新潟水俣病集団訴訟 原因企業に賠償命じる判決 新潟地裁

新潟水俣病と認定されなかったり特別措置法による救済策でも対象から外れたりした新潟県に住む人など47人が賠償を求めた裁判で、新潟地方裁判所はこのうち26人を新潟水俣病と認め、原因企業に賠償を命じる判決を言い渡しました。一方、国に対する訴えは退けました。

新潟県阿賀野市などに住む50代から90代の47人は手足のしびれなどの特有の症状があるのに4大公害病の1つ新潟水俣病に認定されていないなどとして、国と原因企業の昭和電工、現在のレゾナック・ホールディングスに1人当たり880万円の損害賠償を求めました。

18日の裁判で新潟地方裁判所の島村典男裁判長は「症状の内容などから、有機水銀が原因でり患している蓋然性が高い」として、原告47人のうち26人については新潟水俣病と認めました。

賠償を求める期限を20年と定めた「除斥期間」については「原告の症状は提訴の20年以上前に生じていて期間をすでに過ぎていたが、差別や偏見のために賠償請求する権利を行使することは困難だった」と指摘し、適用しないという判断を示しました。

その上で、原因企業に1人当たり400万円を支払うよう命じました。

一方、国の責任については「有機水銀が排出されていることや、周辺住民に健康被害が出ることについて、国は、具体的に認識し予見できたとはいえない」と指摘し、原告側の訴えを退けました。

住んでいた「地域」や「年代」で対象を区切った特別措置法の基準外でも水俣病と認められるかどうかなどが争われた同様の集団訴訟の判決は3件目で、去年(2023年)大阪地方裁判所は、原告全員を水俣病と認め国などに賠償を命じた一方、先月(3月)、熊本地方裁判所は原告の訴えを退けていて、司法判断が分かれる形となっています。

原告団 横断幕を掲げ裁判所に

判決を前に、原告や弁護士などの原告団は午後0時半すぎ「全ての水俣病被害者の救済を」「生きているうちに解決を」などと書かれた横断幕を掲げながら新潟地方裁判所の前を歩いた後、裁判所の中に入っていきました。

原告団が旗出し 厳しい表情をする支援者も

新潟地方裁判所の前では午後1時35分ごろ、裁判所から出てきた原告団の弁護士が「国の責任を認めず」「多数水俣病と認める」と書かれた紙を掲げました。

紙が掲げられると、裁判所の前に集まっていた原告や支援者の中には「ああ」という声を挙げて厳しい表情をする人も見られました。

原告団長「19人が認められず本当に残念」

判決後、原告団は新潟市内で判決内容の報告会と記者会見を開きました。

このなかで原告団の皆川栄一団長は「きょうの判決を迎えるまで10年という長い年月がすぎ、全員救済を訴えてきたが、19人が認められず本当に残念だ。なんと言っても、国の責任を本当に求めてきて国に負けたと思うと悔し涙が出る」と述べました。

皆川さん自身は、判決で新潟水俣病と認定されたということで「長い間、苦しんで、自分と格闘してきた悔しい気持ちが今回ようやく認められた」と話していました。

また新潟弁護団の中村周而弁護団長は今後の対応について「きょうの判決結果を踏まえて、原告団で、控訴する方向で議論を進めてほしいと思う。判決は、解決に向けて政策の転換を進める意味で大きな意味はある」と述べました。

75歳男性「率直に認められてよかった」

判決で新潟地方裁判所から新潟水俣病と認められた75歳の男性は「率直に認められてよかったなと思っています。ただ、19人の原告が認められなかったことや国の責任が認められなかったことは残念です。きょうの判決で痛みや苦しみが解消されるわけではないので人生の中で病と付き合っていこうと思います」と話していました。

熊本県水俣市 男性「厳しい判決だったと思う」

判決が言い渡された新潟地方裁判所には、同様の集団訴訟で、熊本地方裁判所に訴えを起こしている原告団の団長で、熊本県水俣市の森正直さんも訪れました。

判決が言い渡された直後、森さんは、原告47人のうち26人が水俣病と認められたことについて「全員が水俣病と認められることを目指していた。厳しい判決だったと思う」と述べました。

熊本地裁は先月、一部の原告を水俣病と認めた一方、損害賠償を求めることができる20年間の「除斥期間」が過ぎているなどとして、いずれも訴えを退ける判決を言い渡しました。

この後、新潟市内で開かれた記者会見に出席した森さんは、新潟地裁が判決のなかでこの「除斥期間」を適用しなかったことについて「裁判所が『正義・公平の理念に反する』という理由を述べたことに救われ、勇気づけられた。今後の私たちの闘いが少しはいい方向に向かう判決を出してもらえたと思う」と話していました。

傍聴券の倍率 22倍余

判決を傍聴しようと新潟地方裁判所には多くの人が集まり、傍聴券の抽せんが行われました。

裁判所によりますと一般の傍聴席11席に対して243人が並び、倍率は22倍余りでした。

大学で法律を学んでいるという女性は「判決が言い渡されるのを直接見て学びたいと思い、裁判所に来ました。全国で判決が割れるなか今回どのように判断されるのか注目しています」と話していました。

また、仕事の関係で新潟水俣病の症状がある人たちとの接点があったという50代の女性は「救済がないまま亡くなる人がいる中、少しでも救いのある判決が出てくれればいいと思います」と話していました。

林官房長官「引き続き被害者救済」

林官房長官は午後の記者会見で「現時点で判決の詳細は承知していないが、国に対する原告の主張は棄却されたと承知している。水俣病の被害者救済については、引き続き、公害健康被害補償法や水俣病の特別措置法に基づく給付などを適切に行うとともに、医療・福祉の充実、地域づくりなどに取り組んでいく」と述べました。

環境省「法律の丁寧な運用を積み重ねていく」

新潟水俣病に認定されなかったり、救済策の対象から外れたりした新潟県に住む47人が、国と原因企業に賠償を求めた裁判の新潟地方裁判所の判決について、水俣病に関する補償や施策などを担当する環境省は「判決の詳細は把握していないが、国との関係では原告の請求が棄却されたものと承知している。環境省としては、今後とも、公害による健康被害への補償に関する法律の丁寧な運用を積み重ねていくとともに、地域の医療・福祉の充実、地域の再生・融和・振興に取り組んでいく」とコメントしています。

原因企業「判決内容を確認し対応を検討」

判決のあと原因企業の昭和電工、現在のレゾナック・ホールディングスは「判決内容を確認し、今後の対応を検討します」とするコメントを発表しました。