安倍派会計責任者 キックバック “ある幹部が再開求めた”

自民党安倍派の政治資金パーティーをめぐり、派閥の収支報告書に虚偽記載した罪に問われている会計責任者の裁判で被告人質問が行われ、一度は中止の方針が示されたキックバックが続けられた経緯について、会計責任者は「ある幹部から求められた」と述べました。

安倍派「清和政策研究会」の会計責任者、松本淳一郎被告(76)は、2022年までの5年間で、合わせておよそ6億7500万円のパーティー収入などを、派閥の政治資金収支報告書に記載しなかったとして、政治資金規正法違反の虚偽記載の罪に問われていて、5月の初公判で起訴された内容を大筋で認めています。

18日に東京地方裁判所で開かれた2回目の裁判で、弁護士による被告人質問が行われました。

松本会計責任者は、2022年に当時の安倍会長からパーティー収入のキックバックを中止する方針が示されたあとの経緯について、「2022年7月末、ある幹部から『ある議員が還付をしてほしいと言っている』という話があった。私は塩谷会長代理に相談して、幹部を集めていただきたいとお願いし、下村さん、西村さん、世耕さん、塩谷さんが集まって話し合いが持たれた。いろいろな議論があったが、方向性として還付はしようということになった」と述べました。

ただ、「ある幹部」が、誰かについて弁護士は質問せず、松本会計責任者も名前を言いませんでした。

また、キックバックや収支報告書への不記載について、前任者から引き継ぎがあったかという質問に対しては、「おおまかな説明はあった」と答えた一方、いわゆる「中抜き」については、「説明はなかった」と話しました。

そして最後に「かねて、このやり方を踏襲してきたが、やめると考えればよかった。世の中に疑惑を持たせてしまい反省している。おわびしたい」と謝罪しました。

《被告人質問 詳細》

安倍派の松本会計責任者は18日の被告人質問で、パーティー収入のキックバックが続けられた経緯などについて法廷で語りました。

ノルマは「会長の指示」

検察の冒頭陳述によりますと、安倍派では当選回数などに応じて所属議員に派閥のパーティー券の販売ノルマが設定されていました。

これについて、松本会計責任者は「ノルマをどれくらいにしたらいいか私が決めて、会長に説明した。会長から『これで行け』と指示が出てから、ノルマについて連絡した」と述べました。

また安倍派では、ノルマを超えて集めた分については議員側にキックバックし、その分を派閥の収支報告書に記載していませんでした。

こうした運用について松本会計責任者は「パーティーが終わってある程度、時期がたつと入金状況がわかる。それをもとに資料を作成して会長に説明し、『これでいい』とゴーサインが出てから具体的な作業をした」と述べ、派閥の会長が最終的に決めていたと説明しました。

一方、キックバックをめぐる議員側との具体的なやり取りについては説明がなく、それぞれの議員側が収支報告書に記載しなかった経緯などは明らかになりませんでした。

安倍会長の指示で「還付をやめる」

キックバックをめぐってはおととし、派閥の会長だった安倍元総理大臣がやめるよう指示したとされています。

この時のことについて、松本会計責任者は「安倍氏から『今のやり方にいろいろ問題があるんじゃないか』と言われ、会長の指示で幹部が集まった。4月初めの会合に塩谷さん、下村さん、西村さん、世耕さん、それと私、安倍会長が出て、還付をやめるという結論が出た」と述べました。

“ある幹部” が還付求める

しかし、安倍元総理大臣が死去した翌月の2022年8月、幹部が集まった会合で最終的にキックバックが継続されたとされています。

このいきさつについて、松本会計責任者は「2022年7月末にある幹部から、『ある議員が還付をしてほしいと言っている』という話があった。私は当時の塩谷会長代理に幹部を集めていただきたいとお願いした」と説明しました。

その会合には松本会計責任者のほか、西村氏、塩谷氏、世耕氏、下村氏が出席したということで、「いろいろな議論があったが方向性として還付はしようということになった。還付してほしい会員がほかにもいるということでやむなしということで決まった」と述べました。

この要求をした「ある幹部」について、松本会計責任者は名前を明かさず、弁護士も尋ねませんでした。

“中抜き” の認識は2020年から

松本会計責任者は5月の初公判で、起訴された内容を大筋で認めましたが、議員側が行ったいわゆる「中抜き」の一部については認識がないと主張しました。

この点について、松本会計責任者は18日の裁判で、前任者からキックバックや収支報告書への不記載についておおまかな説明があった一方、「中抜き」については「前任者から説明はなかった。2020年からおぼろげに認識していた」と話しました。

また「中抜き」について、「こんなにあるものかなと正直びっくりした。私たちもそこまで踏み込んでいなかった。それを私たちが明らかにできなかったことは大きな反省です」と述べました。

「やめると考えればよかった」

今回の事件の責任や影響について尋ねられると、「会計責任者としての責任を十分果たしたとは言えず、おわびしたい。かねてこのやり方を踏襲してきたが、やめると考えればよかった」と述べました。

傍聴した人「誠実に対応している印象」

裁判を傍聴した都内に住む69歳の男性は、「本人の口から何が話されるのか、当事者はどういう思いだったのかを聞ければと思い傍聴しました。質問に誠実に対応している印象を受けました。政治の変わり目が来ていると感じました」と話していました。