大相撲 大の里が初優勝 初土俵から7場所目は最速

大相撲夏場所は千秋楽の26日、23歳の新小結 大の里が12勝3敗の成績で初優勝を果たしました。初土俵から7場所目での初優勝は、幕下付け出しの力士としては最も早い記録となります。

記事後半では大の里の優勝インタビューの全文や、スピード出世の要因解説などをお伝えしています。

夏場所は14日目を終え、3敗で大の里がトップに立ち、星の差1つの4敗で琴櫻、豊昇龍の大関2人と、関脇 阿炎、前頭筆頭の大栄翔の4人が追っていました。

千秋楽の26日、大の里は関脇 阿炎と対戦し、相手の得意な突き押しにもひるまず前に出て「押し出し」で勝ち、12勝3敗として初優勝を果たしました。

大の里は今場所からちょんまげを結ったばかりで、先場所、新入幕優勝を果たした尊富士に続いて、大いちょうを結えない力士の優勝となり、日本相撲協会では初めてのことだとしています。

幕下付け出しでデビューした力士のうち、初土俵からの優勝がこれまで最も早かったのは元横綱 輪島の15場所目で、7場所目の大の里は大幅に記録を更新しました。

また、初土俵から7場所目での初優勝は優勝制度ができた明治42年以降、尊富士の10場所目を抜いて、最も早い記録となりました。

大の里は新三役として臨んだ今場所、立ち合いでの力強い当たりと、右を差してからの一気の攻めを持ち味に、初日に横綱 照ノ富士を破ると、大関 琴櫻や霧島にも勝つなど白星を重ねました。

そして、10日目に平幕の豪ノ山に勝って勝ち越しを決めると、14日目には3場所連続となる11勝目を挙げて、単独トップに立ちました。

今場所は横綱 照ノ富士や、貴景勝、霧島の2人の大関など三役以上の力士の休場が相次いだ中、将来の横綱とも期待される23歳がその実力を示しました。

大の里「優勝はずっと意識していた」

優勝した大の里は、目に涙を浮かべながら支度部屋に戻り「優勝したんだなと実感が沸いた。優勝はずっと意識していた。15日間は長かったが、最高の結果で終われてよかった」と喜びを語りました。
25日、師匠で元横綱 稀勢の里の二所ノ関親方から「これが終わりじゃないぞ」と声をかけられていたことを明かし「そのことばを聞いて気持ちが楽になった。この一番に集中することができた」と話しました。
そして「親方の言うことを守って、稽古に精進して上へ上へと頑張りたい」と次の目標を見据えていました。

優勝インタビューでは「初場所と春場所で惜しいところまでいったが、優勝できなかった。初場所から幕内での優勝が夢から目標に変わり、その目標を達成できてうれしい」と喜びを語りました。
優勝を決めたあと、土俵下で待っているときの心境については「きのう親方からは優勝しても喜ぶなと言われたので、冷静にということを意識していた」と話していました。
また「去年、夏場所でデビューして1年後に幕内で優勝することは、想像していなかったのでうれしい」と率直な思いを述べました。

そして、ことし1月に能登半島地震で被災した地元の石川県に向けては「優勝する姿を石川県の方に見せられてうれしい」と述べ、最後に「強いお相撲さんになっていきたい」と力強く話しました。

【全文】大の里 初優勝インタビュー

Q.優勝おめでとうございます。

大の里
「ありがとうございます」

Q.初優勝して今、どんなお気持ちですか?

「本当に1月、3月と惜しいところまで行ったんですけど優勝できなくて。こうやって5月場所でチャンスをものにできてうれしいです」

Q.勝った瞬間は覚えていますか?

「覚えています」

Q.どんな感覚でしたか?

「いや、もう歓声がすごくて、実感がすごい、優勝したんだなというのが改めてわきました」

Q.土俵下でどんな思いがよみがえってきましたか?

「きのう親方からは『優勝しても喜ぶな』と言われたので。冷静に冷静にということを意識していました」

Q.家族もこの会場に来ていて、お父さんが涙を流していました。

「うれしいです」

Q.まだ1年前に入門したばかりで、今この場所にいるのは、どんな感覚なんですか?

「去年の5月場所でデビューして、1年後に幕内優勝することは想像していなかったので、うれしいですね」

Q.賜杯を抱いた感覚はどうでしたか?

「本当に1月場所から、幕内優勝が夢から目標に変わった瞬間でもありましたし、こうやって目標を達成できてうれしいです」

Q.単独先頭できょうを迎えました。心境はどうだったんでしょうか?

「本当に冷静にということを考えて、いつもどおり朝を迎えましたし、国技館に来るのもいつもどおりだったので、よかったです」

Q.優勝を決めた一番もすばらしい内容でしたね?

「ありがとうございます」

Q.今場所は新小結として初日、横綱戦にも勝ちました。何をいちばん大事にして15日間を戦ってきましたか?

「番付が上がった中で、自分の中でも初めてのことだらけでしたけど、いい成績を残せてよかったです」

Q.ふるさと石川県で、今も苦しい思いをしている方も多いかと思います。勝ち星を届けることが元気を届けることだと話していましたが、今どんな思いですか?

「こうやって優勝する姿を石川県の方に見せられたと思うので、本当にうれしいですね」

Q.新三役で2桁勝利。早くも大関昇進の起点ができました。来場所に向けてはどうですか?

「これからしっかり親方の言うことを守って、上へ上へと精進して頑張りたいと思います」

Q.最後に今後どんな力士になっていきたいと考えていますか?

「強いお相撲さんになっていきたいなと思います」

◇大の里 石川県出身 “スピード出世”

2023年7月

大の里は石川県津幡町出身の23歳。身長1メートル92センチ、体重181キロの恵まれた体を生かした圧力をかけた押し相撲が持ち味です。相撲の強豪、日体大時代に2年連続で「アマチュア横綱」に輝き、大学卒業後の去年5月の夏場所で、幕下10枚目格付け出しとして初土俵を踏みました。

その後、秋場所で新十両への昇進を果たすと、力強い立ち合いから大きな体を生かした押し相撲を持ち味に、2場所続けて12勝3敗のふた桁勝利を挙げ、ことしの初場所で新入幕を果たしました。初土俵から新入幕までは所要4場所と、昭和以降では3番目に並ぶスピード出世でした。

そして、新入幕からは2場所続けて11勝4敗の成績で三賞を連続で受賞し、先場所では千秋楽まで優勝争いに加わるなど実力を示していました。

今場所では西の小結に昇進し、幕下付け出しの力士では平成26年の九州場所で関脇に昇進した逸ノ城の所要5場所に次いで、昭和以降では2番目に早い所要6場所での新三役昇進を果たしていました。

【解説】わずかな期間の経験を糧にスピード出世

初土俵からわずか7場所目で初優勝を果たした大の里。スピード出世の中でも1場所1場所の経験を確実に成長つなげたことが最高の結果につながりました。

今場所からようやくちょんまげを結えるようになった23歳、大の里。学生時代には2年連続でアマチュア横綱に輝くなど、華々しい実績を積んできましたが、大相撲の世界では去年5月に初土俵を踏んでからわずか10か月余り、幕下と十両を2場所ずつ、幕内は3場所目と経験の少なさは否めません。

それでも、その少ない経験を効果的に糧としてきたことが成長につながっています。新入幕で臨んだ初場所では上位陣の力、そして結びの一番の重みを肌で感じました。9日目に勝ち越しを決めると、10日目からは場所後に大関昇進を果たす琴櫻、大関 豊昇龍、そして、結びの一番での横綱 照ノ富士と、上位陣との対戦が続きました。

すべてに敗れて3連敗を喫しましたが「後半の三番や結びの一番の雰囲気が全く違うというのが分かった。上位は一番に対する思いが違う。負けをむだにせず、この経験を来場所に生かしたい」と静かに闘志を燃やしていました。

続く先場所では、その上位陣から相次いで白星を挙げました。番付も上がり、最初の三役との対戦は9日目、関脇 若元春との一番でした。立ち合いから力強い当たりで一気に土俵際まで押し込むと左を差されながらも休まず攻め続け、実力者を圧倒。三役から初白星を挙げました。

「先場所よりは成長できている」と手応えを口にすると、11日目には結びの一番で大関 貴景勝に押し出しで勝って今度は大関からの初白星。初場所ではね返された壁を乗り越え、最終的には大関2人を含む4人の役力士から白星を挙げました。

一方で、わずかに届かなかったのが優勝です。千秋楽まで優勝の可能性は残っていましたが、初日から11連勝と快進撃を続けた尊富士が110年ぶりの新入幕優勝を果たした。

「優勝したかったのが率直な思い。支度部屋でバンザイを尊富士関がやると思うと悔しい」と心の内を明かしていました。

そして、迎えた今場所。西の小結の地位で臨んだ大の里は初日、いきなり横綱 照ノ富士との一番が組まれました。初場所では力負けした相手ですが、立ち合い、胸から強く当たりにいくと、ここから成長を見せました。

すぐに右を差すと、もろ差しの形をつくり、完全に自分優位とすると少しずつ寄っていき、照ノ富士に投げを許さず、最後は「すくい投げ」で快勝。2回目の対戦で横綱戦初白星を挙げ「納得できる相撲ができてよかった。前回の対戦はめちゃくちゃ当たって走ることだけを考えていたが、それではだめだと自分なりに考えて相撲を取ってよかった」と手応えを口にしました。

師匠で元横綱 稀勢の里の二所ノ関親方は、この一番について「本場所の一番は稽古場の千番、一万番くらいの価値がある」と、大の里が積んでいる経験の大きさを表現します。

上位総当たりの地位ながらその後も白星を積み重ね、大関の2人、霧島と琴櫻からも初白星を挙げると、14日目を終えてついに優勝争いの単独トップに立ちました。

上位陣の力を実感した初場所、そして優勝を逃すくやしさを味わった春場所。期待の若手は濃密な経験を力に変えて、初土俵からわずか7場所目で憧れの賜杯を手にしました。

◇大の里 優勝の記録

▽新入幕から3場所目での優勝は、年6場所制が定着した昭和33年以降では元横綱 佐田の山に並んで2番目に早い記録です。

▽新三役での優勝は昭和32年夏場所で新小結 安念山、のちの元関脇 羽黒山が優勝して以来、67年ぶりです。

▽元横綱 稀勢の里の二所ノ関親方が師匠を務める二所ノ関部屋で優勝した力士は初めてです。

▽石川県出身力士の優勝は元大関 出島が関脇だった平成11年の名古屋場所以来、25年ぶりです。

大の里が技能賞と殊勲賞

▽夏場所の三賞選考委員会が開かれ、初優勝を果たした新小結 大の里が技能賞と殊勲賞を受賞しました。
大の里は初日に横綱 照ノ富士を破るなど恵まれた体格を生かして前に出る相撲で12勝3敗の成績を収めました。技能賞は2場所連続の受賞です。
大の里は優勝の条件を満たしたため、殊勲賞もあわせて受賞しました。

▽敢闘賞は、新入幕で10勝5敗の成績を収めた欧勝馬が、初めての受賞となりました。

《そのほかの力士など談話》

敗れた阿炎「集中しきれなかった」

大の里に敗れた関脇 阿炎は「集中しきれなかった。圧力に負けてしまった。向こうが強くて自分が弱かった。それだけだ」と脱帽していました。
10勝5敗の成績を収めて大関昇進に向けた起点を作ったことについては「目指しているものに近づいている。一日一番をしっかりやっていきたい」と話していました。

大関 琴櫻「受け入れて稽古に励むしかない」

大関 豊昇龍に勝って11勝4敗とした大関 琴櫻は、初優勝を逃したことについて「受け入れて稽古に励むしかない。しっかり稽古を積んで、この気持ちを来場所以降につなげて自分の相撲を取り切れるようにしたい。歯がゆい相撲や雑な相撲が今場所は多かった。しっかり修正したい」と話していました。

平戸海 同学年の大の里 優勝に「自分も負けないように」

24歳の平戸海は、前頭2枚目で9勝6敗の成績を残して初めての三役昇進に向けて前進し「いつもどおり稽古していきたい」と気を引き締めました。
そして、同学年の大の里が優勝したことについては「自分も負けないようにやる」と刺激を受けていました。

師匠の二所ノ関親方「きょうだけは喜んでいい」

師匠で元横綱 稀勢の里の二所ノ関親方は、テレビで弟子の初優勝を見守ったということで「落ち着いて取っていたと思う。いつもどおり自分の相撲が取れていた。今場所は前に出る相撲、圧力をかける相撲が取れていた」と振り返りました。
一方で「もっと地道な体作りが必要だ。立ち合いの圧力は増すことができる」と課題も指摘しました。
そして「部屋に帰ってきたら『3敗の優勝でいいと思うなよ』と言いたい」と厳しいことばを口にしながらも「きょうだけは喜んでいい」と笑って話していました。

八角理事長「内容が立派 先もある」

日本相撲協会の八角理事長は初優勝を果たした小結 大の里について「内容が立派だった。ラッキーで勝った優勝ではなかった。これから先もあるわけだから駆け上がってほしい」と絶賛しました。
あえて番付を上げるうえでの課題を挙げてもらうと「ひざを鍛えて腰をおろすことだろう。けがしない体を作ってほしい」と期待を込めて話しました。
千秋楽まで優勝争いに絡んだ2人の大関については「よく最後まで頑張った」とねぎらったうえで、「この2人にとっても、大の里は下の力士というより、優勝争いでのライバルだろう」と話していました。

高田川 審判部長“大関昇進の起点に立っている”認識示す

日本相撲協会の高田川審判部長は、初優勝した大の里について「最高の相撲だった。豊昇龍に敗れてからがらっと変わった。前に出る圧力が尻上がりに出てきて、いい相撲だった」と相撲内容を高く評価しました。
来場所、大関昇進への機運が高まるかについては「それはまだわからないが、基本的には三役に上がってから3場所だ」と話し「大関昇進は扉を握って、開いて、入る。今は握っているところだ」と大関昇進の起点に立っているという認識を示しました。
一方、優勝を逃した大関陣に向けては「悔しいと思うが、一層稽古に励んで来場所につなげてほしい」と期待をかけていました。

優勝パレード 家族も見守る

国技館の周辺では午後6時半ごろから大の里の優勝パレードが行われ、国技館の正門付近には大勢のファンが集まりました。大の里は旗手を務めた兄弟子、十両の白熊とともに車に乗り込んで手を振ると、ファンから「大の里」とか「津幡の星」などと大きな声援を浴びていました。

応援に駆けつけていた父の中村知幸さん、母の朋子さん、妹の葵さんもパレードを見守り、大の里に向けて笑顔で大きく手を振っていました。

大の里の父親「やってくれると信じていた」

大の里の父親、中村知幸さんは「生きた心地がしなかったが、やってくれると信じていた。去年の今頃入門して、1年でこういうことが起きるなんてすごいなと思う。やっぱり信じて見守ってきてきたかいがあった」と喜びを語りました。
一方で、初土俵から7場所での初優勝という快挙を成し遂げた息子について「エリートではなくて、雑草だ。苦しい経験もし、負けも経験してきたからこそきょうがある。思いがこもった15日間だったと思う」とかみしめるように話していました。

また、大の里が優勝を決めた直後、涙を流していた中村さんは「あそこまで泣かせてくれるなんて、本当に親孝行だ。とにかくうれしいしかない最高の涙だった」と振り返っていました。そして、いま息子にかけたいことばを聞かれると、ことしの元日、能登半島地震で地元が被災したことを踏まえ「震災で背負うものもいっぱいあったと思うが、この15日間は石川県のヒーローでした。ご苦労さまでした」とメッセージを送っていました。

出身地の石川 津幡町 パブリックビューイングで歓声

大の里の出身地石川県津幡町では、パブリックビューイングが行われ、大の里の優勝が決まった瞬間、会場は大きな歓声に包まれました。津幡町では、地元の人たちが応援しようと、町役場の町民プラザでパブリックビューイングが行われました。

会場に用意された120席は早い段階で埋まり、役場内に別に設けられた会場と合わせておよそ400人が集まりました。

大の里の取組を迎えると会場からは声援が上がり、阿炎を倒して優勝が決まった瞬間ほとんどの人が立ち上がって、大きな歓声を上げていました。

津幡町の50代の女性は「能登半島地震で石川県が大変な中、優勝を決めてくれて勇気をもらいました。大の里は石川県の誇りです」と話していました。

大の里が小学生の時に通っていた相撲教室に所属する小学6年生の男の子は「自分たちの先輩が優勝してくれて誇らしい気持ちです。自分も大の里のような力士になれるよう練習したいです」と話していました。

また、大の里を小学生だった時にコーチとして指導した岩脇進一さんは「まさか、自分たちの地域から優勝する力士が出るとは本当に信じられないです。大の里の活躍で、子どもたちにも相撲がもっと身近になってくれるとありがたいです」と話していました。

地震の被災地 輪島でも喜びの声

能登半島地震の被災地、石川県輪島市でも喜びの声が聞かれました。

市内で飲食店を営む30代の男性は「県内出身の力士の久しぶりの優勝ということで、とてもうれしいです。被災した私たちに勇気を与えてくれ、前向きな気持ちになります。これからも優勝を重ねて地元を盛り上げてくれる存在になってほしいです」と話していました。

市内に住む80代の女性は「地震で気持ちが暗くなる中で勇気をもらいました。次は横綱を目指して頑張ってほしいです」と話していました。