消えゆく街の本屋… 陳列に工夫 独自の目利きで活路も

ネット通販や電子書籍の普及などで、10年で4600店あまりの書店が閉店しています。

文化拠点の役割がある地域の書店の支援に向け、17日、齋藤経済産業大臣が書店の経営者らと意見交換しました。

厳しい状況のなか、ユニークなアイデアでファンを増やす「街の本屋」も出てきています。

齋藤経産相が書店経営者などと意見交換

経営環境の厳しさを背景に全国的に書店が減少するなか、経済産業省は地域の書店には文化拠点の役割があるとして、振興に向けた部局横断のプロジェクトチームを立ち上げ、新たな支援策を検討しています。

17日は齋藤経済産業大臣が東京・港区の商業施設にある書店を訪れ、経営者や業界団体の代表らと意見交換しました。

参加者からは厳しい経営状況を訴える声が相次ぎました。

利益率が低いビジネスにもかかわらず、最近では普及が進むキャッシュレス決済の手数料が負担になっている

自治体の図書館に本を納入する際に実質的な値引きを迫られるケースもある

これに対し、齋藤大臣は、「政府が対応できるものと業界の慣行を直せば前進するものを整理したい」などと応じました。

意見交換のあと齋藤大臣は記者団に対して、「ほかの省庁との連携も今後必要になると思う。図書館、ウェブ、本屋の3つが共存する世界を目指したい」と述べ、ネット通販などとの共存に向けた経営支援策を検討していきたいという考えを示しました。

品揃え 陳列を工夫する街の本屋

東京・文京区の千駄木にある書店では、売り上げを支えていた漫画や雑誌の電子化が進み、オンライン販売が拡大している影響などで売り上げが減少していて、ピークだったおよそ20年前と比べると、10%ほど減っています。

売り上げを回復させようと店の代表の笈入建志さんが取り組んでいるのは「文脈棚」

「歴史」や「食」、「認知症」などのテーマ別に本を陳列し、あわせて店側が薦めたい本を並べます。

例えば、歴史をテーマにした本棚には、民俗学や民俗学者の本、民話の本、地方の歴史を研究した本、さらに、地方に暮らす人々のインタビューを集めた民衆史など、新書や専門書といったタイプの異なる本を組み合わせて陳列。

来店客が目当てにしていた本以外にも、幅広く関心をもってもらう狙いがあるということです。

「読みたい本の次の本につながれば」

(往来堂書店 笈入建志さん)
「新しい本も文庫になっている古い本も置くことで、自分が読みたいと思った本の次の本、次の次の本という風に自然に一目でつながっていけるように棚を作っています。本を1冊で置いておくよりも、そのテーマがおもしろそうに見えるというかいろんな引っ掛かりがあった方が本は売れていくと思っています」

このほかにも著者を招いたイベントや読書会を定期的に開くなどし、来店客を増やそうとしています。

(店を訪れた60代の女性)
「この本屋に来ると、棚から呼ばれ、自分の関心の幅が広がる感覚を覚えることがあります。本屋は生活にとって大切です」

(往来堂書店 笈入建志さん)
“来たかいがあった”と思ってもらえるような体験をしてほしい。そのために本をおもしろく見せるとか、自分の言葉で本を薦めるとか、気持ちよく本を買ってもらえるように、お客様のかゆいところに手が届くようにいろいろやっています。丁寧に本を薦めて、頑張っている店はたくさんありますが、採算にのらず、やむをえず閉店になってしまうというニュースがとても多いので、出版社とも話をしながら、お互いが利益の出るような仕組みを模索する必要があると思います」

仙台市から1時間以上 県外からも客が集まる書店

一方、宮城県栗原市には、仙台市から1時間以上かかるにも関わらず、県外からも客が訪れる書店があります。

店の名前は「六日町ナマケモノ書店」。

2021年に当時、地域おこし協力隊だった千田昭子さんが開きました。

お店が開いているのは、金曜日と土日祝日、月曜日だけですが、店内にはいすもあり、「ナマケモノ」という店の名前にもあるゆったりとした雰囲気が流れています。

並ぶ本は店主の“目利き”で厳選

店に並んでいる本は、必ずしも売れ筋というわけはありません。

まちづくりの本や、東北にまつわる本、それに一般の人が作った小冊子「リトルプレス」や雑貨など。

店主の目利きで厳選した本を中心に並べています。

(六日町ナマケモノ書店 千田昭子さん)
私が“ときめく”かどうか。いいねって思うものを置いています。評判のものでも、私が読んでピンとこないものは背伸びして置かないようにしています」

また、個人に無料で売り棚を貸し、趣味の本などを好きなように並べてもらって販売手数料を受け取る「棚貸し」も行っています。

ただ、光熱費などを支払うと、書店の利益だけで生活していくのは難しく、店主の千田さんは書店が休みの日に別の仕事を行って、生活費をまかなっているということです。

それでも千田さんは、書店は『地域の文化を豊かにする』という思いがあり、店を続けていきたいと考えています。

(六日町ナマケモノ書店 千田昭子さん)
「お客さんが来ない時には『私はこんなところで何をやっているのか』と思うこともありましたが、今ではこの店が“作った人とほしい人の橋渡しをしている”と感じています。本のページをめくる行為は人生を豊かにするし、個人の文化を育てるところだと思うので、できる限り続けていきたいです」

消えゆく書店 10年で4600店余 特に小規模店舗が

全国の書店や出版社などの業界団体が設立した「日本出版インフラセンター」によりますと、ことし3月時点の書店数は1万918店で、10年前と比べて、4600店あまり減りました。

とりわけ、売り場面積が1坪から49坪の小規模な店舗が大きく減り、10年前は5598店あったのが、ことし3月時点では3789店となっています。

販売の主力だった雑誌や漫画を中心に電子書籍化が進んだことや、ネット通販の拡大などで客足が遠のき、経営体力の乏しいいわゆる「街の本屋」を中心に経営状況が悪化したことが背景にあると見られています。

「街の本屋」保護の動き 進める国も

そうしたなか、海外では、出版文化の多様性などを確保していこうと、「街の本屋」を保護する政策を進める国もあります。

経済産業省によりますと、フランスでは、電子書籍の定価販売を義務づける法律が制定されています。

さらに「反アマゾン法」とも呼ばれる法律が2014年に定められ、オンライン書店による無料配送が禁止されているということです。

また、ドイツでは出版物の物流などを手がける会社が小規模な書店の支援にもつながるサービスを展開しています。

前日の夕方までに発注すれば、翌日には書籍が店舗に届くサービスや、オンライン販売の代行なども行っていて、小規模な書店が過剰な在庫を抱えるリスクが抑えられているほか、送料無料など利便性の面でもアマゾンに対抗しているということです。