富士山 山頂火口で3人死亡 1人は東京・日野市の53歳男性と確認

26日、富士山山頂の火口で死亡が確認された登山者とみられる3人のうち、すでに搬送された1人は東京・日野市の53歳の男性会社員と確認されました。警察は残る2人については天候の回復を待って搬送することにしていて、3人がそれぞれ別々に登山をしていたとみて詳しい状況を調べています。

死亡が確認されたのは、東京・日野市の会社員、芝田渉さん(53)です。

警察によりますと、6月23日の朝、芝田さんの妻から「夫が富士山に登山に行ったあと連絡がとれなくなった」と届け出があり、警察がヘリコプターなどで捜索していたところ、富士山山頂の静岡県側の火口であわせて3人がそれぞれ少し離れた場所で倒れているのが見つかり、26日現場で全員の死亡が確認されました。

警察が3人のうちこれまでに1人の遺体を警察署に搬送し、芝田さんと確認されました。芝田さんの体には滑落によってできたとみられる外傷があったほか、近くにはショートスキーの板があったということです。

残る2人について、警察は悪天候や救助隊の安全面などを考慮して27日の搬送は行わず、天候の回復を待って29日以降に搬送することにしています。

警察は現場の状況などから、3人がそれぞれ別々に登山をしていたとみて詳しい状況を調べています。

また、富士山ではことし1月には静岡県側で、去年12月には山梨県側で、それぞれ1人の行方不明届が出されているということで、今回見つかった2人との関連についても調べています。

山小屋経営者 “山頂に行けば倍以上の強風”

静岡県小山町の富士山の須走口5合目で山小屋を経営する米山千晴さんは東京・日野市の男性が富士山に登ったとみられる6月22日の状況について、「ガイドが山小屋の近くでお客さんの案内をしていたが、風速20メートルぐらいの風が吹いていたと話していた。山頂に行けば倍以上の強風だと思われ、そのぐらいの風にあおられると、人間の体はひとたまりもなくもっていかれてしまう」と話していました。

また、男性の家族の依頼で山小屋に来た関係者から聞いた話として、「男性はスキーが好きで、ショートスキーを持って行ったらしいという話を聞いた」と話していました。一方、閉山期間中の登山について、米山さんは「自己責任だと承知の上で登る人は多いが、山小屋が開いておらず、登山者も少ない中で、万が一転んだり滑落したりしても誰も見ていないし、捜すすべがない。山小屋が開いてから登山したほうがよいと常々思っている」と述べました。

その上で、夏のシーズンの富士山については、天候が急変しやすく注意が必要だとして、「登山に訪れる場合はしっかりとした装備を用意し、防寒対策をした上で、雪の上にはのらないように気をつけてほしい」と呼びかけました。

山梨県側の8合目付近でも 男性1人が死亡

一方、26日午前11時すぎには、富士山の山梨県側の8合目付近の登山道を登っていた男性から「一緒に登山していた知人が体調不良になり、その後、意識がなくなった」と警察に通報がありました。

警察によりますと、意識不明になったのは群馬県に住む38歳の男性で、「クローラー」と呼ばれる特殊な車両で5合目まで運ばれ、その後、救急車で富士河口湖町の病院に搬送されましたが、その後、死亡が確認されました。

警察は知人から話を聞くなどして、登山の詳しい状況を調べています。

富士山の山開きは来月1日で、警察は「十分な経験があり、万全な準備をしていても山岳遭難事故が発生していることから、閉山期間中の登山は自粛してください」と注意を呼びかけています。

氷点下の日も 山開き前の登山は”誰も手助けしてくれない”

気象庁が富士山の山頂に設置している観測点では、6月21日から26日にかけて最低気温が1度前後まで下がり、氷点下を記録した日もありました。

国内外で山岳ガイドを務める日本山岳ガイド協会の武川俊二理事長に、山開きの前に富士山に登る難しさについて聞きました。

「山小屋もなく登山コースも整備されていないため、手助けをしてくれる人が誰もいない状態の中で登山することになる。6月はまだ残雪期で冬山とあまり変わらず、汗をかいたり濡れたりするとあっという間に体温が奪われてしまい、普通の冬山を少し経験したような人ではとても太刀打ちできない」

その上で、7月の山開きに向けて事前の登山計画と服装などの準備が重要だと言います。

「富士山の場合は夕立になると猛烈な雨が降って芯までぬれてしまい、寒いのを我慢していると酸欠や高山病にもなりやすい。上下が分かれた雨具を用意して雨がちょっとでも降り出したらすぐに着るよう心がけるとともに、ぬれても温かい速乾性の下着やアンダーウェアを着てほしい。また、どの辺りでどのくらいの休憩ができるのか、水分補給はどのくらいできるのか、計画を立ててもらいたい」
「富士山は天候が変わりやすく、雷が鳴りそうな雲の気配があったら山小屋に逃げることを意識してほしい」

静岡県側の遭難事故 去年は前の年より2割余増加

富士山の静岡県側では、去年の夏山シーズンに前の年より2割余り多い、63件の遭難事故が起きています。

静岡県警察本部によりますと、富士山の静岡県側では去年7月10日の山開きから9月10日の閉山までに、あわせて63件の遭難が発生して、2人が死亡、18人がけがをしました。

新型コロナウイルスの感染拡大前とほぼ同じ水準となった前の年の同じ時期に比べて13件、率にして2割余り増えていて、増加傾向にあります。

原因別では
▽高山病や低体温症などの病気が26人
▽転倒が18人
▽疲労による歩行困難が12人
などとなっています。

静岡県警察本部地域課は「これから山開きの時期になるが、食料や雨具など必要な装備品を準備した上で、体調に気をつけながら入山してほしい」と呼びかけています。

山梨県側の遭難事故 去年は前の年より増加

山梨県警察本部によりますと、富士山の山梨県側では去年7月1日の山開きから9月10日の閉山までに、前の年より3件多いあわせて6件の遭難が発生して、4人がけがをしました。

遭難の原因別では、「転倒」が4人、登山ルートが分からなくなるといった「道迷い」が2人でした。

閉山期間も登山者相次ぐ

富士山は現在、閉山期間となっていて、山頂につながる登山道は閉鎖されていますが、登山に訪れる人は相次いでいます。

富士山には静岡県側に富士宮口、御殿場口、須走口、山梨県側には富士吉田口とあわせて4つの登山道があり、例年、静岡県側は7月10日ごろに、山梨県側は7月1日にそれぞれ山開きを迎えます。

静岡県側では現在、富士宮口では6合目に、御殿場口と須走口では5合目にそれぞれバリケードを設置して通行を規制していますが、県によりますと、この時期も登山に訪れる人は相次いでいるということです。

静岡県では例年、山開きの前に登山道の確認や補修を行っていますが、閉山期間中は登山道の管理が十分にできていないということです。

また、頂上付近では雪が残るほど気温が低い状況が続いていますが、山開きの前は山小屋の多くが営業しておらず、救護所も運営していないということです。

静岡県富士山世界遺産課は「閉山期間中の富士山は登山の環境が整っておらず大変危険なので、登山を控えてほしい。今後、環境省や山梨県とも連携して注意喚起に努めたい」と話しています。

また、山梨県富士吉田市の富士山課は「開山前の冬季閉鎖期間中は登山道の安全が確保されていない。登山をするのはやめてほしい」と注意を呼びかけています。