「漫画村」元運営者に17億円余賠償命令 “出版権を侵害”

人気漫画を無断で掲載した海賊版サイト、「漫画村」を運営していたとして有罪判決が確定した男性に大手出版社3社が賠償を求めた裁判で、東京地方裁判所は、「作品の出版権が侵害された」として男性に17億円余りの支払いを命じました。
出版社側によりますと、著作物の権利侵害をめぐる裁判の賠償額としては過去最高とみられます。

大手出版社のKADOKAWA、集英社、小学館の3社は、海賊版サイト「漫画村」を運営していたとして著作権法違反などの罪に問われ、懲役3年の判決が確定した星野路実さんに19億円あまりの賠償を求めました。

服役後、刑事裁判のやり直しを申し立てている星野さんは、今回の民事裁判でも「運営者ではない」などとして争っていました。

判決「出版社が持つ出版権などが侵害された」

18日の判決で東京地方裁判所の杉浦正樹裁判長は、漫画村の開設当初から積極的に管理・運営に関与していたと認めたうえで、「ほかの関係者と共同して漫画作品の画像データを無断で閲覧できるようにした。出版社が持つ出版権などが侵害された」と指摘しました。その上でそれぞれの作品の販売価格や閲覧数などをもとに損害額を算出し、あわせて17億円余りを3社に支払うよう命じました。

出版社側の弁護士によりますと、著作物の権利侵害をめぐる裁判の賠償額としては過去最高とみられます。

海賊版サイト「漫画村」とは

「漫画村」は、人気漫画の単行本や漫画雑誌などおよそ7万冊を作者や出版社に無断でインターネット上に掲載していた海賊版サイトです。

誰でも無料で閲覧でき、2018年4月に閉鎖するまで多くのアクセスを集めました。

閉鎖する前の月の月間アクセス数は1億近くにまでのぼり、海賊版対策などを行う「CODA=コンテンツ海外流通促進機構」の試算では、いわゆる「タダ読み」された被害額は約3200億円と推計されています。

「漫画村」が出版業界に及ぼした影響は大きく、2018年には政府も知的財産戦略本部などで対策を検討するなど海賊版サイトが社会問題として注目されるきっかけにもなりました。

「漫画村」が閉鎖後も海外拠点に被害拡大

漫画の海賊版サイトをめぐっては「漫画村」が閉鎖されたあとも、海外を拠点にしたサイトが乱立し、被害は拡大しています。

出版社などでつくる一般社団法人「ABJ」によりますと、利用者が多い10の海賊版サイトの月間アクセス数の合計は調査を始めた2020年1月以降、増加傾向で、2021年10月には初めて4億アクセスを超えました。

2021年の年間アクセス数や滞在時間をもとにした“タダ読み”の被害額は推計1兆19億円にのぼり、前の年の紙と電子版をあわせた「正規」の漫画の市場規模6759億円を大きく上回りました。また、外国語の海賊版サイトが近年、東南アジア向けを中心に拡大していて、ABJのことし2月の調査では、確認できた1207の海賊版サイトのうち7割以上が外国語のサイトでした。

出版業界関係者によりますと、「漫画村」をきっかけに類似のサイトを立ち上げる動きが広がったとみられるということです。「漫画村」は2018年に閉鎖され、運営者は刑事裁判で有罪判決を受けましたが、関係者は「海賊版サイトが“稼げるビジネス”だと世界的に知られてしまった」と話しています。

こうした中、業界も対策を強化していて、ABJの広報部会長の伊東敦さんは、「海外を拠点とする海賊版サイトについても引き続き積極的に対応するとともに、海外のユーザーなどへの啓発も力を入れていきたい」と話しています。

大手出版3社“今後もあらゆる手段で対策を講じる”

原告の大手出版3社は、都内で記者会見を開き、共同でコメントを発表しました。

判決について「漫画村により出版コンテンツに生じた甚大な損害額は今なお深く、そのすべてを回復することはできないが、原告の主張が認められ、損害額が17億円強と示されたことは妥当だ」としています。

その上で、「国内だけでなく、いまだ深刻な被害が生じている国外でも同様の権利行使を行うなどして、作品を守り抜くため今後もあらゆる手段による対策を講じていく」としています。

一方、星野さんは判決の後、NHKの取材に対し、「納得しておらず腹立たしい。自分自身には財産がないので、出版社のパフォーマンス的な裁判で、結局見せしめにしたいのかなと思いました」と話していました。

海賊版サイトが今後も残るかという質問には「もちろん残ると思う。現に今でもまだ抜け穴を発見している」と話していました。

また、「得たものの方が大きかったので今後も広める活動を継続しようと思います。後悔はない」などとしていました。