新社会人のスピード退職 相談多数 背景は 離職防止でAI活用も

退職代行サービスへの相談が増えるなど、4月に入社したばかりの新社会人のスピード退職について、専門家は「不確実性を少なくしたいと思う人も多く、適切な情報を伝えることが大事だ」と指摘しています。こうした中、雇用側とのミスマッチを減らし、早期離職を防ぐためにAIを活用する取り組みが始まっています。

都内や大阪にある「退職代行サービス」を運営する会社を取材すると、いずれも4月に入社したばかりの新社会人からの退職に関する相談がすでに多数寄せられていることが分かりました。

こうした中、東京都市大学の白鳥成彦教授はミスマッチによる離職を減らそうと退職の可能性がある従業員を予測しケアにつなげるためのAIをスタートアップ企業と共同開発しました。

大学を中退する学生の特徴をAIで予測しサポートにつなげる研究などを応用したといいます。

新たに開発したAIは、その企業の全社員に関するこれまでの勤務データ、社員の性別や特性など人事に関する情報や、過去の退職や休職をした従業員のデータを読み込ませて企業ごとの離職者モデルを作成します。

新社会人についても作成したモデルに、入社後の出退勤の時間や欠勤状況など日々の勤務の情報を入れていくと、AIが退職のリスクを予測し、リスク度を数値で表示します。

さらに今後は、採用面接の情報や個人の特性や経歴といった情報を取り込むことで、適正な配属先なども予測できるようにしたいとしています。

白鳥教授は「人事の主観ではなく客観的なデータからみる強みがあって、上司ガチャや配属ガチャなどと感じている新入社員を見つけて、本当にケアを集中してあげる必要がある人に集中することができる。ただ、離職予測AIはリスクを見つけるが、データの裏にあるリスクや原因を解決するのはあくまでも人が取り組む必要がある」と話していました。

専門家「今の若者 解像度が非常に低いと不安が増してくる」

若者の就職事情などに詳しいリクルート就職みらい研究所の栗田貴※よし所長は、新社会人のスピード退職について「企業側としては一律的、画一的なやり方に従業員が合わせてもらうほうが効率的な部分があって楽だったと思うが、幸福論や働き方、置かれている環境が多様な形になってくると、一律的なやり方にあてこまれると、ほかに魅力的な職場があれば『私としてはこっちの職場の働き方の方が魅力があるんで』という形で、なかなか定着や活躍してもらいにくくなっている」と指摘しています。

そして、今の若者の傾向として「特に今の若い方と話すと、極力不確実性を少なくしたいという思いを持っている人が多いと感じる。自分がどこの職場で誰と何をすればいいのか、解像度が非常に低いと、不安が増してくる。逆にこの職場でこういう人たちとこういうことをしていくというのをきちんと伝えておけば、解像度は上がり、不安はだいぶ少なくなる」と分析しています。

そして、時間やコストをかけて採用した新社会人がすぐに退職することは痛手だとして、「企業側にとっては入社してもらうことが目的ではなく入社してから定着し活躍してもらう、成長してもらうことがゴールとしたときに、適切な情報を学生に伝えていくこと。それはよいこと、つらいことも含めて、しっかりと学生に理解してもらい、この会社で働くことが自分にとって意味があると認識したうえで入社することがすごく大事なのではないか」と話していました。

※よしは「示」へんに「羊」。

スピード退職 経験した女性は

2年前に、新社会人として就職した会社を2か月目の5月に退職したという女性に話を聞きました。

山本名菜さん(26)は大学卒業後、インターネット関連の会社に入社しましたが、2か月間の研修終了時に、会社側にかねてから希望を伝えていましたが希望とは異なる配属先を伝えられました。

それをきっかけに退職を決めたと言います。

山本さんは当時を振り返り、「どの部署だったら続けられそうとか、お互いに妥協点を見つけていくような対応があればまだ残ることも考えられたかなと思う」と話していました。

一方で「若いうちに早くスキルを身につけるためには全然ハードワークもいとわない。将来的に自分の大事にしたいものに時間を割けるような暮らし方ができたらいいなと思っているので、一定のスキルを身につけたら独立するというのも頭にあった」と、入社時から、ある程度の時期で退職することは念頭にあったといいます。

退職後はフリーランスとして働いているという山本さんは、「今は転職するのも当たり前だし、同じ会社に長く勤めたらそれだけ得られるものがあるのかと言ったら、多分人によって全然違うし、組織によっても違うと思うので、『早く辞めるのが悪』のような考え方はなくなるといいなと思う」と話していました。

東京の退職代行業者「難しい時は退職転職考えるのも手」

退職したい人に代わって退職の手続きを進める業者には、4月に就職したばかりの新社会人からの相談が相次いでよせられています。このうち、東京 大田区にある退職代行サービスを行う業者は今月に入って15日までに678件の依頼に対応し、そのうち新社会人が110人を占めているということです。

代行を依頼した新社会人の退職の理由として、
▽「事前に聞いていた業務内容と違っていて、キャリアプランが不安になった」とか、
▽「入社前の説明では服装・髪型は自由だったが、髪の色が明るいという理由で入社式に参加させてもらえなかった」など、
事前に聞いていた業務内容や条件が実際と違ったという内容が多いということです。

このほか、「社長から『使えないやつだ』などの暴言や高圧的な態度を取られた」など、パワハラのような経験をしたことを理由にあげる人もいたということです。

退職代行サービス「モームリ」の谷本慎二代表は「長く勤めることは大事だと思いますが、退職の理由をみると、辞めて次の会社に行ったほうがいい人も多いという印象があります。頑張れる人は頑張ったほうがいいが、それでも難しい時は退職、転職を考えるのも手だという実感があります」と話していました。

そのうえで、企業の側に対しては、「時代柄、退職する人の側もコミュニケーションが足りない人もいる印象もあり、企業側も大変だと思いますが、特に労務関係の面では会社としてきちんとしたほうが退職は減るのかなと思います」と指摘しています。

大阪の退職代行業者「会社側もびっくり」

大阪市に本社がある退職代行サービスを行う会社は月750件ほどの依頼を受け付けていて、世代は20代や30代が8割を占めるということです。

4月1日からこれまでに、434人の依頼がありこのうち新社会人はおよそ54人で退職代行サービスを始めた5年前から年々増えているということです。

中には入社前の3月中旬に依頼が寄せられたケースもあったということです。

サービスを始めた当初は退職の理由として、
▽上司が怖い
▽なかなかやめさせてくれない、などが多かったといいますが、
最近の傾向として、
▽採用面接や研修時に世話になった会社と後腐れなくやめたいとか、
▽会社が嫌いなわけではない、
▽上司や先輩が働いているのを見て自信がなくなったなどが多くあがるようになったということです。

退職代行サービスを行う「アレス」の佐藤英一郎さんは「『会社でよくしてもらって感謝しているが自分に合わないのでやめたい』と、会社側もびっくりして『何で?』というギャップがある問い合わせが増えている」と話していました。

4月に転職サイト登録も増加傾向

新社会人の退職が相次ぐ一方で、入社直後の4月に転職サイトに登録する新社会人は増加傾向にあるといいます。

大手の転職サービスでは、去年4月に登録をした新社会人は数千人規模で過去最多となり、▽2011年の同じ時期のおよそ30倍、▽2017年の2倍以上でした。

ことし4月にサイトに登録した新社会人の数も去年と同程度に推移していて、入社直後からの登録が加速しているといいます。

転職サービス大手の「doda」の担当者は、「雇用形態や働き方の改革が進むなど先の見通せない情勢を受けて早い段階から転職の情報収集を始める新社会人が増えている」としています。

「就職後3年以内の離職率」3割超の水準

相次ぐ新社会人の離職ですが、データからも若手の離職率が減っていない状況が分かります。

厚生労働省の調査では、4年前の2020年3月に大学を卒業した人のうち、就職後3年以内に離職した人の割合は32.3%と、前の年に比べて0.8ポイント増えました。

こうした「就職後3年以内の離職率」はこの10年以上、3割を超える水準で、「10人就職したら3人以上は離職する」という状況が続いています。

また、3年前の2021年3月に大学を卒業した人のうち、2年以内に退職した人は24.5%と、ここ10年で最も高くなっているのが現状です。