救急搬送の迅速化へ マイナカードで患者情報把握する実証実験

消防による救急搬送を迅速に行うため、救急隊が健康保険証と一体化したマイナンバーカードを現場で読み取り、ふだん通院している医療機関や薬などの情報を把握する実証実験が全国3つの消防本部で始まりました。総務省消防庁は来年度中に全国での導入を目指すとしています。

実証実験は全国3つの消防本部で23日から始まり、神奈川県の平塚市消防本部では8台の救急車に健康保険証と一体化したマイナンバーカードを読み取る専用の端末を導入しました。

消防が行ったデモンストレーションでは、救急隊員が患者役の職員に「マイナンバーカードで通院情報などを読み取ってよいか」と尋ねたあと、カードを受け取って専用の端末に差し込むと画面には、高血圧かどうかや、持病の有無、ふだん服用している薬などの情報が表示されました。

総務省消防庁によりますと、患者の搬送先を決める際、通院している医療機関を参考にしますが、患者が意識を失っていたり苦しんでいたりしている際には、思うように情報を得られず、搬送に時間がかかることもあるということです。

カードの情報の読み取りは、原則として、患者本人から口頭で同意が必要ですが、意識を失っている場合には、家族から了承を得るなど現場の判断で閲覧できるようにしているということです。

総務省消防庁は全国35都道府県の67の消防本部で順次、効果や課題を検証し、来年度に全国での導入を目指すとしています。

平塚市消防本部では、およそ2か月間の実証実験中にこの方法でおよそ3000件の搬送を見込んでいて、消防救急課の松田一紀課長は「高齢化社会が進む中、今後も救急件数は増加していくと思われる。限られた台数の救急車を有効に活用するためにも、迅速に活動して一人でも多くの患者に対応したい」と話していました。

背景には高齢化による救急需要の拡大

総務省消防庁がマイナンバーカードの救急搬送への活用を進める背景には年々、進む高齢化による救急需要の拡大があります。

救急車の出動件数はコロナ禍のおととし、722万9500件余りで過去最多となり、通報を受けてから病院に引き継ぐまでの時間は全国平均で47.2分と、10年前と比べると8.5分長くなっています。

高齢者はおととしの時点で搬送者全体の62.1%を占めていますが、総務省消防庁によりますと、かかりつけの病院や服薬中の薬の名前を失念していたり、耳が聞こえずらかったりして質問のやりとりが難しいことがあり、搬送に必要な情報の聞き取りに時間がかかるといいます。

全国の消防では、救急車両の台数を増やしていますが、今後も進む高齢化を背景とした救急需要の拡大に応えるにはハードの整備だけでは難しいとしています。

総務省消防庁 カードの携行や準備を呼びかけ

今回、実証実験の対象となるのはマイナンバーカードを健康保険証として利用登録をしている全国の7200万人余りです。

ふだん、マイナンバーカードを健康保険証として利用していなくても、医療機関が入力した情報を現場の救急隊員たちが読み取ることができます。

この方法を活用するにはカードを携行する必要がありますが、去年、デジタル庁がウェブ上で実施したアンケート調査によりますと、回答した2万人のうち、ふだんから持ち歩いているのは43.1%となっています。

総務省消防庁は、実証実験に参加する各地の消防本部に対し、救急の通報した人にマイナンバーカードをあらかじめ準備しておくよう呼びかけています。