宗教の信仰背景の児童虐待 こども家庭庁が初の実態調査

親が子どもに宗教活動を強制するなど、保護者による宗教の信仰を背景にした児童虐待の実態について、こども家庭庁が初めて調査を行いました。

その結果、児童相談所が虐待にあたると判断した事例は、去年9月までの1年半に全国で47件あったことがわかりました。

また、医療機関からは輸血の拒否などの事例が報告され、中には死亡したケースもあったということです。

児童相談所の約16%「虐待に当たる事例あった」

保護者による宗教の信仰を背景にした児童虐待の実態を把握するため、こども家庭庁は昨年度、全国の児童相談所や学校などを対象に初めて調査を行い、26日、結果を公表しました。

それによりますと、全国の児童相談所のうちおよそ16%に当たる37か所が、おととし4月から去年9月までの1年半の間に虐待に当たる事例があったと回答しました。

虐待と判断した事例は合わせて47件に上り、このうち4割に当たる19件について一時保護を行ったということです。

虐待の内容は

虐待の内容は「言葉や映像、資料により恐怖をあおる、脅す、子どもの自由な意思決定を阻害する」が最も多く、次いで、「他者の前で宗教を信仰していると宣言することを強制する」「言葉などで恐怖をあおるほか、脅迫や拒否的な態度を示すなどして宗教活動などを強制する」「宗教活動の参加などによりこどもの養育を著しく怠る」という事例が多かったということです。

このほか「宗教活動などを通じた金銭の使い込みで適切な住環境や衣服、食事などを提供しない」「医療機関を受診させない、医師が必要と判断した輸血などの治療行為を行わせない」なども目立ったということです。

また、救命救急センターが設置されている医療機関を対象にした調査では去年9月までの3年間で「医療機関を受診させない」や「医師が必要と判断した輸血などの治療行為を行わせない」などの虐待にあたる事例が少なくとも20件報告されました。

中には、輸血を理由に骨髄移植を拒否し、13歳の子どもが死亡したケースもあったということです。

“虐待の経験 誰にも相談できず”

親が宗教を信仰しているいわゆる「宗教2世」28人への聞き取りや書面での調査では、おおむね半数が虐待の経験について誰にも相談できなかったなどと回答しました。

理由としては「虐待にあたるのかわからなかった」「誰に相談してよいかわからなかった」「相談した後に起こることへの不安があった」などの回答があったということです。

このほか宗教に関する虐待への対応をまとめた国のガイドラインの認知状況を小中学校や高校を対象に調査したところ「内容も含めよく理解している」と回答したのはいずれも2割前後にとどまりました。

こども家庭庁は今後文部科学省などと連携し、子どもが助けを求めることができる環境の整備を進めることにしています。

国の指針や対応

親が信仰している宗教などを背景にした子どもへの虐待について厚生労働省は、おととし12月、児童相談所などが相談に対応する際の留意点や具体的な事例を「Q&A」形式でまとめ、全国の自治体に通知しました。

この中では、虐待かどうかを判断するにあたっては「子どもの側にたって判断することが必要である」としたうえで、具体的な事例として、理由を問わず▽児童をたたく、▽むちで打つなどの暴行を加えることは身体的虐待に当たるとしています。

また「地獄に落ちる」や「滅ぼされる」などの言葉を使って恐怖の刷り込みを行い、宗教活動などへの参加を強制することや、子ども本人が学校行事などに参加することを希望しているにもかかわらず参加を制限する行為は、心理的虐待やネグレクトに該当するなどとしています。

この「Q&A」について、文部科学省も関係機関に周知し、子どもからの相談対応に当たるよう呼びかけていて宗教に起因する相談が寄せられた場合に報告を求めています。

それによりますと、昨年度までの2年間に寄せられた宗教が起因する相談はスクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーが受け付けた相談が24件、「24時間子どもSOSダイヤル」で受け付けた相談が13件で合わせて37件だったということです。

医療機関や学校現場では

今回の実態調査では、宗教に関する虐待の相談に対応する際の留意点や具体的な事例をまとめた国のガイドラインが、子どもと日常的に接する学校現場などでどの程度認知されているかも調査が行われました。

<医療機関>
救命救急センターが設置されている全国の医療機関を対象に調査したところ、国のガイドラインについて▽「内容も含めてよく理解している」が26.8%▽「存在は知っているが、内容までは理解していない」が48.6%▽「存在を知らない」が24.6%でした。

<市区町村>
全国の市区町村の子ども支援の担当課を対象に行われた調査では、▽「内容も含めてよく理解している」が34.2%▽「存在は知っているが内容までは理解していない」が55.7%▽「存在を知らない」が9.3%となっています。

<学校>
全国の小学校・中学校・高校を対象にした調査では、▽「内容も含めてよく理解している」が小学校で23.4%、中学校が21.9%、高校では17.8%▽「存在は知っているが中身までは理解していない」が小学校で66.6%、中学校で65.8%、高校で73.9%となっています。▽「存在を知らない」と回答したのは小学校で10%、中学校で12.3%、高校が8.3%でした。

このほか、学校現場でガイドラインを周知した対象について調査したところ、「スクールカウンセラー」や「スクールソーシャルワーカー」への周知が、ほかの職種と比べて低い状況だったということです。

虐待受けてきた女性「子どもの気持ち第一に対応してほしい」

幼い頃から自分の信仰や意思とは関係なく宗教活動を強制されるなど児童虐待に当たる行為を受けてきたという女性は、「子どもが本当はどうしたいのか、子どもの気持ちを第一に対応してほしい」と訴えています。

親や祖母が宗教団体の信者だという20代の女性は、幼いころから宗教団体の集まりへの参加を強制されていたほか、教義を理由に友達と遊ぶことや学校行事への参加などを禁じられてきたといいます。

母親が学校に対して宗教上の理由で行事への参加ができないなどと伝えていたといい、小学校で節分やクリスマスなどのイベントが行われる際には、保健室や図書室で1人で過ごしていたということです。

女性は学校の行事に参加したいという思いがありましたが、担任の教師などから本当はどうしたいのか確認されることはなく、同級生に紛れて行事に参加しようとしても制止されたといいます。

国のガイドラインでは宗教活動などへの参加を強制することや、子ども本人が学校行事などに参加することを希望しているにもかかわらず、参加を制限する行為はいずれも心理的虐待やネグレクトに該当するとしています。

女性は、当時を振り返り「物心がついた時から信仰心が芽生えたことはありませんでしたが、周りの親族もみんな信者で学校の先生も母親の意見を尊重していたので、宗教に従うしかない人生なのかなと思って生きてきました。当時は宗教活動の強制が虐待に当たるとは思っておらず、誰に相談していいかもわかりませんでした」と話していました。

女性はその後、大学進学をきっかけに宗教活動からは距離を置き、幼いころの記憶は思い出さないようにしていたといいますが、安倍元首相が銃撃された事件を契機に「宗教2世」をめぐる問題が取り沙汰されるようになったことで、自分の経験が虐待に当たるとわかったといいます。

女性は、当事者の子どもが自分の状況を客観的に捉えたり、相談したりするためには、学校のかかわりが重要になるとしたうえで「子どもにとっては学校の先生が親以外で関わる身近な大人だと思うので、親の話だけを聞くのではなく、子どもが本当はどうしたいのか本心を拾い上げて、それを第一に対応してほしい。学校での配布物で宗教活動の強制は虐待にあたると知らせることで初めて気づける子どもも多いと思うので、子どもの目に入りやすい形で周知していってほしい」と訴えています。

宗教2世“子どもが相談できる環境づくりを”

いわゆる「宗教2世」の子どもたちが相談したり助けを求めたりできる環境づくりを進めてほしいと訴える当事者もいます。

親が宗教を信仰している10代の高校生は、幼少期から自分の意思とは関係なく宗教団体が開く集会や布教活動への参加を強制されてきたほか、アニメや漫画などを見ることも一切禁止されてきたといいます。

こうした行為は国のガイドラインで心理的虐待などに該当するとされていますが、当時は虐待に当たることは知らなかったといいます。

その理由について高校生は「母はいつも『宗教上の理由といえば世の中は許してくれる』と言っていたので、相談もしてはいけないと思っていた」と話していました。

その後、進学のタイミングで宗教活動からは距離を置くことができたことなどから自分自身が受けてきた行為が虐待に当たるものだとはじめて認識したといいます。

高校生は「周りの大人は宗教上の理由といったとたんに一歩引いてしまう部分があったように感じたので、子どもが『宗教上の理由』と言った場合でも、近くの大人が踏み込んで話を聞き、子ども一人一人にあったサポートをしてくれることが大事だと思う。学校で配布されるパンフレットなどを通して宗教2世の存在や信仰が強制されることは間違いであることを伝えたり、子ども向けのガイドラインを作ることも必要だと思う」と話していました。

“宗教2世”の団体「児童虐待防止 制度の構築望む」

宗教の信仰を背景にした児童虐待の実態について国による初めての調査結果が公表されたことを受けて、いわゆる「宗教2世」の人たちでつくる団体「宗教2世問題ネットワーク」が声明を出しました。

声明では、医療機関を対象とした調査で13歳の子どもが死亡したケースの報告があったことについて「医療ネグレクトは子どもの生命や健康に直結する卑劣な行為だ。国は医療ネグレクトを防止し胎児を含め、すべての子どもが適切な医療を受けることができる体制を早急に整備しなければいけない」としています。

そのうえで「報告書において宗教2世への支援が提言されたことは一定程度評価できるが、宗教2世の問題が生み出され放置されるままとなった背景にある法の不備や宗務行政のあり方には全く踏み込んでいない。宗教団体による組織的な児童虐待を防止し、国が介入する制度の構築に向け取り組みを進めることを強く望む」などとしています。

専門家「相談に乗ると積極的に伝えていく必要がある」

こども家庭庁の調査で検討委員会のメンバーも務めた立正大学の西田公昭教授は、親の宗教への信仰を背景とする虐待について「身体的虐待だけでなく心理的虐待も見えにくいものの、心の成長に深刻な影響を与える。親の宗教や思想に従って常に生活が制限されることで、友達との関係や職場での関係構築が難しくなり、『どう生きていけばいいか分からない』という声も上がっている」と指摘しました。

そのうえで、今後の課題について「国がおととし、宗教に関連した虐待の具体的な事例などをまとめた通知を出したが、今回の調査では児童相談所や学校などの現場ではどのように対応すればいいか判断に迷う事例があり、子どもも公的な機関に相談しにくいと感じている実態が明らかになった。今後、研修などを通じて専門的な知識を深めて相談機関の底上げを図り、子どもたちに対して、相談に乗るよということを積極的に伝えていく必要がある」と話していました。

加藤こども政策相「調査研究の結果踏まえ 対応検討へ」

加藤こども政策担当大臣は、閣議のあとの記者会見で「児童への身体的虐待や心理的虐待は、宗教の信仰を背景とするものも含め、その理由を問わず許されるものではない。調査研究の結果も踏まえ、今後どのような対応ができるか、さらに検討していく」と述べました。