天皇皇后両陛下 イギリスへ出発 国賓として公式訪問

天皇皇后両陛下は、国賓としてイギリスを公式訪問するため、22日午前、政府専用機で東京の羽田空港を出発されました。

両陛下は、午前11時前に車で羽田空港に到着し、見送りのため集まった秋篠宮ご夫妻や、最高裁判所の戸倉長官、それに駐日イギリス臨時大使らとあいさつを交わされました。

そして、政府専用機に乗り込み、イギリスに向けて出発されました。

両陛下が国際親善のため外国を公式訪問するのは即位後2回目で、現地時間の22日午後に首都ロンドンに到着される予定です。

今回の訪問はチャールズ国王からの招待を受けたもので、両陛下は25日に、国賓として歓迎式典やバッキンガム宮殿で開かれる晩さん会に臨まれます。

天皇陛下は27日に、ウィンザー城にあるイギリス王室の墓所を訪ねて、エリザベス女王と夫のフィリップ殿下の墓に花を供えられる予定です。

そして、現地日程最終日の28日には、皇后さまとともにかつておふたりが学んだオックスフォード大学を訪問し、29日に帰国されます。

両陛下の国賓としてのイギリス公式訪問は、4年前に当時のエリザベス女王からの招待を受けて両国の間で調整が進められたものの、新型コロナの感染拡大を考慮して延期されていました。

皇室と英国王室の交流の歴史

皇室とイギリスの王室は古くから親密な関係にあり、相互に訪問を重ねながら交流を続けてきました。

155年前の明治2年にイギリスのアルフレッド王子が来日すると、明治天皇は国賓の礼をもってもてなすよう命じ、参内した王子と面会しました。

大正10年には、当時皇太子だった昭和天皇が初めての外国訪問でヨーロッパ諸国を歴訪する中でイギリスを訪れ、国王ジョージ5世の歓待を受けました。

昭和天皇は、のちに、この時のヨーロッパ訪問で最も影響を受けたことについて「ジョージ5世から立憲政治の在り方について聞いたことが終生の考えの根本にある」と語っています。

しかし、訪問の2年後には21年余り続いた日英同盟が失効し、第2次世界大戦では戦火を交えることになりました。

戦後、イギリス王室との交流が本格的に再開されたのは、ロンドンで行われたエリザベス女王の戴冠式(たいかんしき)に、当時皇太子だった上皇さまが昭和天皇の名代として参列された昭和28年の訪問です。

イギリス国内では日本に対する厳しい国民感情が残っていましたが、女王は一緒に競馬を観戦するなど初めて訪問された当時19歳の上皇さまを温かく迎えました。

これまでに、天皇による国賓としてのイギリス訪問は2回、イギリスの君主による国賓としての来日は1回ありました。

昭和46年には、昭和天皇が、天皇として歴史上初めてとなる外国訪問でヨーロッパ諸国を歴訪する中で、香淳皇后とともにイギリスを訪問しました。

滞在中に開かれた晩さん会でのおことばで、昭和天皇は先の大戦に触れませんでしたが、エリザベス女王は「両国民間の関係が常に平和であり友好的であったとは申すことができません。しかし、この経験ゆえにわたくしどもは二度と同じことが起きてはならないと決意を固くするものであります」などと述べました。

その4年後の昭和50年には、エリザベス女王がイギリスの君主として初めて日本を訪れ、夫のフィリップ殿下とともに京都や三重県の伊勢神宮などを訪ねて、多くの人から歓迎を受けました。

そして、平成10年には、上皇ご夫妻が国賓としてイギリスを訪問されました。

現地では、戦後50年を経ても、先の大戦で旧日本軍の捕虜になった元軍人などから反発する声が上がっていました。

バッキンガム宮殿で開かれた晩さん会で、上皇さまは、先の大戦に触れ「両国の間に二度とこのような歴史の刻まれぬことを衷心より願うとともに、このような過去の苦しみを経ながらも、その後計り知れぬ努力をもって、両国の未来の友好のために力を尽くしてこられた人々に、深い敬意と感謝の念を表したく思います」と述べられました。

上皇ご夫妻はこのあと、平成24年にもエリザベス女王の即位60年を祝う行事に出席するためイギリスを公式訪問し、旧交を温められています。

歴代の天皇で初めて外国への留学を経験した天皇陛下は、イギリスのオックスフォード大学で昭和58年から2年間学び、150人の学生とともに寮生活を送る中でその後の人生に大きな影響を及ぼす経験をされました。

滞在中はイギリス王室との交流もあり、天皇陛下は、今回の訪問を前に行われた記者会見で、「留学中にも、英国王室の方々から、様々な形でお心遣いを頂きました。英国に到着した翌々日、エリザベス女王陛下からバッキンガム宮殿でのお茶に御招待いただき、女王陛下御自身で紅茶をいれてくださるなど、くつろいだ雰囲気の中で、楽しいひとときを過ごさせていただきました」と話されています。

その翌年には、スコットランドのバルモラル城に招かれて滞在し、女王一家とともにバーベキューを楽しむなどして過ごされたということです。

この時のことについて、天皇陛下は記者会見で「当時のチャールズ皇太子殿下とは、バルモラル城近くの川で毛鉤で魚を釣るフライフィッシングを御一緒しました。私自身フライフィッシングは初めての経験でしたが、皇太子殿下から毛鉤の付け方や毛鉤の投げ方などを丁寧に教えていただきました。二人そろってウェーダーという胴付長靴を履いて川の中に入り、近くで大きな魚が跳ねるのを見たのですが、二人とも収穫はありませんでした。このように、女王陛下を始めとする英国王室の皆様に家族の一員であるかのような心温まるおもてなしを頂いたことが懐かしく思い出されます」と振り返られました。

天皇陛下は、留学を終えたあと、これまでに4回イギリスを公式訪問し、イギリス王室との交流を深められてきました。

このうち、平成13年の訪問では、天皇陛下は、ハイドパークで行われた日本文化を紹介する催しで、当時皇太子だったチャールズ国王とともに阿波踊りを踊り、帰国前の記者会見で「意外に難しいものでしたが、大変面白い経験をすることができました」と感想を述べられていました。

また、おととし、エリザベス女王が96歳で亡くなり国葬が行われた際には、即位後初の外国訪問として天皇陛下が皇后さまとともにイギリスを訪問し、葬儀に参列されました。天皇が外国の王室や元首の葬儀に参列することは皇室の慣例からして異例のことですが、皇室とイギリス王室が古くから親密な関係にあることなどこれまでの交流や関係性から、おふたりで参列されました。

葬儀の前日にバッキンガム宮殿で行われたレセプションで、天皇陛下はチャールズ国王に弔意を伝え、固い握手を交わされました。

一方、チャールズ国王は、皇太子時代に5回来日しています。1回目は昭和45年で、大阪万博の会場を訪れ、昭和天皇や香淳皇后、それに上皇ご夫妻と面会しました。

結婚の5年後の昭和61年に訪問した際には、当時皇太子妃だったダイアナさんとともに東京でパレードを行い、沿道には10万人近くが詰めかけました。

さらに、平成2年に上皇さまの即位の礼に参列し、平成20年に日本とイギリスが外交関係を結んでから150年になるのに合わせてカミラ王妃とともに来日したほか、令和元年には天皇陛下の即位の礼にも参列しました。

英駐日大使「英王室との強い絆と友好を改めて象徴」

イギリスのロングボトム駐日大使は、両陛下の訪問を前に東京都内の大使館で記者団の取材に応じ「チャールズ国王の即位から1年のこのタイミングで、国賓として両陛下をお迎えできることは、両国にとって非常に意義あることで、最上級のおもてなしを用意しています」と話しました。

そのうえで「皇室とイギリス王室は明治時代から150年以上にわたる長い交流が続いています。初の外国訪問としての、2020年のエリザベス女王の招待による訪問は残念ながらかないませんでしたが、その後、国葬への参列という形ながら即位後初の外国訪問で渡英されたことは大変感慨深いです。昭和天皇と香淳皇后、上皇ご夫妻、そして今回と、3代にわたり国賓として英国をご訪問いただくことになります。今回の訪英はイギリス王室と皇室の強い絆と友好を改めて象徴しています」と述べました。

そして「これまでに日本を5回訪問しているチャールズ国王は、数多くの企業・団体や日本の方々との交流を通じて、日本への敬愛の念を抱いています。今回の訪問で日英関係がさらに深まり強化されると私は確信していますし、両陛下はイギリス国民の非常に厚い尊敬を集められる存在なので、両国の関係の強さを世の中に示す訪問になると思う」と語りました。

さらに「天皇陛下は著書の中で、同じくオックスフォードで学ばれた皇后さまと『イギリスの地を再び訪れることができることを願っている』と記されていて、今回それが実現することを喜ばしく思います」と話していました。

専門家「未来志向の訪問に」

イギリスの政治外交史が専門でイギリス王室に詳しい関東学院大学の君塚直隆教授は「外交には、条約や同盟を結ぶなど何かを決めていくハードの外交と、皇室や王室の国際親善のような何かを決めずとも関係に継続性と安定性を与えることができるソフトの外交がある。昭和、平成、令和と3代の天皇が訪問されることは非常に大きな意味がある」と話しました。

そのうえで「日本とイギリスは、ビクトリア女王と明治天皇の時代から、イギリスは7代、日本は5代、それぞれの君主が連綿と関係を結んできて、今回の訪問にはその再確認という意味もある。前回の上皇ご夫妻の国賓訪問の時はまだ20世紀で戦後のしこりが残っていたが、21世紀になり、天皇もイギリスの国王も戦後生まれの世代になり、もちろん戦争は忘れてはいけないが今回の訪問はもっと未来志向を目指していくようなものになるだろう」と述べました。

さらに「皇室にとってイギリス王室は特別な存在で、オックスフォードを含めていろいろな思い出が詰まっていて、万感胸に抱いて行かれると思うので、本当にいい旅になるだろう。家族ぐるみのおつきあいが今の代になってさらに親密になっているといっても過言ではなく、天皇陛下は第2のふるさとに戻られるような気持ちだと思う。天皇陛下とチャールズ国王の半世紀以上の関係と、さらにその3倍に及ぶ皇室とイギリス王室の関係、今回の訪問ではこの両方の側面でいろいろなシーンが見られるだろう」と話していました。

天皇陛下の留学当時に大学の寮で隣の部屋だった人は

アメリカ南部ウエストバージニア州の弁護士キース・ジョージさんは天皇陛下と同じ時期に、オックスフォード大学のマートン・コレッジに留学していました。

天皇陛下とは、留学当時の称号「浩宮」から、「ヒロ」と「キース」と呼び合っていたということで「オックスフォードで本当の学生生活を経験したかったのだと思います。肩書きで特別扱いされることは望んでいませんでした」と互いの関係について話しました。

ジョージさんは大学の寮では隣の部屋だったということで「当時はスマートフォンもなく『きょうは何してる?外出してレストランに行かない?』とメッセージを送ることもできませんでした。そのため少し階段を上った隣の部屋のドアをノックして伝え、出かけていました」と当時の交流を振り返りました。

フランス料理店やピザ店、パブなどに出かけたり、散歩をしたりして一緒に過ごしたほか、友人たちと一緒に音楽を楽しむ際には天皇陛下はビオラを演奏されたということで「学生生活を本当に楽しんでいる人でした。ユーモアのセンスに富んでいて笑うことや楽しいことが大好きでした」と印象を語っていました。

今回、天皇陛下がオックスフォード大学を訪問されることについて「きっとマートン・コレッジに行きたいと思っていることでしょう。私たちが一緒に過ごした思い出が浮かんでくるはずです」と話していました。

卒業後も連絡を取り合い、天皇皇后両陛下の結婚の際には東京に招かれるなど、親交を深めてきたということで「いつも良き友人でいられたことは光栄です。いつの日かまた直接お目にかかり、娘どうしも知り合えることを望んでいます」と再会を心待ちにしていました。