【詳報】米大統領選討論会 メディア「バイデン氏 精彩欠く」

11月のアメリカ大統領選挙で再選を目指すバイデン大統領と、返り咲きをねらうトランプ前大統領による初めてのテレビ討論会が行われ、主要な政策について論戦を繰り広げました。アメリカのメディアは、バイデン氏について力強さと安定感、それに精彩を欠いていたと伝えています。

記事の後半に討論会の発言の詳細も掲載します。

(目次から発言詳細に飛べます)

アメリカ大統領選挙に向けたバイデン大統領とトランプ前大統領によるテレビ討論会は南部ジョージア州アトランタで27日夜、日本時間の6月28日午前、行われました。

2人による直接対決は前回、2020年の大統領選挙以来、4年ぶりです。

90分にわたった討論ではインフレやウクライナ情勢、移民政策など主要な政策について論戦を繰り広げました。

このうち、経済やインフレについてバイデン氏は「雇用を創出し、身近なものの価格を引き下げるために取り組んでいる」などと述べ実績を強調しました。

一方、トランプ氏は「バイデン氏はいい仕事をしていない。インフレは私たちの国を殺そうとしている」などと反論し批判しました。

さらに、討論会では双方が互いを「史上最悪の大統領だ」と批判し合うなど、激しい非難の応酬もみられました。

アメリカのメディアは、討論会でのトランプ氏の発言について、人工妊娠中絶は憲法で保証された権利だとした最高裁の判断が覆ることを「すべての人が望んでいた」と述べるなど、事実ではないものが少なくなかったと伝えました。

一方で、バイデン氏については、トランプ氏の事実ではない発言に十分に反論できない場面も目立ったうえ、序盤から声がかすれ、途中、数秒間、ことばに詰まる場面もあり、力強さや安定感、それに精彩を欠いていたと伝えています。

また、アメリカの複数メディアは、「大統領はかぜをひいている」とバイデン大統領の陣営関係者の話として伝えています。

さらに、CNNテレビは民主党関係者の話として、バイデン氏が党の候補者でよいのか、疑問視する声も出ていると伝えていて、バイデン氏の年齢や健康状態に対する有権者の懸念が改めて高まる可能性もあります。

米メディア 「バイデン氏、苦戦」「民主党はパニック状態」

討論会についてアメリカのメディア各社はバイデン氏にとって厳しいものだったと伝えています。

有力紙のワシントン・ポストは「バイデン氏苦戦、トランプ氏は質問をはぐらかす」、同じく有力紙のニューヨーク・タイムズは「トランプ氏の威勢にバイデン氏苦戦」、CBSテレビは「バイデン氏、序盤から声がかすれて苦戦」などいずれも見出しに「Struggle(ストラグル)」、「苦戦する、もがく」という言葉を使ってバイデン氏が押されていたと伝えています。

複数のメディアは民主党関係者の間でバイデン氏が候補者にふさわしいのか疑念も浮かんでいると伝えています。

AP通信は討論終了から1時間ほど後のまとめ記事の見出しで「動かなくなるバイデン氏、討論でトランプ氏に向き合うも民主党内では立候補にふさわしいかパニックをもたらす」と表現しています。また、政治専門紙「ヒル」は専門家の話を引用して「バイデン氏のふらふらのパフォーマンスで民主党は完全なパニック状態だ」などと伝えています。

CNN調査 トランプ氏評価の声「67%」

CNNテレビが、討論会を視聴した有権者565人を対象に調査したところ、パフォーマンスについて「トランプ氏の方が良かった」と答えた人が67%、「バイデン氏の方が良かった」と答えた人が33%で、トランプ氏を評価する声がバイデン氏を大きく上回りました。

討論会の前の調査では、「トランプ氏の方が良いと予想する」と答えた人が55%、「バイデン氏の方が良いと予想する」と答えた人が45%で、討論会を経てトランプ氏の評価が伸びたかたちです。

また、およそ80%が「誰に投票するかは変わらない」と答えた一方、「誰に投票するかを考え直した」と答えた人も5%いました。

また、国を率いる能力については「バイデン氏を信頼できない」と答えた人が57%、「トランプ氏を信頼できない」と答えた人が44%で、討論会の前と変化は見られなかったということです。

専門家「短期的にはトランプ氏にプラス」

討論会について、アメリカ政治に詳しい上智大学の前嶋和弘教授は「2人とも言っていることがかみ合わなかった。政策そのものよりもそれに対するパフォーマンス、立ち居ふるまいがポイントとなっていた」と述べました。

その上で「トランプ氏が立ち居ふるまい含めて元気に見えたのはポイントだった。メディアが『バイデン氏が負けた』と結論を出していくとよけい大きくなっていく。その意味で短期的にはトランプ氏にプラスになるような討論会だった。トランプ氏の強さが目立った」と指摘しました。

また、トランプ氏がウクライナ情勢をめぐって「私が大統領に選ばれれば就任前にプーチンとゼレンスキーの戦争に決着をつける」などと発言したことについて、「トランプ氏になったらウクライナ戦争は強制終了になりアメリカからの支援が途絶える可能性があるということをトランプ氏が話をしたのは大きい」と指摘しました。

また、年齢面の不安が指摘される中、バイデン氏はかぜをひいていると陣営関係者が説明したと伝えられていることについては「バイデン氏が健康不安、高齢不安を打ち消すことができたかというとそうではなく、逆だと思う。バイデン氏とトランプ氏は3歳の年齢差だがむしろもっとこの差が大きく見えた。もっともバイデン氏がやってはいけないことは討論会に健康不安で出てくることで、もしかぜを本当にひいていたとしたらマネージメントとしてよくない。戦略ミスだ」と指摘しました。

その上で、「今後、バイデン氏の健康不安の話が大きくなっていった場合、民主党の中で党大会までにバイデン氏を替える話がでてくるかもしれない。これから1週間、2週間の動きは注目しないといけない」と述べました。

バイデン氏 擁護の声も

討論会のあとハリス副大統領はCNNテレビのインタビューで、討論会でのバイデン氏について問われ、「スロースタートだった」と述べた一方で、「力強く締めくくった」と強調し、精彩を欠いたという指摘が出ているバイデン氏を擁護しました。

さらに「わたしは、この3年半の実績を見てきた。最後の90分について議論するつもりはない」と述べ90分間の討論会ではなく、バイデン氏の大統領としての実績に目を向けるべきだと訴えました。

また民主党のニューサム・カリフォルニア州知事は、MSNBCテレビのインタビューで、党内からも、バイデン氏は立候補を取り下げるべきだという声が上がっていると伝えられていることについて一つの討論会だけで評価をすべきではないと強調しました。

【テレビ討論会 発言詳細】

経済

バイデン氏「経済ひどい状況 雇用創出、雇用確保で元にもどした」
トランプ氏「インフレは私たちの国を殺そうとしている」

テレビ討論会のなかでアメリカで続く根強いインフレや経済の状況について、バイデン氏は「私が大統領に就任したとき経済はひどい状況だった。私は雇用を創出し、その雇用を確保することで物事を元にもどした。ただ、まだやるべきことはある。食卓のまわりの身近なものの価格を引き下げるために取り組んでいる」と述べました。

一方、トランプ氏は「バイデン氏が生み出したのは不法移民のための仕事や新型コロナウイルスの影響を受けて落ち込んだ仕事だけだ。バイデン氏はいい仕事をしていない。インフレは私たちの国を殺そうとしている」と述べました。

人工妊娠中絶

バイデン氏「トランプ氏が当選なら、全米で中絶を禁止する法律」
トランプ氏「各州の判断に委ねられる ただ、私は例外も信じている」

人工妊娠中絶について、トランプ氏は連邦最高裁判所がおととし(2022年)、中絶は憲法で認められた権利だとする判断を覆したことについて「皆が望んでいたことで各州の判断に委ねられることになった。そして今、州が取り組んでいる。ただ、私は例外もあると思っており、レイプや母体の命に関わるものについては例外だと考えている」と述べました。

一方で、バイデン氏は「女性の健康に関わることについて政治家が決めるべきことではない」と述べた上で、「もしトランプ氏が大統領に当選し、議会が保守強硬派に支配されれば全米で中絶を禁止する法律を成立させるだろう」と述べました。

移民・難民政策

バイデン氏「違法に国境を越える人 大幅に減少」
トランプ氏「今は史上最も危険な国境に」

国境管理や移民・難民政策について、バイデン氏は「トランプ氏が大統領だったときに移民の赤ちゃんを母親から引き離し、家族を引き離す状況を作り出した。それは正しいやり方ではない。私は国境警備隊を増員した。法律を改正した。その結果、違法に国境を越える人が大幅に減少している」と述べました。

一方、トランプ氏は「わが国の歴史上、最も安全な国境だった。バイデン大統領は国境を開放することを決め、その結果、囚人やテロリストなどが入ってきている。それなのに彼は国境を開放したままだった。今は史上最も危険な国境になっている」と述べました。

ウクライナ情勢

バイデン氏「ウクライナ支援 世界50の国から支持得た」
トランプ氏「バイデン氏が何もしなかったからロシアの侵攻招いた」

ウクライナ情勢についても論戦が交わされました。

このなかでトランプ氏はウクライナ情勢について、「アメリカに本当の大統領、プーチン大統領が一目置いている大統領がいたら、プーチン大統領はウクライナに侵攻することはなかっただろう。バイデン氏が何もしなかったからロシアの侵攻を招いたのだ。アフガニスタンからの撤退についてバイデン氏の対応はひどかった。アメリカ史上、もっとも恥ずべき瞬間だった。プーチン大統領はそれを見ていた」と述べました。

さらに「私が大統領に選ばれれば就任前にプーチンとゼレンスキーの戦争に決着をつける」と述べました。

一方、バイデン氏は、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの支援を続けていることについて「私は、ウクライナ支援で日本を始めとする世界の50の国から支持を得た」と述べました。

そしてNATO=北大西洋条約機構について「トランプ氏はNATOからの脱退を望んでいる。われわれの強さは同盟によるものもある」と述べて、NATOにとどまるべきだという考えを示しました。

中東情勢

バイデン氏「私たちはイスラエルの世界最大の支援者だ」
トランプ氏「彼はパレスチナ人のようになっている」

イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突について、バイデン氏は「私たちはイスラエルの世界最大の支援者だ」と述べた上で、停戦の実現に向けて尽力していることを強調しました。

一方、トランプ氏は「イスラエルに仕事を最後までやらせるべきだ。ただ、バイデン大統領はそれを望んでいない。彼はパレスチナ人のようになっている」と述べました。

連邦議会乱入事件

バイデン氏「トランプ氏がそそのかした」
トランプ氏「平和的 愛国者のように行動するよう言った」

トランプ氏の支持者らが3年前に連邦議会に乱入した事件についてトランプ氏は「私は平和的かつ愛国者のように行動するように言った。そして多くの人が集まると感じ、州兵などの派遣を提案したがペロシ元下院議長が拒否した」と述べました。

一方、バイデン氏は「トランプ氏がそそのかした。止めようとする努力を全くしなかった。彼らはドアを壊し窓を割り、議会を占拠した」と述べました。

有罪評決

バイデン氏「このステージにいる人物は重い罪を犯した」
トランプ氏「バイデン氏は政敵を追い落とそうとしている」

トランプ氏が不倫の口止め料をめぐって業務記録を改ざんした罪に問われた裁判で有罪の評決が出たことを念頭に、バイデン氏がトランプ氏について「このステージにいる人物は重い罪を犯したとして有罪評決を受けた」と述べました。

一方、トランプ氏は「民主党のひどい裁判官で、検察官もすべて民主党に指名されている」と主張した上で、「バイデン氏は正々堂々戦っても勝てないから政敵を追い落とそうとしている」と批判しました。

そしてバイデン氏の次男、ハンター・バイデン氏が虚偽の申告をして銃を不法に購入した罪などに問われた裁判で、有罪の評決が出たことについて「バイデン氏は私が重罪で有罪評決を受けたというが、彼の息子もまた重罪で有罪評決を受けた」と述べました。

気候変動

バイデン氏「トランプ氏は環境のために何もしていない」
トランプ氏「パリ協定は多額の負担を強いるもの」

トランプ氏は温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」から自身の大統領在任中に脱退したことについて「パリ協定は多額の負担を強いるもので、中国は何もせず、ロシアもインドも何もしなかった。資金を無駄にしたくなかったので終わりにしたのだ」と述べました。

一方、バイデン氏は気候変動対策について「私はパリ協定にすぐに復帰した。トランプ氏は環境のために何もしていない。私は歴史上、最も広範囲に及ぶ気候変動法案を成立させた」と述べました。

年齢や健康

バイデン氏「私は政治家として最年少であることを批判されてきた」
トランプ氏「私はとてもよい健康状態だ」

互いの年齢についても論戦が交わされました。

このうちバイデン氏は史上最高齢の大統領として有権者の間で健康状態への懸念が出ていることについて「私は政治家として最年少であることを批判されてきたがいまは最年長になった。トランプ氏は私より3歳若いが能力はかなり劣っている。私の実績をみればわかると思う。多くの新規雇用を生み出し、アメリカでは巨額の投資が行われている」と述べました。

一方、トランプ氏は自身とバイデン氏の年齢について「私は認知機能の検査を受け、結果を公にしてきた。バイデン氏は検査を受けていない。簡単なものでも検査を受けるところを見てみたいものだが、質問に答えることができないだろう。私はとてもよい健康状態だと思う」と述べました。

選挙結果

バイデン氏「あなたが結果を受け入れるか疑わしい」
トランプ氏「公平な選挙であれば絶対受け入れる」

トランプ氏が今回の大統領選挙の結果を受け入れるかどうかをめぐり、トランプ氏は「公平で合法的な、よい選挙であればもちろんだ。私は絶対、受け入れるし、選挙結果を受け入れたほうがずっと楽だ。ただ、前回は不正がひどかった。バイデン氏のひどい仕事を見るまでは今回立候補するつもりもなかった。彼はわれわれの国を破壊している」と述べました。

一方、バイデン氏はトランプ氏に対して「私は、あなたが結果を受け入れるかは疑わしいと思っている」と述べました。

討論会を終えて

討論会のあと、バイデン氏は記者団に対し討論会について「うまくやったと思う」と述べました。その上で「うそつきと議論をするのは難しい」と述べました。

さらにかぜをひいていると複数メディアが伝えたことについては、「のどの痛みがある」と答えました。

また、トランプ氏の陣営は討論会のあと声明を発表し「トランプ氏は史上最高のパフォーマンスと勝利を披露し、すべてのアメリカ国民の生活をどのように改善するか明確に示した」と討論会を振り返りました。

一方、バイデン氏については、討論会の前にワシントン郊外にある大統領専用の山荘キャンプ・デービッドに滞在していたことに触れ「討論会の準備のためにキャンプ・デービッドで1週間の休暇を取ったにもかかわらず、経済と国境の政策が悲惨な実績になっていることを弁明できなかった」とやゆしました。

その上で、「われわれはトランプ氏を再選させることですべてを好転させてアメリカンドリームを取り戻すことができる」としてトランプ氏への支持を改めて呼びかけました。