旧優生保護法で不妊手術強制 国に賠償命じる 静岡地裁浜松支部

旧優生保護法のもとで不妊手術を強制されたとして、視覚に障害がある浜松市の75歳の女性が国に賠償を求めた裁判で、静岡地方裁判所浜松支部は、女性の訴えを認め、この法律が憲法に違反するとして国に賠償を命じました。

浜松市の武藤千重子さん(75)は、旧優生保護法のもと、視覚に障害があることを理由に1977年に不妊手術を強制されたとして、国に3300万円の賠償を求めていました。

27日の判決で静岡地方裁判所浜松支部の佐藤卓裁判長は、旧優生保護法は憲法に違反すると判断し、「子どもを産みたいという希望や夢を理不尽にも奪われた原告の苦痛は甚大だ」と指摘しました。

その上で「手術から20年以上が経過し、賠償を求める権利がなくなる『除斥期間』が適用される」という国の主張については「国が障害のある人に対する社会的な差別や偏見を正当化し、助長したため、原告は訴えを起こす前提となる情報へのアクセスが著しく困難になっていた。『除斥期間』の適用をそのまま認めることは、著しく正義・公平の理念に反する」と指摘し、国の賠償責任を認め1650万円を支払うよう命じました。

全国で起こされている同様の裁判で、国の賠償責任を認める判決は今回で11件目です。

旧優生保護法をめぐっては、最高裁判所大法廷が上告されている5件について当事者の主張を聞く弁論を29日開き、この夏にも統一判断を示す見通しです。

原告の武藤さん「間違っていたということ国は認めてもらいたい」

判決のあと、浜松市中央区に住む原告の武藤千重子さん(75)は「裁判が始まってから4年になるので本当に長かったです。この1週間ほどよく寝ることができませんでしたが、裁判長は私のことをちゃんと見ていてくれたんだと思って、うれしかったです」と述べました。

そのうえで「28歳のときの弱かった自分にかたをつけてあげたいと思ったので、75歳でちゃんとかたをつけてあげられたので、『武藤千重子』と名乗ってよかったと思います」と話していました。

武藤さんは、「網膜色素変性症」という重い目の病気を患い、30代のころに視力を失いました。

不妊手術を受けたのは、47年前の28歳のときでした。

このとき、視力がかなり悪化していた武藤さんは、浜松市内の病院で次女を出産した数時間後に、産婦人科の看護師から突然、手術を受けるよう迫られたといいます。

当時のやりとりについて武藤さんは「看護師から『3人目の子どもはいらないでしょう』と聞かれたので、『男の子を産みたいからほしい』と言いましたが、『目が悪くてあなた育てられるの』と怒られました。当時は障害者に優しくない社会でした」と振り返りました。

このやりとりの翌日、手術内容についての具体的な説明もないまま、手術を受けたということです。

5年前の2019年、武藤さんは視覚障害者のためのインターネットの図書館を利用した際、偶然、旧優生保護法の問題を取り上げた書籍を見つけました。

このとき初めて、自身が法律に基づく手術を受けたことを知ったといいます。

武藤さんは弁護士に相談し、1年後の2020年7月に、実名を公表して国に賠償を求める訴えを起こしました。

そして、去年9月に行われた原告本人への尋問では、裁判官に対し「法律が間違っていたということを、国は認めてもらいたい」と強く訴えていました。

こども家庭庁「適切に対応していきたい」

こども家庭庁は「今後の対応については判決内容を精査し、関係省庁と協議したうえで適切に対応していきたい」とコメントしています。