円安じりじりと進み 1ドル=158円に迫る水準まで値下がり

5月1日の東京外国為替市場は、アメリカで早期に利下げが行われるという観測が後退したことを背景にじりじりと円安が進み、円相場は、1ドル=158円に迫る水準まで値下がりしました。

外国為替市場では、アメリカで4月30日に発表された企業の雇用にかかわる費用の指数が市場の予想を上回ったことで、アメリカのインフレが根強いと受け止められました。

このため1日の東京外国為替市場では、アメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会が早期に利下げするとの観測が後退して、じりじりと円安が進み、1ドル=158円に迫る水準まで値下がりしました。

午後5時時点の円相場は、30日と比べて1円3銭、円安ドル高の1ドル=157円88銭から90銭でした。

一方、ユーロに対しては、30日と比べて42銭、円安ユーロ高の1ユーロ=168円32銭から36銭でした。

ユーロはドルに対して、1ユーロ=1.0661から62ドルでした。

市場関係者は「おととい急速に円高が進んだことで、市場では政府・日銀による市場介入があったという見方が強まっていて、介入への警戒感は依然、根強い。投資家の間では、日本時間のあす未明に発表されるアメリカの金融政策を決める会合の結果と、FRBのパウエル議長の会見の内容に注目が集まっていて、今後のアメリカの利下げをめぐりどのようなメッセージが発信されるかが焦点だ」と話しています。

“為替レートは市場で決まる” “市場介入は例外的”

主要各国の通貨当局の間では為替レートは市場で決まるという合意があり、市場介入は、過度な変動が生じ経済に悪影響を及ぼす場合などに例外的に認められるという認識が一般的です。

G7=主要7か国の財務相・中央銀行総裁会議は、これまでの共同声明の中で「為替レートは市場において決定される。競争力のために為替レートを目標にはしない」と明記しています。

G20=主要20か国も過去の声明で「為替レートは根底にある経済のファンダメンタルズ=基礎的条件を反映する」という同様の内容で合意しています。

一方、こうした声明には、「過度な変動や無秩序な動きが経済および金融の安定に対して悪影響を与えうる」という言及もあります。

このため、市場介入にあたっては過度な変動など一定の条件が必要だと認識されています。

また、市場介入は、相手国の経済にも影響を与えるため、相手国の理解を得ることが必要とされ、繰り返し行うことは現実的には難しいという指摘もあります。

これに関連し、アメリカのイエレン財務長官は先月25日、通信社のインタビューでほかの国による為替の市場介入について「極めてまれで、例外的な状況でのみ、認められる」と述べ、慎重な姿勢を示しています。

【専門家Q&A】“5兆円規模の市場介入の可能性”どう見る

外国為替市場では4月29日に、円安が加速する中で急激に円高方向に転じる動きがありましたが、これについて、民間の金融仲介会社は、日銀が発表した統計から、政府・日銀が推計で5兆円規模の市場介入を行った可能性があると分析しています。
これについて、金融市場に詳しい、東短リサーチの加藤出チーフエコノミストに聞きました。

Q.5兆円規模という規模感をどう見るか。
A.予想以上に大きかったという受け止めだ。
過去、財務省が公表しているデータを見ると円買いの介入をいちばん多く行った日で5兆6000億円程だったことを踏まえるとそれに次ぐ、あるいはそれに匹敵する巨額介入だったと思われる。

Q.市場介入を行った可能性があるというが、政府・日銀のねらいは。
A.変動相場制に移行したあとの1970年代半ば以降で、これほど円の実質の価値が下落したことはなく、政府・日銀としてもある程度、円安の勢いを止めておきたいという意図が働いたのだと思う。

Q.政府・日銀が介入を明言しない『覆面介入』ではないかとみられているが、なぜ、明言しないのか。
A.介入したかどうか、市場を疑心暗鬼にさせることによって、投機的な動きをけん制するほうが効果が高いと判断したのだと思う。
また、先進各国の申し合わせで、為替レートというのは原則、市場に委ねましょうという認識が共有されているし、今、アメリカはインフレ率を押し下げたいため、ある程度、ドル高でもかまわないという状況だ。
このため、派手に介入しないでほしいというアメリカ側の思いも一定程度、くんでいるのではないかと想像している。

Q.介入とも見られる動きで急速に円高が進んだにもかかわらずまたじりじりと円安に戻っている。
A.市場介入で為替のトレンドを変えることは難しい。
今の円安は、アメリカの利下げが遅れるとの見方が強まっていることなどが要因で、介入によって与えられる効果というのは、スピード調整、あるいは時間稼ぎだ。
円安の背景にある要因に変化がなければ、介入してもまたじわりじわりと円安方向に行ってしまう。
時間稼ぎをしている間に、アメリカの状況が変わる、あるいは日本銀行がもう少し利上げをしておこうというスタンスに変わるといった変化がないと、政府・日銀にとってはまた苦しい状況になると思う。

Q.今後の為替の動きを見るうえで次のポイントは。
A.日本時間のあす未明行われるFRBのパウエル議長の記者会見が注目される。
4月に入ってからアメリカの経済指標が結構強い数字が出てきて、インフレを落ち着かせる道のりの最後の1マイルが難しいという議論が噴き出していて、アメリカのエコノミストの中には金利を引き上げるべきだという人も現れ始めている。
こうした中、金利引き下げの議論を強調してしまうとインフレがまた上がり始めるおそれがある。
パウエル議長は年内に利下げはありえないとまで強くは言わないだろうが、利下げをするための自信を得られるにはしばらく時間がかかるという言い方は出てくるのではないか。
また、保有している国債を減額していくペースの調整をどのようにしていくのかも、材料として見ておく必要がある。

Q.円相場への影響は。
A.ある程度、マーケットは予想しているので急激に円安に行くというわけではないが、円高要因にはなりにくいだろう。