」の2例目の発見がニュースで報じられてからわずか2か月余りで多くの情報が集まり、新たな個体を確認できたことから比較して研究できるようになったということです。

詳しい分析はこれからですが、「モトスマリモ」は遺伝子の解析などから大きく2つのグループに分けられ、▽最初に甲府で見つかった1例目のグループと、▽そのあとに東京や大阪で見つかったグループは異なる種に分けられる可能性があるとしています。

このうち2つ目のグループには由来がはっきりしない個体が含まれており、外来種の可能性もあるということです。

東京の川には別のまりもも?

さらにこれまで富山県などから知られ、報告例が限られていた「タテヤママリモ」も水槽の中から初めて見つかりました。

都内に住む前田格さん(56)がフナなどを育てている水槽に近所の神田川で拾った石などを入れていたところ、次第に石が藻に覆われてまりもが現れ、そのうち1つはソフトボール大の大きさに成長しているということです。

このほかにも、もう1例、似たようなケースが見つかり、どちらも水槽に入っている石などを都内の水源に近い河川で拾っていることから、都内の川に「タテヤママリモ」が生息している可能性が示唆されるとしています。

水槽の丸い藻の正体は5種類か

さらに、▽北海道などに生息している「マリモ」も1例見つかったほか、▽まりもと同じように丸い形になるものの、「アオミソウ」と呼ばれる近縁の別の種だったケースも散見されたということです。

今回、各地から報告が寄せられた水槽の中に現れた丸い藻の正体は、「マリモ」、「モトスマリモ」の2つのグループ、「タテヤママリモ」に加えてまりもに近縁の「アオミソウ」と、大きく5種類に分けられたということです。

研究者「今回のスピード感は初めてかも」

水槽の中に現れた未知の「まりも」の正体が短い期間で急速に分かってきた今回のケースについて、国立科学博物館の辻彰洋研究主幹は「シチズン・サイエンス」と呼ばれる、市民と科学者が協働して科学的な調査を行う取り組みの好例であり、今後の研究の発展や市民の理解増進につなげたいとしています。

辻さんは「今回のすごいところは市民の協力のおかげで研究者が全く知らなかったことがどんどん見つかってきたことです。ニュースで報じられたあと大量のメールが来て持てるリソースをほとんど投入して大量のデータを解析し、走り抜けてきた感じです。研究者はふつう2、3年のスパンで行う仕事がほとんどで、今回のスピード感は初めてかもしれない」と話していました。