【詳細】イスラエル・パレスチナ・中東情勢(5月7日)

イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が始まってから7日で7か月となる中、戦闘休止と人質解放に向けた交渉をめぐり、ハマスは仲介国の提案を受け入れると発表しました。
これに対し、イスラエルは、エジプトに交渉団を派遣するとした一方、ガザ地区南部のラファの一部地域で地上部隊が限定的な作戦を始めたと発表し、交渉への影響が懸念されます。

※中東情勢に関する日本時間5月7日の動きを随時更新してお伝えします。

イスラエル軍 “地上部隊がラファ東部で限定的な作戦を開始”

イスラエル軍は、空爆に加え地上部隊が、ラファ東部の限られた地域で、ハマスの壊滅に向けて限定的な作戦を始めたと7日、発表しました。

また、エジプトとの境界にあるラファ検問所のガザ地区側を掌握したとしています。

地元のメディアはイスラエル軍によって検問所が閉鎖され、支援物資の搬入ができなくなっていると伝えています。

また、ラファでは7日にかけて、イスラエル軍が住民に退避を通告した東側に加えて西側でも激しい空爆があり、住民20人が死亡したとも伝えています。

戦闘の開始から7日で7か月となりましたが、ガザ地区の保健当局はこれまでに3万4789人が死亡したと発表していて、住民の犠牲が増え続けています。

ハマスは、ラファでの作戦は交渉を危機的な状況にさらすなどとしていて、戦闘の休止と人質の解放に向けた交渉への影響が懸念されます。

ハマス側が受け入れた提案の内容は

イスラエルとハマスの間の戦闘休止と人質解放に向けた交渉で、ハマス側が受け入れた提案の内容について、中東の衛星テレビ局アルジャジーラは、3つの段階に分かれ、それぞれ42日間の戦闘の休止が盛り込まれていると伝えています。

それによりますと、
▽第1段階では、双方ともに軍事行動を一時的に停止し、イスラエル軍はガザ地区の人口密集地などから段階的に部隊を撤退させるとしています。

また、ガザ地区での軍事・偵察を含めたすべての航空活動を、1日10時間、人質の解放日には12時間停止するとしています。

人質の解放については、ハマス側は第1段階で、子どもや女性、それに病人や50歳以上の人質あわせて33人を解放するとしています。

合意から3日目に、まずは3人を解放し、その後は1週間ごとに3人ずつ、そして6週目に残りの人質を解放するとしています。

これに対してイスラエル側は、ハマス側が人質1人を解放するごとに、収監しているパレスチナ人30人を釈放するなどとしています。

また、1日にトラック600台分の人道支援物資の搬入を行うほか、電気や水道、通信などのインフラの復旧などを行うとしています。

▽第2段階では、軍事行動の恒久的な停止が宣言され、イスラエル側に収監されているパレスチナ人の釈放と引き換えに、兵士を含むイスラエル人男性の引き渡しを行うとしています。

そしてイスラエル軍はガザ地区から完全に撤退するとしています。

▽第3段階では、双方の遺体の返還を進めるとしているほか、エジプトとカタール、そして国連機関などの管理のもと住宅やインフラの再建を含む3年から5年にわたる復興計画が開始されるとしています。

そして、イスラエルによるガザ地区の包囲を完全に終わらせるとしています。

専門家 “今回の提案で停戦実現するかは懐疑的”

イスラエルとイスラム組織ハマスの間の戦闘休止と人質解放に向けた交渉をめぐって、ハマスが仲介国の提案を受け入れると発表したことについて、イスラエル・パレスチナ情勢に詳しい東京大学中東地域研究センターの鈴木啓之特任准教授は「現在、ハマスが持つ、イスラエルに対する最大の交渉の材料が、人質の存在だ。ハマスとしては、自らが持つ交渉の材料を最大限に利用した形で、イスラエルを交渉に誘い出そうとしている」と分析しました。

この提案をイスラエル側が受け入れるかどうかについては、ガザ地区からイスラエル軍が完全に撤退するという条件に反発を示す可能性を指摘した上で「イスラエルとしては、ガザ地区の治安情勢に関して、みずから管理できる体制を維持したいという意思が非常に強くあり、完全撤退には容易に合意できないと思う。今回の提案で停戦が実現するかどうかはかなり懐疑的にみている」と述べました。

また、イスラエルが交渉団を派遣するとした一方で、ガザ地区南部のラファの一部地域で限定的な地上作戦を始めた点について「イスラエルの国内政治的に、ラファへの侵攻と制圧がガザ地区全体での軍事行動の総仕上げと捉えられ、大きな目標になってしまっている。ネタニヤフ首相としては、国内世論へのアピールと政権内の強硬派の閣僚への意識から、限定的な形であったとしてもラファへの侵攻に踏み込まざるをえない立場にある」と指摘しました。

その上で「イスラエルがこれほど大胆に大規模な軍事作戦をガザ地区で展開できる背景には、同盟国であるアメリカの絶対的な支持があり、そこに対して自信を持っているからだと言える。そのアメリカが大きく働きかければ、イスラエルとしても配慮せざるをえない、場合によっては従わざるをえなくなる」として、今後、合意の実現に向けてアメリカの対応が鍵を握るという見方を示しました。

さらに、今回の交渉でイスラエルとハマスの間で意見が食い違っているガザ地区の将来的な統治のあり方についても、国際社会からの働きかけが重要になるとした上で、「国際社会による関与は、スピード感を持って、かつ実行力がある形で行われる必要がある。イスラエルでは、来週、独立記念日があり、これを目指して、勝利を象徴するような戦果を求める可能性は十分にある。今、国際社会がイスラエルとハマスの合意形成に向けて働きかけをしていく、正念場を迎えつつある」と指摘しました。

国連事務総長 “この機会を逃してはならない”

イスラエルとイスラム組織ハマスの間での戦闘の休止と人質の解放に向けた交渉について、国連のグテーレス事務総長は6日、記者団を前にコメントし、「私はきょう、イスラエルとハマスに対し、絶対に不可欠な合意を実現するためにより力を尽くすよう強く呼びかけた。この機会を逃してはならない。ラファへの地上作戦は人道上の壊滅的な結果をもたらし地域を不安定化させることになり、容認できない」と訴えました。

一方、イスラエル軍がガザ地区南部ラファの一部から退避するよう住民らに通告したことについて、国連人権高等弁務官事務所のトップ、ターク人権高等弁務官は6日、コメントを出し「爆弾と病気と飢きんに苦しんでいるガザの人たちは、イスラエル軍の作戦が拡大する中、再び退避するよう通告された。これは非人道的で、民間人の保護を最優先する国際人道法と人権法の基本原則に反する」と非難しました。

バイデン大統領 “大規模な地上作戦は支持しない”

アメリカのバイデン大統領は6日、イスラエルのネタニヤフ首相と電話で会談しました。

ホワイトハウスのカービー大統領補佐官は会談後、記者会見し、バイデン大統領が、住民を危険にさらすようなラファへの大規模な地上作戦は支持しない考えを改めて伝えたと明らかにしました。その上でカービー補佐官は「イスラエル側には、彼らの意図や退避の目的について質問している」と述べ、説明を求めていると強調しました。

またカービー補佐官は、戦闘の休止などに向けた交渉をめぐり、イスラム組織ハマスが仲介国に対して提案を受け入れると伝えたと発表したことについて、交渉は重要な段階にあるとの認識を示しました。

その上で「われわれは人質を解放し、6週間の停戦を実現し、人道支援を拡大したい。合意にたっすることが最善の道だ」と述べて、合意に向けて取り組む考えを示しました。

イスラエル “要求満たすにはほど遠い“ エジプトに代表団派遣へ

イスラエル首相府はハマスに軍事的な圧力をかけて人質の解放を進め、戦争のその他の目的を達成するため、ラファでの作戦を継続することを戦時内閣が6日、全会一致で決めたとする声明を発表しました。

また、戦闘の休止と人質の解放に向けた交渉をめぐりハマスが仲介国の提案を受け入れると発表したことに対して、声明では「ハマスの提案はイスラエルの中核的な要求を満たすにはほど遠い」としながらも、イスラエルが受け入れられる条件で合意に達する可能性を最大化するため、エジプトに代表団を派遣するとしています。

米国務省報道官 “ハマスから回答 内容について検討”

アメリカ国務省のミラー報道官は6日、記者会見で「ハマスから回答があった。われわれは現在、その内容について検討していて、地域のパートナー国と協議しているところだ」と述べました。

そして中東を訪問中のCIA=中央情報局のバーンズ長官が現在、対応にあたっているとした上で引き続き、交渉の合意に向け、取り組む考えを示しました。

ハマス声明 “停戦合意の提案を受け入れる”

イスラエルとハマスの間の戦闘の休止と人質の解放に向けた交渉について、ハマスは6日、声明を発表し、ハニーヤ最高幹部が仲介国のカタールとエジプトに対し、「停戦合意についての彼らの提案を受け入れると伝えた」と発表しました。

ガザ地区では一時、発表を歓迎して住民が喜びの声をあげる様子が見られましたが、声明は具体的な提案の中身については明らかにしていません。

イスラエルはこれまでハマスが求める「完全な停戦」には応じない姿勢を示しています。

ラファ中心部 退避通告を受け避難を急ぐ人たち

イスラエル軍がおよそ120万人が身を寄せるガザ地区南部ラファの一部から退避するよう通告したことを受け、現地では多くの人が避難を余儀なくされています。

NHKガザ事務所のサラーム・アブタホンカメラマンが6日、ラファの中心部で撮影した映像には、多くの荷物を車などに載せて避難を急ぐ人々の様子が写っています。

このうち、ロバが引く台車に荷物を積んでいた男性は、「退避しろと書かれたビラがまかれた。安全な退避なんてない。もう神にすべてを託すしかない」と話していました。

また荷物を担いで歩いて避難していた男性は「イスラエルは退避しろというがいったいどこに行けというんだ。食料も水も、生活もなにもない」といらだった様子で話していました。