ウクライナ提唱の和平案実現に向けた「平和サミット」15日から

ロシアによる軍事侵攻が続く中、ウクライナが提唱する和平案の実現に向けて首脳級などが話し合う国際会議が、15日からスイスで始まります。ウクライナとしては、100の国などが参加する会議で結束を強調し、ロシアへの圧力につなげたい考えです。

ウクライナが提唱する和平案の実現に向けた国際会議「平和サミット」が、15日から16日までの日程でスイス中部のビュルゲンシュトックで始まります。

スイス政府は14日、100の国と国際機関から首脳級などが参加すると発表しました。

NHKが入手した会議の共同声明案によりますと、ウクライナが提唱する10項目の和平案のうち、今回は「原発の安全確保」と「食料安全保障」などの3つの項目に絞って議論されることになっています。

一方、ウクライナが訴え続けている「ロシア軍の撤退」や「領土の回復」といった項目には触れられておらず、ロシアとの関係も重視する一部の参加国に配慮したとみられています。

ウクライナのゼレンスキー大統領は13日、SNSに投稿し、「平和サミット」について「われわれは公正な平和の実現に向けた第一歩を踏み出す」と投稿し、会議の成果に期待を示しました。

ウクライナとしては、欧米側だけでなくグローバル・サウスと呼ばれる新興国も含め多くの国が参加する見通しの会議で共同声明を採択して結束を強調し、軍事侵攻を続けるロシアへの圧力につなげたい考えです。

「平和サミット」開催までの経緯

ウクライナが提唱する和平案の実現に向けた国際会議は、首脳級などが参加する形式では今回が初めてですが、これまでは、各国政府の安全保障担当の高官などによる公式の協議が4回開催されたほか、非公式の協議も2回開かれてきました。

初の公式協議は去年6月にデンマークで開かれ、当初からG7=主要7か国だけでなく、インドやブラジル、それにトルコなどグローバル・サウスと呼ばれる新興国も出席してきました。

ウクライナとしては、みずからが提唱する和平案に対して欧米諸国だけでなく新興国も含めた幅広い支持を得ることで結束を強調し、軍事侵攻を続けるロシアへの圧力にしたいというねらいがあります。

ただ、新興国の中にはロシアとの関係も重視する国々も含まれ、こうした国々はこれまでの協議で共同声明の採択に反対し、ことし1月にスイスのダボスで開かれた公式協議でも、議長国だけの判断で出せる議長声明の発表さえも見送られ、メディア向けの声明の発表にとどまりました。

また、外交筋によりますと、去年12月にサウジアラビアで開かれた非公式協議では、複数の新興国の高官から軍事侵攻による死傷者をこれ以上増やさないためにと、ウクライナに対してロシアとの停戦に応じるよう説得する発言が相次いだということです。

これに対しウクライナ側は「立場は変わらない」として徹底抗戦を続ける姿勢を強調したということで、ウクライナにとっては和平案を支持する国を増やそうとすればするほど意見がまとまらないというジレンマが続いてきました。

そして、首脳級などが参加する今回の会議についても、ウクライナ側は軍事侵攻から2年となることし2月に開きたい方針でしたが、調整がつかず断念し、ようやく今回の開催にこぎ着けました。

ロシアは批判「ロシアが参加しない会議に意味はない」

「平和サミット」について、ロシアは「ロシアが参加しない会議に意味はない」と述べて、繰り返し批判してきました。

プーチン大統領は5月17日、訪問先の中国で行った会見で「ロシアは参加に消極的だと非難されるが、招待されていないのだ。彼らはできるだけ多くの人を集め、全員で合意して解決済みだとして、ロシアに最後通告を突きつけるつもりだ」と批判しました。

また、14日に外務省の高官らを前にした演説でも「彼らはウクライナ紛争の背後にある根本的な原因などについて議論するつもりはないのだ。ロシアに対する新たな非難に終始するだろう」と述べて突き放しました。

また、ラブロフ外相は6月10日、中国の王毅外相と会談し、「平和サミット」に中国も欠席する方針を示したことに謝意を示す一方、「この会議はロシアの公平な参加などが検討されていない」として改めて批判しました。

ロシアは、ウクライナが進める「平和サミット」は、和平を実現するための機会にはなりえないと強調して意義を否定するとともに、中国などと連携を強め、いずれ始まる交渉に向けてロシアにとって有利となるような環境を作り出していくねらいがあるとみられます。

中国「国際社会の普遍的な期待とは隔たり 参加難しい」

中国は「中国側の要求や国際社会の普遍的な期待とは明らかな隔たりがあり、参加は難しい」として欠席するとしています。

中国としては、ロシアとウクライナの双方が会議を認め、すべての和平案が公平に議論されることなどが開催の条件だと主張し、不参加のロシアと足並みをそろえた形です。

これに対しウクライナは、ゼレンスキー大統領が6月2日、中国が各国に対してサミットに参加しないよう働きかけていると批判したほか、シビハ第1外務次官が中国の欠席表明のあと、5日に北京を訪れ、孫衛東外務次官に直接参加を求めました。

しかし中国は「ほかの国に圧力をかけるという状況は全く存在しない」と、ゼレンスキー大統領の主張を全面的に否定し、欠席の判断も覆しませんでした。

一方で中国は、5月23日、ブラジルとともに「ウクライナ危機の政治的解決」に関する提案を独自に発表し、この中でロシアとウクライナの双方が認める会議の開催などを主張しています。

これについて、中国は「今月10日までに101の国と国際機関から前向きな回答があった」としていて、「平和サミット」に対抗する形で中国の提案への支持を各国に働きかけているとみられます。