巨大IT企業規制へ 課徴金盛り込んだ新たな法案を閣議決定 政府

スマートフォンの分野で優越的な地位にある巨大IT企業を規制するため、政府は26日、新たな法案を閣議決定しました。競争の妨げとなる禁止行為をあらかじめ示し、違反した場合には課徴金として売り上げの20%を支払わせる措置を盛り込んでいます。

アップルやグーグルといった巨大IT企業は、スマートフォンの分野で優越的な地位にあることから、新規参入の妨げや利用する事業者のコスト上昇が懸念されていて、政府は規制を強める方針です。

26日に閣議決定された「スマホソフトウエア競争促進法案」では、スマートフォンで使われる ▽基本ソフト ▽アプリストア ▽ブラウザー ▽検索エンジンの分野で、規制対象の企業を指定したうえで、アプリストアや決済システムで競合他社のサービスの利用を妨げることや、利用条件や取り引きで不当に差別的な取り扱いをすることなど、禁止行為をあらかじめ示しています。

指定された企業は、規制の順守に向けて毎年度、報告を求められ、違反した場合は、日本国内での売り上げの20%を課徴金として支払わせる措置を盛り込んでいます。

今の独占禁止法でほかの事業者の活動を不当に排除した場合と比べると、課徴金の水準は3倍以上で、違反を繰り返した場合には30%に引き上げられます。

政府は、今の国会で法案の成立を目指すことにしています。

巨大IT企業を規制 新法案とは

「スマホソフトウエア競争促進法案」は、デジタルサービスの分野で優越的な地位にある巨大IT企業を規制し、市場の競争を促すのが狙いです。

これまでの独占禁止法では違反が疑われる事例があっても個別のケースごとに違反の事実を立証しなければならず、時間も長くかかるという課題がありました。

このため、今回の法案では競争を妨げる禁止行為をあらかじめ定めることで、違反行為の是正を迅速にできるようにしたことが大きな特徴です。

禁止する行為として、他社のアプリストアや課金システムの利用を妨げること、検索の際に自社のサービスを正当な理由がないのに競合他社のサービスより優先的に取り扱うこと、さらに取得したデータを他社と競合するサービスを提供するために使用することなどを定めています。

公正取引委員会は今後、規制対象となる事業者を指定し、毎年度、規制の順守状況をまとめた報告書を提出させることにしています。

その上で、違反があった場合には、再発防止などを求める排除措置命令を出したり、課徴金の納付を命じたりするとしています。

このうち課徴金は違反した企業の日本国内での売り上げの20%を支払わせることにしていて、いまの独占禁止法でほかの事業者の活動を不当に排除した場合と比べて、課徴金の水準は3倍以上です。

さらに、10年以内に課徴金の納付命令を受けていたにもかかわらず、違反を繰り返した場合、課徴金の水準は30%に引き上げられます。

その一方、他社のアプリストアなどの利用に対しては、セキュリティーの確保やプライバシーの保護などで懸念の声も出ていることから、規制対象の企業が必要な措置を講じることを認めています。

政府は、新たな法案をいまの国会に提出し、成立を目指す方針で、法律が公布されてから1年半以内に本格運用を始めることにしています。

アプリ事業者の団体「対等な関係で交渉を期待」

アプリ事業者でつくる「モバイル・コンテンツ・フォーラム」の岸原孝昌専務理事は、巨大IT企業との関係について「力関係で絶対的な差があり、アプリ事業者はいま、『デジタル小作人』と呼ばれるぐらい非常に弱い立場になっている。アプリを販売した収益の30%をとられる状況や、審査においては主観的であいまいな基準で納得のいかないアカウントの停止やアプリストアへの登録の拒否が起きている」と指摘しています。

そのうえで、新たな法案が取りまとめられたことを受けて「対等な関係で交渉ができるようになると期待している。法律による義務に基づいて巨大IT企業が新たな仕組みを提案し、それに対してアプリ事業者や消費者が意見を言って改善していくという新しいメカニズムができるのではないかと思う」と話しています。

グーグル日本法人「建設的な議論深めていく」

巨大IT企業を規制するための新たな法案が閣議決定されたことについて、グーグルの日本法人は「これまで政府に積極的に協力し、変化が早く競争の激しいこの業界における弊社の事業運営について説明して参りました。今後も政府および業界関係者と建設的な議論を深めてまいります」とコメントしています。

公正取引委員会「消費者にもメリット及ぶ可能性」

巨大IT企業を規制するための新たな法案が閣議決定されたことを受けて、法案を所管する公正取引委員会の古谷委員長が都内で記者会見し「アプリストアなどが寡占状態にある中で、デジタル分野の成長に伴う果実を、巨大IT企業だけでなくスタートアップやアプリ事業者などが公正・公平に享受できる環境を実現したい」と述べました。

そのうえで、新たな規制による消費者への影響については「アプリストアの競争環境が整備されると、当然、コストが下がり、競争にもつながると思う。消費者の選択肢が広がり、安価でよりよい内容のサービスが提供される可能性が出てくるのではないか」と述べて、コスト削減や技術革新が進み、消費者にもメリットが及ぶ可能性があるという考えを示しました。

各国も監視を強める

デジタルサービスの分野で圧倒的な存在感を示すアップルやアマゾンなどの巨大IT企業に対しては、独占的な地位を利用して競争を妨げているという批判も高まっていて、日米欧の規制当局が監視を強めています。

このうち、EU=ヨーロッパ連合では、先月7日から巨大IT企業を規制する「デジタル市場法」の本格運用が始まっています。

日本の法案では規制の対象となっていないネット通販やSNSなどの分野も含まれ、巨大IT企業が自社サイトで自社の製品やサービスを優先的に表示したり、アプリストアで自社の決済システムなどを使うよう求めたりすることなどを禁止しています。

違反した場合、世界での年間売り上げの最大10%を罰金として科すことができるとしています。

先月25日には、EUの執行機関「ヨーロッパ委員会」がグーグルの親会社のアルファベットとアップル、それにフェイスブックなどを運営するメタの3社に対し、デジタル市場法に違反している疑いがあるとして、調査を開始したと発表しました。

また、日本でもEUの規制を参考にしながら今回、新たな法案をまとめ、競争の妨げとなる禁止行為をあらかじめ示したうえで、違反した場合には課徴金を支払わせる規制を導入します。

あわせて巨大IT企業への監視も強めていて、公正取引委員会は今月22日、グーグルに対し、「検索連動型」と呼ばれるインターネット広告の配信事業で、競合するLINEヤフーの事業を不当に制限していたとして、独占禁止法に基づく行政処分を出しました。

公正取引委員会がグーグルに行政処分を出したのは初めてです。

米規制当局は“GAFA”を提訴

さらに、アメリカでも司法省などの規制当局がGAFAと呼ばれる巨大IT企業4社に対し、日本の独占禁止法にあたる反トラスト法違反で訴えを起こしています。

このうち、アップルに対しては、司法省が先月21日「iPhone」をめぐり、他社の製品との間でアプリの機能を制限することなどで、市場での独占的な地位を違法に維持しているとして提訴しました。

また、アマゾンに対しては、サイトに出店している小規模事業者に多額の手数料を請求し不法に独占的な地位を維持しているなどとして、FTC=連邦取引委員会などが去年9月に訴えを起こしたほか、グーグルに対しても、反競争的な買収を通じてインターネット広告市場の競争を妨げているなどとして、去年1月、司法省などが提訴しました。

旧フェイスブックのメタについても、競合の可能性がある「インスタグラム」などの企業を買収し公正な競争を妨げたとして、FTCが2021年の8月に再び訴えを起こしています。

革新的なサービスが消費者に受け入れられ、巨大IT企業は人々の生活に欠かせないプラットフォーマーとしての地位を築いてきましたが、近年は自由な競争を妨げかねないとして各国の規制当局が警戒を強めていて、日本政府は欧米をはじめ各国政府と連携しながら規制の実効性を高めたいとしています。

林官房長官「公正な競争確保へ 法案整備が急務」

林官房長官は、閣議のあとの記者会見で「規制が先行するヨーロッパではデジタル市場法が本格的に動き出しているほか、アメリカでも司法省がスマートフォンの独占をめぐる問題でプラットフォーム事業者を提訴するなどの動きがある。日米欧3極で足並みをそろえ、デジタル分野での公正な競争を確保していくためにも、今回の法案の整備が急務で、国会審議でもこうした点を丁寧に説明していく」と述べました。

自見地方創生相「速やかな成立へ 力を尽くす」

巨大IT企業を規制するための新たな法案が閣議決定されたことを受けて、公正取引委員会を担当する自見地方創生担当大臣は、26日の閣議のあとの会見で、「この法案は、スマートフォンが国民生活および経済活動の基盤となる中で、利用に特に必要なアプリストアなどの特定ソフトウエアについて、セキュリティーの確保などを図りつつ、イノベーションを活性化し、消費者の選択肢の拡大を実現するための競争環境を整備するものだ」と述べました。

そのうえで「法案の速やかな成立に向けて今後の国会の審議に力を尽くしていきたい」と述べ、今の国会での成立を目指していく考えを示しました。