IS “国家樹立宣言”から10年 勢力衰退も“脅威続いている”

過激派組織IS=イスラミックステートが中東のイラクとシリアにまたがる広い地域を支配し、「イスラム国家」の樹立を一方的に宣言してから29日で10年となります。勢力は衰退した一方、過激な思想は世界に拡散し、ISに関連するテロも相次いでいて、専門家は脅威が続いていると強い危機感を示しています。

過激派組織ISは、シリア内戦などの混乱に乗じて勢力を拡大し、2014年6月29日に「イスラム国家」の樹立を一方的に宣言し、一時、シリアとイラクにまたがる広大な地域を支配しました。

イスラム教の極端な解釈に基づいて残虐な行為を繰り返し、2015年には拘束していた日本人2人を殺害したほか、世界各地でテロを繰り返してきました。

ISはアメリカ主導の有志連合やロシアなどによる攻撃も受け、2017年には「首都」と位置づけたシリアのラッカなどを制圧され、その2年後には、シリア東部の最後の拠点も失いました。

しかし、勢力が衰退したあともISによる散発的な攻撃やテロは続いているほか、過激な思想はアフリカやアジアなど世界各地に拡散しました。

ことし3月にロシアのモスクワ郊外のコンサートホールが襲撃され、140人以上が死亡したテロ事件ではアフガニスタンを拠点とするISの地域組織が関与したとされています。

さらに難民に紛れて多くの戦闘員などがヨーロッパに渡って潜伏しているとも指摘されています。

シリア人権監視団のアブドルラフマン代表は「ヨーロッパには800人以上のIS戦闘員が潜んでいる。ISはただの集団ではなく“思想”であり、思想が撲滅されないかぎり国際社会にとって脅威であり続ける」と述べ、強い危機感を示しています。

元戦闘員「若者ら勧誘し組織の再起をねらっている」

過激派組織IS=イスラミックステートの元戦闘員がNHKの取材に応じ「ISがみずからの思想を広げる方法を進化させれば、再び多くの人がISに参加するだろう」として支配地域を失ったいまも若者らを勧誘し、組織の再起をねらっていると指摘しました。

シリアやイラクでISのテロ活動に関与したとしてイラク北部のアルビルにある治安当局施設に収監されているISの元戦闘員が6月、NHKのインタビューに応じました。

モロッコ出身の元戦闘員は10年前、当時大学生だったころ、地元のモスクで開かれていたイスラム教の勉強会に参加したことをきっかけに、過激な思想に傾倒していったといいます。

その後、シリアに渡り、ISによる思想教育と訓練を受けたのち、戦闘にも加わりましたが、ISが一方的に市民を異教徒や背教者と見なしては殺害を繰り返していたと証言しました。

元戦闘員は「当時ISはイスラム教徒が実現したかった国家樹立という夢を体現していた。しかし時間とともにその理想は瓦解していった」と話していました。

元戦闘員は残虐な行為などを目の当たりにするようになり、ISからの脱退も考えましたが、逃げ出すことはできず、2018年にイラクで活動していたところを治安当局に拘束されました。

元戦闘員は「ISがみずからの思想を広げる方法を進化させているかが重要だ。もし、新たな手法を見つけてしまえば、再び多くの人がISに参加するだろう」として支配地域を失ったいまも若者らを勧誘し、組織の再起をねらっていると指摘しました。

また、別の元戦闘員もISはパレスチナのガザ地区など地域で起きている紛争に乗じて、若者らの勧誘をねらっていると指摘し、地域の不安定化がISの勢力拡大にもつながると主張しました。