生成AI“急速普及”電力需要が増加?どうなる今後のエネルギー

「皆さんがスマートフォンで何かを検索するだけでデータセンターのコンピューターが働いている」

国内の電力需要は減少傾向にありましたが、生成AIの急速な普及などに伴い、一転して増加が見込まれています。

こうした中、国の中長期的なエネルギー政策の指針「エネルギー基本計画」の見直しの議論が始まりました。

データセンター建設相次ぐ なぜ?

イギリスに本社があるデータセンターの運用会社が、2011年にデータセンターを千葉県印西市に建設しました。

大手のクラウド事業者などにサーバーを置く場所を貸し出し、電力供給や空調の監視などを担っています。

データセンターを3棟まで増やしていて、当初の6倍以上の5万キロワットを稼働に必要な電力として確保しているということです。

AIの普及などに伴い、この会社では印西市内に4棟目を建設する予定だということで、さらなる増設も検討していくとしています。

コルトデータセンターサービス 近藤孝至さん
「皆さんがスマートフォンで何かを検索するだけでデータセンターのコンピューターが働いている。利用者も増え、サーバーの使用率も増えていくので、日本の電力需要は指数関数的に増えるのではないか」

生成AIの急速な普及 電力需要に影響も

全国の電力需給を調整しているオクト=「電力広域的運営推進機関」によりますと、国内の電力需要は、人口の減少や省エネの浸透などを背景に2007年度をピークに減少傾向にありましたが、今年度・2024年度からは増加に転じるとしていて、2033年度の電力需要は、現在よりおよそ4%増えて8345億キロワットアワーに上る見込みです。

国内では生成AIの急速な普及に伴い、大量に電力を消費するデータセンターの建設などが相次いでいて、政府は電力供給の拡充に向けて大規模な投資が必要だとしています。

「エネルギー基本計画」見直しへ議論始まる

この先の電力供給をどうするのか。
国の中長期的なエネルギー政策の指針「エネルギー基本計画」の見直しの議論が15日から始まりました。

今回の見直しでは、国が最大限の活用を目指す原子力発電や、技術革新が進む太陽光や風力発電などの再生可能エネルギー、二酸化炭素の排出削減が課題となっている火力発電などについて、発電コストや安全性、環境面などを考慮しながら、2040年度に向けた供給力の強化や電源構成をどう定めていくかが焦点となります。

経済産業省は、審議会での議論を踏まえ、年度内にも新しいエネルギー基本計画をとりまとめる方針です。

齋藤経済産業大臣
「日本の産業競争力の強化や経済成長、賃上げの実現はエネルギーの安定供給にかかっている。特に脱炭素エネルギーを安定的に供給できるかが国力を大きく左右すると言っても過言ではないが、脱炭素エネルギーへの転換を進めていくことは極めて困難な課題だ。
今、日本はエネルギー政策における『戦後最大の難所』にあるとの強い危機感を持っている。この審議会で将来のエネルギー政策のあるべき姿を示していただきたい」

エネルギー基本計画は、およそ3年に1度、見直しが行われています。

2021年に閣議決定された現在の計画(第6次)では、政府が目標として掲げる2050年の温室効果ガスの排出量、実質ゼロの実現に向けて、2030年度の電源構成を示しました。

太陽光や風力などの再生可能エネルギーを主力電源として最大限導入し、電源に占める割合を36%から38%にするとしたほか、原子力は、安全性を最優先に、国の規制基準に適合すると認められた原発の再稼働を進めることで、20%から22%にするとしました。

一方、現状で全体のおよそ7割を占めるLNG=液化天然ガスや石炭などの火力は41%と大幅に減らし、二酸化炭素の排出削減につなげるとしました。

しかし、現在の計画が決定されてからエネルギーをとりまく情勢は大きく変化しました。

ロシアによるウクライナ侵攻でLNG=液化天然ガスの価格は一時、高騰し、電気料金の上昇を招きました。

さらに日本が原油の9割以上を輸入する中東では、イスラエル・パレスチナ情勢の緊迫化が原油の国際価格に影響を及ぼしているうえ、記録的な円安が輸入コストを押し上げる要因となっています。

化石燃料への依存度を減らすことの重要性が一段と高まるなか、政府は計画の見直しに先立って開かれた13日の会議で、2040年に向けた新たな国家戦略を取りまとめることを決め、再生可能エネルギーや原子力の導入拡大に向けて支援策の検討を始めています。

政府は国家戦略の議論もにらみながらエネルギー基本計画の見直しを進めていく方針です。

原発の位置づけは

今回の見直しでは、脱炭素に向けて原子力発電をどう位置づけるかも焦点です。

現在のエネルギー基本計画では、2030年度の電源構成全体に占める原子力発電の割合を「20%から22%」とし、安全性を最優先に国の規制基準に適合すると認められた原発の再稼働を進めるとしています。

ただ「再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能なかぎり依存度を低減する」とも明記しています。

実際の発電量に占める原発の割合を見ていくと、東京電力福島第一原発の事故以降、計画と比べて、低い水準となっています。事故が起きる前の2010年度は25.1%でしたが、事故後には、全国で原発が相次いで停止し、2014年度にはゼロとなりました。

事故の教訓を踏まえて原子力規制委員会が新しい規制基準で審査を行い、これまでに国内の33基のうち12基が審査に合格して再稼働していますが、2022年度の原発の割合は5.5%となっています。

この間、原発に代わって、火力発電の割合が高まりましたが、ロシアによるウクライナ侵攻の際には、LNG=液化天然ガスの価格が一時、高騰して電気料金の値上がりにつながるなどエネルギーの調達環境は不透明感を増しています。

こうしたことから政府は、2023年2月に「GX=グリーントランスフォーメーション実現に向けた基本方針」を閣議決定し、エネルギーの安定供給に向けて、原子力発電を最大限活用する方針を打ち出しました。

既存の原発の再稼働に加え、廃炉となる原発の建て替えを念頭に、次世代型の原子炉の開発と建設を進めるとしたほか、これまで想定していなかった原発の新設や増設も検討することになりました。

しかし、原発の再稼働をめぐっては、政府が首都圏の電力の安定供給で重要だと位置づける新潟県の東京電力柏崎刈羽原発で、テロ対策上の重大な不備など、不祥事が相次ぎました。

また、ことし1月の能登半島地震を受けて、住民の避難対策への懸念が強まるなど、今のところ再稼働の時期を見通せる状況とはなっていません。

さらに使用済み核燃料の再利用や、高レベル放射性廃棄物=いわゆる「核のごみ」の最終処分をめぐる問題も大きな課題です。

政府は安全性を最優先に原発を最大限活用する方針に転じていますが、エネルギー基本計画の見直しで、原子力発電をどのように位置づけ、具体的な対応を盛り込んでいくかも大きな焦点です。

「浮体式」洋上風力発電に注目

一方、脱炭素社会の実現に不可欠なのが太陽光や風力発電などの再生可能エネルギーの導入拡大です。

なかでも海に囲まれた日本では「浮体式」と呼ばれる洋上風力発電が適しているとされ、本格的な商用化に向けて技術開発が進んでいます。

洋上風力発電は、風車の土台を海底に固定する「着床式」と呼ばれるタイプと、風車を海に浮かべる「浮体式」と呼ばれるタイプがありますが、着床式の普及が進むヨーロッパと比べて、日本は遠浅の海が少ないことから洋上風力の導入拡大に向けて浮体式の技術が注目されています。

長崎県の五島市沖では、全国に先駆けて2013年に浮体式の洋上風力発電が設置されて、実証実験が始まり、海面からの高さが100メートルほどの風車1基が発電しています。

3年後の2016年からは国内で唯一となる商用運転が開始されていて、最大で2000キロワット、およそ1800世帯分の電力をまかなえるということです。

こうした取り組みを後押しするため、政府も風車を設置する海域を洋上風力発電を重点的に整備する促進区域に指定し、会社では新たに2基の風車を設置しました。

ただ、浮体式の洋上風力発電は、沖合に風車を設置して電力を送るため、着床式と比べて、建設や運営のコストが多くかかるほか、大きな波や風にも耐えられるさらに大型の風車を低コストで大量生産できる技術の確立が大きな課題です。

会社によりますと、これまでに風車を海中で支えるコンクリートの構造物に不具合が見つかり、新しいものに交換するトラブルもあったということですが、会社では今後、改良や検証を重ねながらさらに6基の風車を建設し、2026年1月の本格運転を目指しています。

戸田建設 牛上敬 部長
「五島でのプロジェクトを完成させて発電所としての運用を始め、培った技術をもとに大型化や量産化につなげたい。ポテンシャルの高い日本の海域で、洋上風力が普及するようわれわれの技術で貢献できればと思っている」

政府も今年度以降、北海道や秋田県、愛知県の4つの海域を候補地に新たに浮体式の洋上風力発電の実証実験を行うことにしていて、近く事業者を決めることにしています。

再生エネルギー導入拡大へ 課題は送電網の増強

再生可能エネルギーの導入拡大に向けては、太陽光や風力発電が盛んな北海道や東北、九州などと、電力の消費地である東京や大阪などをつなぐ送電網の増強も課題です。

太陽光や風力などの再生可能エネルギーは、天候によって発電量が大きく左右されるうえ、エアコンの使用が少ないなど電力需要が少ない日でも発電量を調整することができません。

一方で、電力の需要と供給のバランスが崩れると大規模停電のリスクが生じるため、電力各社では2023年度、18億9000万キロワットアワーにのぼる「出力制御」と呼ばれる発電の停止措置を行いました。およそ40万世帯分の年間の電気の使用量にあたります。

こうしたケースでは供給されるべき電気がむだになっているため、人口が多い消費地での活用に向け送電網を増強する動きが出ています。

このうち、東北電力は、東北と首都圏をつなぐ送電線を1本から2本に増やす“2ルート化”を進めていて、宮城県や福島県で新しい送電線を整備し、2027年の使用開始を予定しています。

2ルート化が実現すれば、首都圏向けに送電できる容量は、現在の573万キロワットから1028万キロワットへと2倍近くに増えるとしています。

東北電力ネットワーク送変電建設センター宮城工事所 八重樫知治 所長
「連系線が増えることで安定供給に寄与できるほか、ほかの地域への一段の電力融通も可能になる。人員をしっかり確保して工事に当たりたい」

このほか、太陽光や風力発電が盛んな北海道や九州と本州を結ぶ送電網の計画も進められています。

北海道と東京をつなぐ送電網では、1兆5000億円から1兆8000億円を投じて日本海に海底ケーブルを敷くルートを新たに整備する計画で、2030年度ごろには今の3.5倍の容量まで増強させる見通しです。

また、九州と中国地方をつなぐ送電網も4000億円ほどを投じて増強し、2030年代前半には今より容量を30%ほど増やすことにしています。

こうした送電網の強化に向け、2050年までにおよそ6兆円から7兆円の投資が必要になると見込まれていて、再生可能エネルギーの導入拡大するうえで課題となっています。