日本製鉄のUSスチール買収計画にアメリカ大統領選挙の影響が…

幅広く関係強化を確認した日米首脳会談。

この中で日本企業による、ある買収案件が話題に上るのか、注目されていました。

粗鋼の生産量で世界4位の「日本製鉄」が、アメリカで100年以上の歴史を持つ「USスチール」をおよそ2兆円で買収するという計画です。

しかし、そこにアメリカ大統領選挙の影響が…

【NHKプラスで配信(4月20日(土)午後10時まで)】
サタデーウオッチ9(4月13日放送)

アメリカ大統領選で…

日米で幅広く関係強化を確認した、首脳会談。このなかで、日本企業による“ある買収案件”が話題に上るのか、注目されていました。

記者「(USスチール買収の件は)バイデン大統領と協議したのか?」

岸田首相「現在、当事者間で話し合われていると承知をしています。米国政府において法に基づき適正に手続きが進められると考えています」

粗鋼の生産量で世界4位の日本製鉄が、アメリカで100年以上の歴史を持つ「USスチール」をおよそ2兆円で買収するという計画です。

去年12月に発表されましたが、その直後、全米鉄鋼労働組合などから反発が。

全米鉄鋼労働組合 支部長
「最大の懸念は将来の不確実性。オーナーが替わると従業員の仕事への誇りが薄れる」

トランプ前大統領が反対 バイデン大統領も異例の言及

ここからが、異例の展開に。登場したのは…。

トランプ前大統領
「ひどい話だ。わたしなら即時に阻止する。絶対に」

その後、バイデン大統領も…。

「USスチールはアメリカの象徴的な鉄鋼会社であり、国内で所有、運営されるアメリカ企業であり続けることが不可欠だ」と声明を発表。

民間企業の買収計画に現職大統領が直接言及するのは、極めて異例です。

USスチールの本社があるペンシルベニア州は、11月の大統領選挙で勝敗のカギを握る激戦州のひとつ。このため、2人とも労働組合や市民からの支持獲得を狙っているとみられます。

日本時間の4月13日、USスチールは株主総会を開き、買収計画を賛成多数で承認しました。今後は買収完了に向けて、反対する労働組合との交渉、そして、安全保障上の観点から審査を行う、アメリカ政府の外国投資委員会の承認などが焦点となります。

【解説】USスチール買収事態の背景は?

3月までアメリカで取材していた伊藤良司キャスターと、日本製鉄を取材している経済部・野口佑輔記者が解説します。

まず、今回の事態を改めて整理します。

日本製鉄とUSスチール双方の会社の経営陣同士は、買収に合意しています。ところが、全米鉄鋼労働組合が「反対」を表明。大統領選でこの労働組合や市民の票を取り込みたい、バイデン大統領とトランプ前大統領も相次いで発言する事態になりました。

Q.なぜ、これほどの反発が起きているのでしょうか?

伊藤キャスター
労働組合ですので、将来の雇用に対する不安もあったと思いますが、それよりも、近代のアメリカを支えてきたかつての基幹産業が外国企業の手に渡るとなれば、プライドを傷つけられるという思いが強かったのではと思います。ただ、ここまで政治問題化したのは、大統領選挙の年に重なったからだと思います。今回の話はアメリカに駐在する日本企業の関係者の間でも非常に関心が高く、こうしたリスクが自分たちのビジネスにいつかふりかかるのではないかと交渉の行方を注意深く見守っています。

【解説】日本製鉄の買収計画は“破格”の好条件

Q.日本製鉄は、こうした事態を予想していたのでしょうか?

野口記者
日本製鉄は、これほど政治問題化するとは予想していなかったと思います。というのも、“破格”ともいえる好条件を示しアメリカにとっても“いい話”だと考えていたからです。

まず、買収の金額がおよそ2兆円で、これは当時のUSスチールの株価に40%を上乗せしています。また、労働組合が反発するなかで、組合員の解雇や工場閉鎖はしない。さらに、「USスチール」の社名や本社も維持することを示しています。

そもそもUSスチールは、アメリカのほかの鉄鋼メーカーなどからも買収提案を受けていましたが、日本製鉄の提案が「優れている」と判断しました。日本製鉄の社長も会見で「この買収によるアメリカ側のマイナスは、考えつかない」と発言しているほどです。

【解説】日本製鉄が“買収したい理由”は?

Q.日本製鉄がそこまでして買収しようとするのはなぜでしょうか?

野口記者
アメリカでの事業の強化が、“社運をかけた”プロジェクトだからです。日本国内の市場が縮小するなかで、海外展開は避けられません。日本製鉄はこれまでにもインドや東南アジアなどに進出していますが、世界の中でも鉄鋼製品の需要が大きいアメリカは大きな魅力だと思います。

Q.アメリカの市場は可能性や魅力があるんですね?

野口記者
アメリカは今後も人口が増加し、アメリカ市場はまだまだ成長が見込まれています。日本企業でも、例えば積水ハウスが住宅メーカーをおよそ7200億円で買収すると発表しました。ほかにもビール大手や流通大手などで、アメリカ市場への期待から買収を行うケースが出ています。アメリカは保護主義的な面も見せてはいるものの、安定的な成長が期待できる市場だと思います。

【解説】買収計画の今後は

伊藤キャスター
日本の企業といえば、かつて80年代のバブル期には、マンハッタンにあるロックフェラーセンタービルなどを次々と買収して、アメリカ側の強い反発を受けました。しかし今は状況が変わってきていて、日本企業によるアメリカ企業への投資は、双方の利益につながることも珍しくなくなってきています。

伊藤キャスター
今回の事態を受け、アメリカ商工会議所は声明を出し「日本の投資によって100万人近いアメリカ人が雇用されていて、政治がこれを危険にさらすようなメッセージを送るべきではない」とけん制しています。こうした冷静な声もアメリカ国内で少なくないということを指摘しておきたいと思います。