このうち、ウクライナ東部ハルキウ州の、ロシアとの国境から30キロほどのところにあるデルハチでは、地元当局によりますと、先月25日と今月11日、滑空爆弾による攻撃を受けたということです。
市の広報をつとめるオレクサンドル・クリクさんは、NHKの取材に対し、先月の攻撃の際には、滑空爆弾が落ちてくる様子を目撃したと証言しました。
ロシア軍 “滑空爆弾”で攻撃か ウクライナ東部で被害相次ぐ
ロシアとの国境や前線に近いウクライナ東部の自治体では、ロシア軍が使用した滑空爆弾で攻撃されたとみられる被害が相次いでいます。
目撃者「飛行機が飛んでいると思った」
クリクさんは「最初、飛行機が飛んでいると思ったが、音が次第に大きくなり、だんだんと近づいてきた。音がする方向を見て、ミサイルか無人機かと思ったがそのあと、とても大きな爆発音が聞こえた。そして、その瞬間、地面に倒れた。爆発音から無人機ではなく、ミサイルか、もっと大きなものだとわかった」と話し、当時の緊迫した様子を振り返りました。
着弾した場所から400メートルから500メートルほど離れていたものの、爆風を感じたとしています。
そして、現場に着くと、巨大な穴があいていたのがわかったとして「5メートルほどの深さで、幅は10メートルから15メートルくらいあった。ものすごい破壊だった」と話し、その威力の大きさを語りました。
クリクさんによりますと、滑空爆弾が落ちたのは空き地だったということですが、その衝撃や爆風などで4人がけがしたほか、周辺のおよそ10棟の住宅や車に被害が及んだということです。
そのうえで「この地域に軍の部隊はいない。つまり、攻撃は、民家やインフラを狙ってきたものだった。恐怖を植え付け、パニックを引き起こして、地元住民の心をくじこうとしているんだと思う」として、ロシア軍が意図的に市民を狙っていると訴えていました。
“グライダーのように滑空” 滑空爆弾とは
滑空爆弾は、翼を備えているためグライダーのように滑空し、通常の爆弾より遠方にある目標を爆撃できるのが特徴です。
ロシア軍は、保有している通常の爆弾に誘導装置と翼を装着することで滑空爆弾に改良したものを多く使用していると指摘されています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、ロシア軍がことし2月に掌握したウクライナ東部の拠点アウディーイウカでの戦闘に関して「前進する歩兵部隊を支援するため初めて大規模に滑空爆弾を投下した」として滑空爆弾がロシア側の攻勢を支えたと指摘しました。
アメリカのCNNテレビは、滑空爆弾について「ウクライナの防衛線を壊し、前線のバランスを崩している」としてウクライナ軍にとって大きな脅威になっていると伝えています。
ロシアメディアによりますと、ショイグ国防相は、先月下旬、ロシア国内の軍需工場を視察した際、重量最大3トンに及ぶ爆弾の大量生産を開始したという報告を受けるなど空爆を強化する姿勢を強調しました。
ロシア側は、滑空爆弾であればウクライナ側の防空システムから離れた場所から投下できるため、戦闘爆撃機などが撃墜される危険性も低下するとして今後も各地で大量の滑空爆弾を使用するとの見方が出ています。
一方、ウクライナ側は、防空システムのミサイルが枯渇しているとして防空能力の強化に向けた支援を欧米側に求め続けています。
欧米のメディアは、滑空爆弾を投下するロシア軍機に対処するため、ウクライナ側でアメリカのF16戦闘機の供与を望む声もいっそう高まっていると伝えています。
着弾した地面には巨大な穴 住民「とても怖かった」
先月25日に滑空爆弾で攻撃されたとみられるウクライナ東部ハルキウ州のデルハチの着弾現場を撮影した写真や映像からは、その威力の大きさがうかがえます。
着弾した地面には、ぽっかりと巨大な穴があいています。周囲には、覆いが吹き飛ばされ骨組みがあらわになった建物や、壁が大きく壊れたり屋根がなくなったりした建物、また、樹木が大きく傾いている様子も確認でき、衝撃の大きさがわかります。数十センチの長さの爆弾の破片とみられるものもうつっていました。
滑空爆弾により自宅が被害を受けた女性は「窓、ドア、屋根もすべて被害を受けた。門は、なくなってしまった。誰も亡くならなかったのはよかった。とてもとても怖かった」と話していました。
デルハチのザドレンコ市長は「敵は軍事基地を破壊しているように見せかけているが、実際は人道的な大惨事を引き起こしている」と話し、強い口調でロシア軍を非難しました。
軍事専門家「数十の滑空爆弾 低出力の戦術核兵器に匹敵」
滑空爆弾について、ウクライナの元海軍大将で軍事専門家のカバネンコ氏は、NHKの取材に対し「ロシアの航空機1機で複数の爆弾を搭載でき、集団の航空機で多くの被害をもたらすことができる。数十の滑空爆弾の威力は、低出力の戦術核兵器にも匹敵する」と指摘しました。
また、標的から距離をとって投下できるのが特徴だとして、その距離は50キロから70キロに及び、対抗できるのは、より高性能な地対空システム「パトリオット」などに限られるとしています。
そして「爆弾を迎撃するのは簡単ではない。高速で感知しづらく、大量に使われるからだ。迎撃できる防空システムもあるが、ウクライナには足りていない」と述べ、現状では、滑空爆弾の攻撃から守るのは難しいという見方を示しました。
その上で「滑空爆弾は深刻な破壊をもたらす。ロシア軍はウクライナ軍の部隊だけでなく市民や住宅地に対しても使っている。ロシアによるウクライナへのテロ行為そのものだ」と述べ、ロシア軍は大量の滑空爆弾で無差別な攻撃を続けているとして市民にとっても大きな脅威になっていると指摘しています。