“世界最大の選挙” インド総選挙 きょうから投票始まる

有権者が10億人近くにのぼり、世界最大の選挙と言われるインドの総選挙の投票が19日から始まります。
与党側がモディ政権のもとで実現した高い経済成長を実績としてアピールする一方、野党側は格差や失業が深刻化していると批判を強めており、激しい選挙戦が繰り広げられています。

インドの議会下院の選挙は19日から、全国の選挙区を7つに分けて6月1日まで順次投票が行われ、有権者がおよそ9億7000万人にのぼり世界最大の選挙になると言われています。

選挙では3期目を目指すモディ首相率いる与党、インド人民党と政権交代をねらう最大野党、国民会議派を中心とする野党連合が議席を争う構図となっています。

与党側はモディ政権のもとGDP=国内総生産が世界5位にまで上昇し、2027年には世界3位の経済大国になると予測されるなど高い経済成長を実現した実績をアピールしています。

これに対し野党側は経済発展のかげで格差が拡大し、若者の雇用も十分に確保されていないとして批判を強めています。

事前の各世論調査では与党インド人民党が優勢となっていますが、第1回の投票が行われる選挙区の一つ南部タミルナド州では、野党連合に加わる地域政党が強い支持基盤をもっています。

このためモディ首相が現地に入って大規模な選挙活動を行うなど激しい選挙戦が繰り広げられています。

選挙戦はこのあと各地で本格化し、開票は6月4日に一斉に行われます。

3期目を目指すモディ首相

今回の総選挙で3期目を目指すのがナレンドラ・モディ首相、73歳。

インド西部グジャラート州の出身で、鉄道駅などでチャイと呼ばれる紅茶を売る貧しい家庭で育ちました。

2001年から13年間、出身地であるグジャラート州の州首相を務め、電力や道路などのインフラ整備を進めたほか国内外の企業の誘致に取り組み、高い経済成長をもたらしました。

経済手腕を期待され2014年に行われた総選挙ではインド人民党を圧勝に導き、首相の座に上り詰めました。

首相就任後は「メイク・イン・インディア」と題して、外国からの投資を積極的に誘致するキャンペーンを打ち出して、長年、課題となっている製造業の振興や雇用の創出に取り組み、前回2019年の総選挙でも再び圧勝しました。

一方、政治面では国民のおよそ8割を占めるヒンドゥー教徒を重視する姿勢をとっています。

背景には、かつてモディ首相も所属し政権与党インド人民党の支持基盤になっているヒンドゥー至上主義団体であるRSS=民族奉仕団の存在があるとされています。

先月には近隣の国から迫害を逃れてきたヒンドゥー教徒などに市民権を与える改正法の施行が発表されましたが、少数派のイスラム教徒を対象外としていることから宗教による差別だと野党から批判されています。

また外交面では、海洋進出を強める中国を念頭に日本やアメリカ、オーストラリアとともに4か国の枠組み「クアッド」を形成するなど安全保障や経済の面で欧米諸国と協調する姿勢を強めています。

ただインドはロシアの伝統的な友好国でウクライナ侵攻後も欧米がロシアに対して制裁を続ける中、原油の輸入を増やすなど経済関係を強化し、国益を最優先とする「全方位外交」を展開しています。

また去年議長国インドで開かれたG20では、新興国や途上国が抱える課題を中心に議論を主導し、グローバル・サウスの国々をけん引する姿勢を示すことでインドの国際社会での存在感を高めようとしています。

対抗する野党は

インドの総選挙でモディ首相率いる政権与党インド人民党に対抗するのが、最大野党の国民会議派です。

国民会議派の実質的リーダーがラフル・ガンジー氏、53歳。

インド独立後の初代首相ネルー氏のひ孫にあたり、祖母のインディラ・ガンジー氏や父親のラジブ・ガンジー氏も首相を務めたインド政界の名門、ネルー・ガンジー家の直系です。

ラフル・ガンジー氏は、前回2019年の総選挙で惨敗を喫した責任をとり、国民会議派の総裁の座を退きましたが、野党支持者の間で根強い人気を誇っています。

今回の選挙ではインド各地を精力的に回り、モディ政権下で若者の失業が深刻化しているほか経済格差が拡大していると激しく批判し、モディ政権打倒の筆頭に立っています。

一方、インドの複数のメディアは最新の世論調査でインド人民党が過半数の議席を維持する勢いだと伝えるなど、モディ首相の政権運営への支持が堅調だという見方を示しています。

こうした中、国民会議派はほかの地域政党とともに野党連合を結成し、候補者の調整などの選挙協力を進めることで、インド人民党1強体制の切り崩しを図っています。

野党連合をめぐっては先月、モディ首相の政敵として知られる有力な指導者が汚職事件に関与した疑いで捜査当局に逮捕されました。

野党側は政権による締めつけだとして大規模な抗議集会を開くなど反発を強めているのに対し、モディ政権側は政治的な動機に基づくものではないと正当性を主張していて、与野党の対立が激しさを増しています。

専門家 “経済問題への不満強く争点か 与党はモディ氏前面に”

インド情勢に詳しい防衛大学校の伊藤融教授は、今回の総選挙の争点について「雇用問題など経済的な問題への不満が前回の総選挙と比べてもかなり強くなっていて、野党はこの点を争点に据えていくと思う。一方で与党・インド人民党は、マニフェストで党というよりモディ氏を前面に押し出している。たたき上げの政治家のモディ氏には経済的な不満を覆うほどの人気があり、どのように結果に影響を与えるのか注目される」と述べました。

その上で、世論調査でリードするモディ首相の政党が勝利し3期目に入った場合、インドがどう進むかについて「1つはヒンドゥー・ナショナリズムがさらに深まっていくという方向性が考えられるが、ナショナリズムに関わる政策は2期目でほぼやりつくしてしまっている。もう1つの可能性は世界の大国を目指すというもの。そのためにナショナリズムを抑えて実利を重視する可能性があり投資を呼び込むために、西側の秩序にある程度あわせようとすることも考えられる。投資の観点から国境問題を抱える中国との関係改善が進むこともありうる」と分析しています。

一方で「インド国内の世論調査では選挙管理委員会への信頼が下がっていて、電子投票マシンが操作されていると疑いを持つ人もかなり増えている」と指摘したうえで、「今回の総選挙ではそもそも選挙自体に野党が平等に参加して競い合われ、その結果が自由で公正なものだったと有権者が受け止めるかどうか、そしてインドが『世界最大の民主主義国』という看板通り、選挙にもとづく民主主義が行われていると立証できるかが問われている」という見方を示しました。

「世界最大の選挙」その仕組みは

5年に1度行われるインドの総選挙は「世界最大の選挙」と言われ、選挙管理委員会によりますと有権者はおよそ9億7000万人にのぼるほか、投票所も広大なインド各地に100万か所以上設置されるということです。

また参加する政党や候補者も多いことで知られ、前回2019年の選挙では地域政党も含めて670余りの政党が参加し候補者は8000人を超えました。

選挙では、下院議会の545議席のうち大統領が指名する2議席を除く543議席が小選挙区で争われます。

投票は7回に分けて行われ、4月19日に102選挙区、4月26日に89選挙区、5月7日に94選挙区、5月13日に96選挙区、5月20日に49選挙区、5月25日に57選挙区、6月1日に57選挙区で行われます。

集計などの作業の効率化のために電子投票が導入されていて、開票は6月4日に一斉に行われます。

新政権の発足には過半数の議席の獲得が必要で、選挙後に第1党を中心に政権づくりが進められるものとみられます。