バイデン大統領とトランプ氏 テレビ討論会へ 4年ぶり直接対決

11月のアメリカ大統領選挙で再選を目指すバイデン大統領と、返り咲きをねらうトランプ前大統領による初めてのテレビ討論会がこのあと日本時間の午前10時から始まります。前回の選挙以来、4年ぶりの直接対決です。

アメリカ大統領選挙に向けたテレビ討論会は、南部ジョージア州アトランタでこのあと日本時間の28日午前10時から始まり、全米に中継されます。

2人による直接対決は前回、2020年の大統領選挙以来、4年ぶりです。

テレビ討論会は、これまで夏の民主・共和両党の党大会で正式に党の候補者が指名された後に行われてきましたが、今回は異例の早い時期に行われます。

形式も通常の討論会と異なり、会場となるCNNテレビのスタジオには観客は入れず、司会と候補者だけで進めることになっています。

また、前回2020年の討論会で、バイデン氏とトランプ氏が互いに相手の発言を繰り返し遮り、非難の応酬になったことを踏まえ相手候補の発言中はマイクの音を切る措置がとられます。

バイデン氏とトランプ氏はインフレや移民政策、人工妊娠中絶など主要な争点について主張を戦わせるほか、双方が相手について「大統領にふさわしくない人物だ」と訴えるとみられ、激しい論戦が予想されています。

討論会では候補者の表情やしぐさなども有権者の評価につながることがあり、世論調査で支持率がきっ抗するなか、いずれかが選挙戦に弾みをつけることになるのか注目されます。

異例ずくめのTV討論会

アメリカ大統領選挙の候補者によるテレビ討論会は1960年に初めて行われて以降、毎回、大きな関心を集めてきました。

有権者の関心が高い問題について意見をぶつけ合い、大統領としての資質をアピールする機会となるため、有権者の判断にも影響を与えてきたとされています。

1960年、共和党のニクソン副大統領と、民主党のケネディ上院議員による史上初めてのテレビ討論会では、表情が硬く、疲れた様子のニクソン氏に対し、ケネディ氏は若々しく、はつらつとしていると好意的に受け止められ、選挙戦の流れをつかんで勝利を引き寄せたとされています。

2000年、民主党のゴア副大統領と共和党のブッシュ テキサス州知事との討論会では、ブッシュ氏の発言に何度もため息をつくゴア氏の姿が「人を見下している」と批判を浴びました。

また、これまでで最も多くの人が視聴したのが、2016年の共和党のトランプ氏と民主党のヒラリー・クリントン上院議員による1回目の討論会で、およそ8400万人が視聴しました。

今回のテレビ討論会は、日本時間の28日と、9月の2度、行われる予定ですが、異例ずくめです。

一つは開催時期の早さです。

これまでは、夏に行われる民主・共和両党の党大会でそれぞれ正式に候補者が指名されたあとの開催でしたが、今回は、バイデン氏もトランプ氏もまだ正式に指名されていません。

また、これまで40年近くにわたって、討論会は超党派の委員会が主催してきましたが、ことしは2回とも、テレビ局の主催です。

アメリカメディアによりますとバイデン氏の陣営は前回・4年前、主催者がトランプ氏にルールを守らせなかったなどとして不信感を強め、今回、超党派の委員会が主催する討論会には欠席する意向を伝えていました。

また、トランプ氏側も期日前投票が始まる9月よりも前に討論会を行うべきだと主張していたということです。

そして、今回は会場に聴衆を入れずに司会者と候補者だけで進められる予定で、これは1960年の討論会以来のことだということです。

4年前の討論会では

前回、4年前の大統領選挙の討論会は、9月と10月の2回行われました。

このうち1回目について、アメリカのメディアは、トランプ氏がバイデン氏の発言にたびたび割り込む一方、バイデン氏も時に乱暴な物言いをしたとして、軒並み、厳しく評価しました。

ABCテレビのジョージ・ステファノプロス氏は「これまで見てきた討論会で最悪だった」としたほか、公共放送PBSは「言葉の乱闘だった」と論評しました。

2回目は、1回目の状況を踏まえ、各議題の冒頭の発言中相手のマイクの音声を切る措置が取られたこともあり、両者とも相手の発言を遮ることなく比較的、スムーズに進められました。

NBCテレビは、3人の専門家がいずれもバイデン氏が優勢だったと評価したと伝えたほか、CNNテレビは、討論会を視聴した人を対象に調査した結果として、バイデン氏が優勢だったと回答した人の割合が多かったと報じました。

一方、保守系のFOXニュースは、バイデン氏がトランプ氏とのやりとりの中で苦労している場面も見られたなどと伝えました。

両者の支持は 「どちらも好まない」調査結果も

政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」のまとめによりますと、6月26日時点の各種世論調査の平均では
▽バイデン大統領を支持するとした人は45.1%
▽トランプ前大統領を支持するとした人は46.6%となっています。

ただ、世論調査機関「ピュー・リサーチセンター」が5月、8600人余りを対象に行った調査では、「どちらの候補も好まない」と答えた人が25%と、4人に1人に上っていて、1988年以降の10回の大統領選挙についての調査で最も高い割合だということです。

今回の大統領選挙は高齢の候補者の対決となっていて、ニューヨーク・タイムズなどが2月に980人を対象に行った調査では「有能な大統領になるには高齢すぎると思うか」という問いに対し、「強くそう思う」「ある程度そう思う」と回答した人は
▽バイデン大統領は73%だったのに対し
▽トランプ氏は42%でした。

ともに高齢にもかかわらず、バイデン大統領のほうが年齢を懸念する声が大きいことが分かります。

一方、トランプ氏については、有罪評決を受けたことへの影響が注目されています。

調査会社「イプソス」が6月、1000人余りを対象に調べたところ
▽「影響はない」と答えたのが38%だった一方
▽「支持する可能性が高くなった」は17%
▽「支持する可能性が低くなった」は33%で、
有権者の投票行動に一定の影響を与える可能性をうかがわせています。

討論会のルールは

今回の討論会に出席するのは、民主党のバイデン大統領と共和党のトランプ前大統領の2人です。

主催するCNNテレビによりますと、出席するには、指定された世論調査のうち4つの調査で少なくとも15%の支持率を獲得していることや、投票用紙に名前が掲載される州の数が一定数以上に達することなどの条件があります。

無所属での立候補を表明しているケネディ元大統領のおいのロバート・ケネディ・ジュニア氏は条件を満たさず、出席には至りませんでした。

討論会は1時間半にわたって行われ、2回のテレビCMの休憩を挟みます。

会場は南部ジョージア州のアトランタにあるCNNテレビのスタジオで、観客は入れず、討論会は司会2人と候補者だけで進めることになっています。

候補者にはペンとメモ用紙、それに水が用意されますが、事前に準備したメモ書きを持ち込むことは認められておらず、テレビCMの際の休憩時に陣営のスタッフと接触することもできません。

また、前回2020年の選挙の際の討論会で、バイデン氏とトランプ氏が互いに相手の発言を繰り返し遮るなどして非難の応酬になったことを念頭に、相手候補の発言中はマイクの音を切る措置がとられることになっています。

討論会前にSNSでも攻防激しく

バイデン大統領とトランプ前大統領は初めてのテレビ討論会を前に、SNSにそれぞれ相手を「大統領にふさわしくない人物」として描く動画を投稿し、攻勢を強めています。

このうちバイデン氏は今月17日、トランプ氏が不倫の口止め料をめぐって業務記録を改ざんした罪に問われた裁判で、有罪の評決が下されたことに焦点をあてた動画を投稿しました。

この中では、トランプ氏が34の罪で有罪になったとして「今回の選挙は自分のためだけに動く有罪評決を受けた犯罪者と、あなたの家族のために闘う大統領との対決だ」と強調しています。

また今月13日には3年前にトランプ氏の支持者らが議会に乱入した事件を取り上げ、「民主主義ほど尊いものはない。トランプは焼き尽くすつもりだ」と批判しています。

トランプ氏は自身に対する起訴などについて政治的な意図を持ったものだなどと反発していますが、バイデン氏は討論会でもトランプ氏が民主主義を攻撃しているなどと訴え、自身への支持を呼びかけるものとみられます。

一方、テレビ討論会を前にトランプ氏側は、アメリカ史上最高齢の大統領のバイデン氏の衰えととらえられるような様子を撮影した動画を投稿し、その健康状態に焦点をあてようとしています。

今月13日、イタリアで開かれたG7サミット=主要7か国首脳会議に関連して、バイデン氏がイベントに出席した際、ほかの首脳とは別の方向に1人で歩いていくように見える動画を投稿しました。

また今月16日にはオバマ元大統領と出席した選挙集会で、バイデン氏が聴衆を前に数秒間動かず、オバマ氏に腕を引かれてステージを去るように見える動画を投稿しました。

ホワイトハウスのジャンピエール報道官は17日「悪意を持ったチープフェイク動画だ」と述べてバイデン氏を攻撃するための意図的に編集された動画だと非難しました。

討論会では政策めぐり論戦が予想

一方、討論会では、大統領選挙の主要な争点をめぐっても激しい論戦が交わされる見通しです。

このうち経済政策では、トランプ氏が国内で続くインフレなどを挙げてバイデン政権の対応を批判し、「自身が経済を再建する」などとアピールする見通しなのに対し、バイデン氏は大統領就任以降、記録的な数の雇用を生み出したなどとして経済は好調だと訴えるとみられます。

また法的な手続きをせずにメキシコとの国境を越えてアメリカに入国を試みる人が急増している問題では、トランプ氏が「バイデン政権がもたらしたものだ」などとこれまでの対応を批判する見通しなのに対し、バイデン氏は、議会で共和党が国境管理を強化するための法案の成立を繰り返し阻んだと主張するものとみられます。

米ABCテレビ政治部長「政策以上に人間性が問われる」

討論会について、アメリカ、ABCテレビのリック・クライン政治部長は、個別の政策以上に、候補者としての人間性が問われることになり、一つの言動が、有権者の受け止めを変えることもありうると指摘しました。

NHKとのインタビューのなかでクライン氏は今回の討論会の焦点について「2人とも実際に大統領を務めたことがあり、当選したら2期目に何をするかも予見できる。人々が必ずしも十分に知らないのは、この2人はどのような人物で、どのような人間性を持つのかということだ。それらは討論会での生身の人間どうしの応酬のなかで見えてくるものだ」と述べ、個別の政策以上に候補者の人間性が問われることになるとの見方を示しました。

そのうえで、クライン氏は「バイデン氏が成し遂げたいのはトランプ氏とは何者で、過去に何をした人物かを人々に思い出させることだ。1月6日の議会乱入事件のことや、原則や基準を守る必要性についてバイデン氏が話さないはずがない。バイデン氏が一番、避けなければならないのは、ミスや意味の取り違えや、不明確な表現だ。これらは、とりわけ81歳と高齢の人物には大きな打撃となる」と指摘しました。

これに対し、トランプ氏が成し遂げたいことについてクライン氏は「トランプ氏としてはバイデン氏がうまく対応できなかったり、考えがまとまらずいらいらしたりするようなところを露呈させたいはずだ。トランプ氏は必ずしも自分に賛同を得られなくとも、相対的に自分のほうがよい選択肢だと示すことさえできれば勝利と言えるだろう」と述べました。

そして、クライン氏は「過去の歴史を見れば、ちょっとしたひと言や雑音、しぐさが人々の記憶に最も残ったこともある。たった一つの出来事が、候補者に対する受け止め方や考え方を変えてしまうこともある」と指摘し「討論会は、残りすべての選挙戦とは言わずとも、夏の時期の流れを決めることになるだろう」と分析しました。

移民政策も重要な争点に

今回の大統領選挙では、バイデン政権下でメキシコ国境を越えて入国を試みる人が急増したことを受けて、移民政策が、経済やインフレ、医療保険などとともに重要な争点となっています。

ABCテレビと調査会社イプソスが4月下旬に行った世論調査によりますと、アメリカ国民の69%が、メキシコ国境における移民の問題が、投票先を決める上で重要な材料になると答えました。

また、この問題をめぐりどちらの手腕を信頼するかという質問では
▽トランプ前大統領と答えた人が47%
▽バイデン大統領が30%で
トランプ氏が17ポイント、リードしています。

トランプ氏は今月18日に中西部ウィスコンシン州で行った演説で、メキシコ国境の管理をめぐり「わが国は侵略されている。恩赦ではなく侵略の食い止め方を議論すべきだ。バイデンのもたらした不法外国人を本国に送還しなければならない。そこに議論の余地はない」と述べるなど、移民に寛容なバイデン政権の政策が混乱や治安の悪化につながっていると強く批判しています。

その上で自身が大統領の時代に国境沿いに壁の建設を進めたことなどを実績としてアピールするとともに、大統領に返り咲けば、すべての国境管理政策を復活させるとしています。

また不法移民対策として「アメリカ史上最大の強制送還作戦」を実施すると宣言しているほか、国境をこえて違法な薬物を密輸する犯罪組織に打撃を与えるため軍を投入するとしています。

こうした中、メキシコと国境を接する南部テキサス州マッカレンでは、毎週末、トランプ氏の支持者らが星条旗を掲げて車で行進したり、道行く人にトランプ氏への支持を呼びかけたりしています。

今月1日、この活動に参加した女性は「バイデン大統領は国境管理について何もしていない。誰でも国境を越えられるなんて恐ろしいことだ」と批判しました。

また、男性の1人は「シカゴやニューヨークのような民主党の伝統的な地盤でも、不法に国境を越えてきた人が地域の財源を食いつぶすことに腹を立てて多くの人が共和党支持に乗り換えている」と話していました。

一方のバイデン大統領は政権発足以来、移民に寛容な政策を進めてきました。

しかし入国を希望する大勢の人たちが国境に押し寄せ、混乱が広がる中、去年10月、トランプ氏が大統領時代に進めた国境沿いの壁の建設を認める方針を一転して表明しました。

さらに今月には、メキシコとの国境を越えて入国を試みる人が一定の人数を超えた場合は亡命申請を受理しないとする大統領令を出し、国境管理の強化に乗り出しました。

一方で、バイデン政権は今月、法的な手続きをせずにアメリカに入国した人のうち、アメリカ国民と結婚し、長期間、住んでいる場合に、永住権の申請をしやすくする措置も発表しました。

国境管理の強化に対し反発の声も上がるなか、移民に寛容な政策を求めるリベラル層に配慮するねらいもあるとみられ、大統領選挙に向けて難しい対応を迫られています。