【解説】ガザ戦闘とイラク戦争 3つの共通点 得られる教訓は

ガザ地区で、イスラエル軍が一度は制圧したとする北部で、戦闘が再燃していることは、ネタニヤフ首相が掲げる「ハマスの壊滅」がいかに難しいかを浮き彫りにしています。イスラエル軍はガザ地区で、アメリカ軍がイラク戦争で苦しんだような泥沼にはまろうとしているとの指摘も出ています。

イスラエルは、イラク戦争からどのような教訓を得られるのでしょうか。別府正一郎キャスターの解説です。

※5月14日に「キャッチ!世界のトップニュース」で放送した内容です。
※動画は4分6秒 データ放送ではご覧になれません。

まず、イラク戦争について、簡単に振り返ってみます。

この戦争の背景になったのは「9.11」、つまり、2001年9月11日にアメリカで起きた同時多発テロです。

非道なテロに対する憤りが高まる中、アメリカの当時のブッシュ大統領は、国際テロ組織アルカイダへの報復だとして、アフガニスタンへの武力行使に続いて、2003年にイラク戦争を強行します。

予想されたとおり、アメリカ軍は最新の軍事力で、イラク軍を圧倒し、フセイン政権は開戦からわずか数週間で打倒されます。

しかし、より深刻な問題はそこからでした。

後に明らかになるのですが、ブッシュ政権は、フセイン打倒後のイラクの統治について具体的な計画を持っていなかったのです。イラクには「権力の空白」が生じ、その混乱に乗じてイラクに入り込んだ過激派によるテロが相次いで、治安は極度に悪化します。

アメリカ軍は、その対応に追われるようになり、泥沼にはまったように、結局、2011年末まで8年以上も駐留を余儀なくされました。

【3つの共通点も】

もちろん、ガザ地区とイラクの状況を単純に比較することはできません。
ただ、いくつか共通することも見られます。

1.それぞれの背景に「攻撃」

まず1つ目ですが、イラク戦争の背景に「911」があるように、イスラエルの軍事作戦の背景には、去年10月7日のハマスのイスラエルへの攻撃があります。

実際、10月7日の攻撃について「イスラエルにとっての911だ」と言われています。

2.軍事力の限界

2つ目は、軍事力の限界です。

イラクでは、アメリカ軍は過激派を抑え込むことに苦慮しましたが、イスラエル軍もハマスを壊滅できていません。

いったんは制圧したとされるガザ地区北部でハマスが再び活動し、戦闘が起きていることはそのことを如実に示しています。

そもそもハマスのガザ地区トップのシンワル指導者の行方も分かっていません。

3.「出口戦略」の不在

ガザ地区ラファ 5月12日

3つ目は「出口戦略」の不在です。

イラク戦争と同じように、ネタニヤフ政権には、ガザ地区での作戦を終える「出口」が定まっていません。

ガザ地区の統治をどうするのかも決まっていません。こうしたことを見越していたのでしょうか。バイデン大統領は、去年10月に、イスラエルを訪問した際に、アメリカに例えて、怒りにまかせて行動してはならないとして「911のあと、アメリカで人々は憤っていた。正義を求めたが、われわれはいくつも過ちを犯した」とイルラエルを戒めました。

ガザ地区でさらに戦闘を拡大させる構えのイスラエル軍。「出口戦略」が描けていないことが、とりわけ懸念されます。

ガザ地区ラファ 5月13日