知床観光船 沈没事故2年 斜里町で午後に追悼式 犠牲者に祈り

北海道の知床半島沖で観光船が沈没し、20人が死亡、6人の行方が分からなくなった事故から23日で2年となります。地元の斜里町では午後、追悼式が予定され、犠牲者に祈りをささげるとともに事故の再発防止への誓いを新たにします。

2022年4月23日、知床半島の沖合で観光船「KAZU I」が沈没した事故では、乗客と乗員合わせて20人が死亡し、乗客6人の行方が今も分かっていません。

去年9月には事故を調査していた国の運輸安全委員会が最終報告書をまとめ
▽船は甲板のハッチのふたが確実に閉まっていない状態で、波の揺れで開いて海水が流入したとしたうえで
▽運航会社には安全管理体制が存在していない状態だったなどと指摘したほか、
第1管区海上保安本部は運航会社の桂田精一 社長から、任意で事情を聴くなどして業務上過失致死の疑いで捜査を続けています。

また、国や関係機関ではこの2年、事故を教訓に再発防止に向けた取り組みが進められています。

このうち、事故の原因とみられる、ハッチの不具合を見抜けなかったと指摘された国などの検査は手順が見直されたほか、観光船事業の免許は、今年度から問題のある業者を排除するため数年ごとの更新制となりました。

さらに、地元の自治体や観光協会などが体験型の観光のリスクを観光客に周知する取り組みも始まります。

事故から2年となる23日、地元の斜里町では、午後1時から追悼式が予定されています。

町によりますと、ことしは乗客の家族や関係者、合わせておよそ150人が参列する見込みで、犠牲者に祈りをささげるとともに事故の再発防止への誓いを新たにします。

乗客の家族30人 運航会社側へ賠償求め提訴へ

事故をめぐって乗客の家族30人が、運航会社側に賠償を求める訴えを5月下旬にも札幌地方裁判所に起こすことになりました。

弁護団は「法廷という公開の場で会社側の責任を明らかにして、家族が1歩前に進むきっかけにしたい」と話しています。

事故では、乗客の家族の弁護団が運航会社の「知床遊覧船」と桂田精一 社長に対して、損害賠償を求める訴えを起こす方針を明らかにしています。

弁護団によりますと、この裁判の原告に乗客14人の家族、合わせて30人が加わる方針を固めたということです。

この中には、裁判のため、行方不明の家族について法律の規定に基づき「死亡」とする認定を受けた人もいるということです。

請求額は少なくとも合わせて10億円に上る見込みで、弁護団は早ければ5月下旬にも札幌地方裁判所に訴えを起こすことにしています。

この事故をめぐっては、亡くなった甲板員の遺族が国や会社側に賠償を求める訴えを東京地方裁判所に起こしていますが、乗客の家族が賠償を求めるのは初めてとなります。

弁護団の山田廣 代表は「法廷という公開の場で会社側の責任を明らかにして、謝罪を受けることで、家族が一歩前に進むきっかけにしたい。事故の風化を防ぐとともに、再発防止に向けた対応を求める家族の思いを社会に訴えたい」と話しています。

一方、会社側はこれまで、取材に応じていません。

遺族「裁判で責任の所在を明らかにしないと息子が報われない」

おととしの事故では週末の休みを利用して観光に訪れていた松戸市の会社員、※ぬで島優さん(当時34)も犠牲になりました。

ぬで島さんの父親(67)が事故から2年となるのにあわせてNHKの取材に応じ、「荒れた氷のように冷たい海に投げ出され、どれだけの恐怖や苦しみ、絶望や無念さがあったのかと思うと今でも涙が止まりません。息子を失った喪失感は日ごとに大きくなっています」と胸の内を明かしました。

事故をめぐっては去年9月に公表された国の運輸安全委員会の報告書で運航する会社には当時、安全管理体制が存在していない状態だったことや国の検査や監査の実効性に問題があったことなどが指摘されていて第1管区海上保安本部は業務上過失致死の疑いで捜査を続けています。

父親は「運航会社や社長、そして国が、人の命を預る仕事を担っていたにもかかわらず安全意識のかけらもなかったことが明らかになったと思います。悪天候が予想されるなかで出航しなければ事故は起きなかったと思います。真剣に考えれば考えるほど怒りがこみ上げてきます」と話しました。

そして、他の家族らとともに、運航会社と社長を相手取り近く損害賠償を求める訴えを起こすことを決めたとして「裁判で責任の所在を明らかにしないと息子が報われない。知床遊覧船の事故を風化させてはいけないという思いもあります。会社と社長がどれだけ安全意識が欠如していたかを知ってもらい悲惨な事故が2度と起きないようにしたい」と話していました。

※ぬでは「木偏」に「勝」、「勝」は上の点が「八」

松戸市の会社員、※ぬで島優さんは(当時34歳)旅行が好きで事故当時も週末の休みを利用した観光で知床半島を訪れていました。

父親の仕事の関係で中学3年からオランダで過ごし帰国後に通っていた筑波大学では鉄道の安全に関する研究に取り組み学会で賞を取ったこともありました。

病気になった祖父の看病をするために一緒に暮らしたこともあるほど家族思いで、結婚を約束した女性もいるなかで事故に巻き込まれました。

父親(67)は「昔から努力を惜しまず、年を重ねるごとに成長していました。これからもっと良い生活が待ってたはずです。かわいそうでなりません」と思いを語りました。

事故が起きた4月23日は父親の誕生日で、優さんは退職後の趣味にしてほしいとドローンをメッセージカードとともにプレゼントとして準備していました。

父親は事故の後にそのことを知りましたが、プレゼントを開けることはできていません。

父親は「せっかく息子が買ってくれた物なので、そろそろ開けようかなという気持ちにもなっていますが、息子がいないことがしっくり来なくてまだ前向きなことをする気持ちになれません。今後進む裁判のどこかの節目などで、開けるのかなと思っています」と話していました。

※ぬでは「木偏」に「勝」、「勝」は上の点が「八」