日銀 植田総裁会見“円安 物価の基調に大きな影響なし”

円安が加速する中で注目された日銀の金融政策決定会合。

前回の会合では賃金と物価の好循環が見通せる状況になったとしてマイナス金利政策の解除に踏み切りましたが、今回は政策を維持しました。

日銀の植田総裁は、金融政策決定会合のあとの記者会見で、現時点ではいまの円安が基調的な物価上昇率に大きな影響を与えているわけではないとしたうえで、今後、円安が物価の動きに影響を及ぼすことになれば金融政策による対応を検討する考えを示しました。

原油価格や円安“やや見通しからずれた動き”

会見で、植田総裁はマイナス金利政策を解除した先月と比べて、2%の物価目標を達成する確度が高まっているかどうかを問われると「ここ1カ月強に入ってきたいろいろなデータ、情報などはかなりの程度、3月時点でこうなるだろうと予想していた姿に近いものだと判断している」と述べました。一方で、このところの原油価格や円安の動きについては「やや、見通しから少し上方にずれた動きであって、基調的な物価上昇率への影響の度合いを今後、注意深く見ていく」と述べました。

円安 経済への影響“総需要サイドにはプラスの影響も”

円安の経済への影響について問われたところ「もちろん総需要サイドにも為替レートの動きが影響するわけで、そこにはプラスのものもあると思う。それを含めて経済全体の動きにどういう影響があるかそして、さらに結果としてインフレ率、特に中長期的な第2の力への影響も決まってくる」と述べました。

利上げペース“経済の反応が重要 バランスよく”

今後の利上げのペースについて問われたのに対し「少しずつ金利が上がっていく際にそれに対して経済がどういう反応を示すかという情報が非常に重要だ。過去に30年間、持続的に金利が上がった経験が少なくとも名目金利ではない。不確実性があるからといってゆっくりやっているとどこかで急激に利上げを進めないといけなくてそれに伴うショックが発生するリスクもある。よりよいバランスの取り方ができるように努力したい」と述べました。

今後の利上げ“物価見通しに沿えば調整”

今後の利上げについて「すでに物価見通しが期間の後半にかけても2%前後になっていて、この見通しどおりに沿って現実が動いていけばそれだけで金融緩和度合いの調整の理由になる。その判断がいつの時点でできるかというのは非常に難しいが、見通しからずれる大きな動きがないと利上げの判断をしないということではなく、見通しどおりに動くことが重なれば、それで政策金利の変更の理由になる。また、見通しからさらに上方にずれる可能性が無視できない確率で出てくるという場合にはもちろん、さらなる調整の理由になる」と述べました。

円安 消費への悪影響“ゼロではない”

円安が進んでいることで個人消費が冷え込むおそれがあるのではないかと問われたのに対し「程度によってはこれまでもそうだったが、実質所得に対する下押し圧力を通じて消費に悪影響が及ぶ可能性もゼロではないと思う」と述べました。

そのうえで「全体のインフレ率は下がってきていて、実質賃金、実質所得が改善の方向にあるということで消費が少し強い動きを示していくことに期待感を持っている。ただ、今の円安の話も関係して本当に実現していくかどうかが政策運営上の1つの重要なチェックポイントだ」と述べました。

為替の短期的動き “コメント差し控える”

このところの急速な円安の要因をどう分析しているか問われたところ、「いつも申し上げているとおり、為替の短期的な動きについてのコメントは差し控える」と述べました。

長期国債の買い入れ“3月示したものと変更なし”

3月の決定会合で示した方針に沿って、月間6兆円程度の長期国債の買い入れを継続するのか問われたのに対し、「3月時点で示したものと変更ない」としたうえで、「日々の市場局の調節である程度の幅をもって決定しうるとしているが、そこはこれまでと同様に内外の市場の動向や国債の需給、例えばオペの応札状況等を見て若干の幅の中で市場局に決めてもらうと考えている。長期的にオペの金額を減らしていくという際には政策委員会で決定してきちんとアナウンスをすることになる」述べました。

円安 物価への影響“今のところ大きな影響なし”

外国為替市場で円安が進んでいることによる物価への影響について「基調的な物価上昇率に、円安が今のところ大きな影響を与えているということではない」という見方を示しました。

円安 物価への影響“リスクはゼロではない”

外国為替市場で円安が進んでいることによる基調的な物価への影響は無視できる範囲かと問われたのに対し「はい」と答えました。また、「基調的な物価上昇率へ大きな影響はないと皆さんが判断したということになるかと思う。ただ、今後発生するリスクはゼロではないので注意して見ていきたい」と述べました。

追加利上げ“物価上昇率 見通しに沿えば調整”

追加利上げの時期についてどのように判断するか問われると「これからの金融政策運営はその時々の経済物価金融情勢次第という考え方が基本だ。ただ金利の水準については、決定会合で経済物価の見通しのリスクを丁寧に点検したうえで2%の物価安定の目標の持続的安定的な実現という観点から適切に設定していく」と述べました。

そのうえで「先行き、基調的な物価上昇率が見通しに沿って2%に向けて上昇していけば政策金利を引き上げ金融緩和の度合いを調整していくことになる。さらに経済物価見通しやリスクが上振れする場合も政策変更の理由となる」と述べました。

円安“無視できない影響なら判断材料に”

外国為替市場で円安が進んでいることについて、「金融政策は為替レートを直接コントロールの対象とするものではない」としたうえで、「為替レートの変動は経済・物価に場合よっては影響を及ぼす重要な要因の1つになる。基調的な物価上昇率に無視できない影響が発生するならば、金融政策上の考慮や判断材料となると考え十分注視していきたい」と述べました。

“経済・物価めぐる不確実性は高い”

「海外の経済・物価動向、資源価格の動向、企業の賃金・価格設定行動などわが国の経済・物価をめぐる不確実性は引き続き高く、金融・為替市場の動向やわが国の経済・物価への影響を十分注視する必要がある」と述べました。

“当面 緩和的な金融環境が継続”

今後の金融政策の運営について「基調的な物価上昇率が上昇していくとすれば、金融緩和の度合いを調整していくことになるが、当面、緩和的な金融環境が継続すると考えている」と述べました。

金融政策決定会合 いまの金融政策維持 決定

日銀は26日まで2日間の日程で金融政策決定会合を開き、いまの金融政策を維持することを決めました。

先月、マイナス金利政策を解除し、政策目標としている短期の市場金利を0%から0.1%程度で推移するよう促すとしましたが、これを据え置きます。

また、長期国債の買い入れについても、これまでとおおむね同程度の金額で買い入れを継続するとした前回会合の方針に沿って実施するとしています。

日銀は前回の会合で賃金と物価の好循環が見通せる状況になったとして政策転換に踏み切りましたが、今回は政策を維持しました。

一方、外国為替市場では、日銀が当面、緩和的な金融環境が続くとする一方、インフレの続くアメリカで早期の利下げの観測が後退していることから、円安ドル高が進み、歴史的な水準となっています。

3年間の物価見通し“上昇率2%程度で推移”

日銀は金融政策決定会合に合わせて、今年度から3年間の物価の見通しを示す「展望レポート」を公表しました。

それによりますと、生鮮食品を除いた消費者物価指数の見通しは政策委員の中央値で今年度・2024年度が前の年度と比べてプラス2.8%と、前回・1月時点に示したプラス2.4%から引き上げました。

また、2025年度についてもプラス1.9%と、前回のプラス1.8%から引き上げました。

今回、初めて示された2026年度はプラス1.9%としました。

今年度の見通しを引き上げた理由について原油価格の上昇傾向や、政府の電気・ガス料金の負担軽減措置が来月の使用分までで、いったん終了することなどを挙げています。

今回の予測どおりとなれば消費者物価指数の上昇率は2022年度から3年連続で日銀が目指す2%を超え、その後も2%程度で推移することになります。

日銀は「経済・物価の見通しが実現し基調的な物価上昇率が上昇していくとすれば金融緩和度合いを調整していくことになるが、当面、緩和的な金融環境が継続すると考えている」としています。