【将来推計】2033年に1世帯平均2人未満に 未婚の高齢者も急増

あなたは今、何人で暮らしていますか?

「9年後の2033年には、日本の1世帯あたりの人数は平均1.99人で、初めて2人を下回る」

こんな推計を国の研究所が発表しました。

結婚しない人の増加で「2050年には1人暮らし高齢者男性の6割近くが未婚」という推計もあり、専門家も驚きを持って受け止めています。詳しくまとめました。

「国立社会保障・人口問題研究所」は5年に1度、国勢調査をもとに将来の日本の世帯数などを推計していて、今回、2050年までの予測を発表しました。

それによりますと、全世帯に占める「1人暮らしの世帯」の割合(※上のグラフでは赤色の「単独」)は2020年の38%から増加を続け、2050年には44.3%と30年間で6.3ポイント増える見通しです。

これに伴って1世帯あたりの人数は減少する見通しです。

▼2020年の平均2.21人から減り続けて
▼9年後の2033年には1.99人と初めて2人を下回り、
その後、2050年には1.92人にまで減少すると推計しています。

特に、1人暮らしの65歳以上の高齢者が急増する見通しです。

高齢者全体に占める1人暮らしの割合は、2050年には
▼男性が26.1%と、30年で10ポイント近く
▼女性も29.3%と、5ポイント以上増加すると予測しています。

2050年には未婚の独居高齢男性は6割近くに

こうした背景のひとつには、結婚をしない人の増加があるとみられています。

2050年には、1人暮らしの高齢者のうち未婚の割合は、
男性で59.7%と6割にのぼり、30年で26ポイント増加すると推計しています。

一方、
女性も30.2%と18ポイント余り増えると推計していて、同居する家族がいない1人暮らしの高齢者をどう支えていくかが課題となっています。

推計を行った「国立社会保障・人口問題研究所」藤井多希子室長
「現在、50歳前後の団塊ジュニア世代は未婚者の割合が高く、このまま高齢化すると身寄りのない人が増えていく。1人暮らしの高齢者を支えるためには介護だけでなく、金銭の管理や意思表示など日常生活をサポートする仕組みを早急に考えていく必要がある」

「未婚者の増加」「出生率の低下」

1世帯あたりの人数が減少していくことの背景について、国立社会保障・人口問題研究所は近年の「未婚者の増加」「出生率の低下」などがあると分析しています。

現在の1人暮らしの高齢者は、過去の婚姻率や出生率から別居の子どもがいたり、本人の兄弟姉妹がいたりして、近親者がいる可能性が高いということです。

しかし、婚姻率や出生率が低下する中で、30年後は、本人の兄弟や子どもを含めて近親者がまったくいない高齢者が急増すると予想しています。

独居高齢者の問題に詳しい、日本福祉大学教授でみずほリサーチ&テクノロジーズ主席研究員の藤森克彦さんは、家族の形の変化に注目しています。

1980年には、夫婦と子どもからなる世帯42.1%と主流で、夫が正社員として働き、妻が育児や介護を担うという夫婦間の役割分担が行われ、1人暮らしの世帯19.8%でした。

ところが、2020年になると、夫婦と子どもからなる世帯は25.2%に減り、1人暮らしの世帯の比率は38%と増加します。

さらに、今回の将来推計ではこの傾向が今後も続き、2050年には夫婦と子供からなる世帯が21.5%単身世帯が44.3%と差が開きます。

日本福祉大学教授 みずほリサーチ&テクノロジーズ主席研究員 藤森克彦さん
「日本はこれまで介護や育児について家族の役割が大きい社会といわれてきたが、単身の世帯は家族が果たしてきた役割を担う人がいなくなるので、これまでの考え方を見直す必要がある」

1人暮らし高齢者支援の現場は

1人暮らしの高齢者が急増する中、生活を支援するサービスのニーズが高まっています。

群馬県高崎市のNPO法人は、弁当の配食を通じた見守りサービスを提供しています。

1人暮らしの高齢者など市内およそ120人を対象に昼食と夕食を配布していて、市の地域包括支援センターが支援の必要があると認めれば、市の補助を使って1食350円で利用することができます。

配食サービスを利用している関京子(79)さんは、夫を亡くし自宅で1人暮らしをしています。

腎臓に持病があり、1人で買い物に行ったり食事の準備をするのが年々難しくなってきています。

関さんは週5回、配食サービスを利用していて、この日はボランティアスタッフが弁当を届けるのに合わせて、体調に変化がないかや外出したかどうかなどの生活状況を、会話の中で聞き取っていました。

関さん
「外出する機会が減る中で、いつも一声かけてくださりとても助かります」

NPOでは、食事を配った高齢者に気になることがあると親族に連絡しているほか、1人暮らしが難しくなった場合は親族と相談して必要な医療や介護につなげるサポートもしています。

この日の夕方には、高血圧で視力が低下して外出が難しくなった市内の江原秀子さん(85)の自宅に食事を届けました。

秀子さんと離れて暮らす息子が母親の様子を見に来ていて、NPOの職員と家の中での転倒リスクなど、生活する上での心配ごとを話し合っていました。

サービス利用の申し込みは相次いでいますが、スタッフの数が限られる中ですべてに応じることはできず、ことしに入って利用を断るケースも出てきているといいます。

今後独居の高齢者が増える中でますます支援の手が足りなくなるのではないかと危惧しているということです。

認定NPO法人「じゃんけんぽん」 佐塚顕子さん
「サポートしたい気持ちはあっても高齢者世帯の増加にマンパワーや社会資源が追いつかない状況です。住み慣れた家で生活を続けるために何が必要かどこと連携したらいいのかを常に考え、地域の中で支えていきたい」

単身高齢者 入居断られるケースも

1人暮らしの高齢者をめぐっては、孤立死や残された家財道具の処分の負担などから賃貸住宅への入居を断られるケースがあるなど、住まいをどう確保するのかも課題となっています。

長年、埼玉県で暮らしていた戸上米さん(85)は、夫を病気で亡くしたことをきっかけに去年暮れごろから、都内に住む娘の自宅近くで入居先を探しています。

しかし、不動産屋の店先の物件広告には「現役世代のみ」と書かれたものもあったことから、区役所から紹介を受けて都内で高齢者を専門に賃貸住宅を仲介している不動産会社に相談しました。

年齢を告げただけで…

不動産会社は戸上さんの希望する家賃帯や間取りを聞いたうえで、該当する物件の管理会社に問い合わせをしていますが、年齢を告げただけで断られることが続いているといいます。

会社では、協力してくれる大家を募り、高齢者でも「断られない」物件を独自にリストアップしているものの数が限られているため戸上さんの希望に添った物件は見つかっていません。

戸上さん
「病院通いなど1人では不安なことも多く、できるだけ娘の家から近い方がいいですが、条件に合う物件はなかなか見つからず不安です」

こうした1人暮らしの高齢者などについて、政府は「住宅確保要配慮者」と位置づけ、住まいの確保から入居後のサポートまでを一貫して行うなど、大家が賃貸住宅を貸しやすくするための環境整備を目指す法案を閣議決定し、今の国会に提出しています。

「R65不動産」代表 山本遼さん
「孤立死や認知症になったときの対応などへの大家の不安から年齢だけを理由に断られることはいまだに非常に多いです。ただ、大家や不動産会社も空室のままでは経営が成り立たない危機感があるので使える制度や市場性を丁寧に説明して物件の掘り起こしを図っていきたい」

見守り支援で大家の不安解消を

高齢者は賃貸住宅への入居を断られるケースも多く、住まいの確保が問題となる中、国は物件を貸し出す大家の不安を解消するため都道府県が指定する「居住支援法人」が入居後の見守りなどのサポートも行う住宅の普及を進める方針です。

「居住支援法人」とは

「居住支援法人」は住む場所に困っている人をサポートするため、2017年に改正された(平成29年)住宅セーフティネット法に基づいて各都道府県がNPOや社会福祉法人などを指定し国が補助金を出す仕組みで、去年12月末時点で(2023)全国で769の法人が指定されています。

高齢者をはじめ、障害者やひとり親世帯などの「住宅確保要配慮者」を対象に、▽入居前の住宅に関する相談や物件の紹介から、▽入居後の見守りや家賃の債務保証を行うほか、▽亡くなった後の葬儀の手続きなどを行う法人もあります。

担当する地域や業務内容は法人によって異なり、指定された法人は国土交通省や各都道府県がホームページなどで公表しています。

東京・町田市の居住支援法人では、法人の支援で部屋を借りられた高齢者を定期的に巡回していて、この日は職員が市内で一人暮らしをする80歳の女性を訪ね、生活状況などを確認しました。

女性は認知症の診断を受けているということで、法人は本人や家族の同意のもと、詐欺などにあっていないか買い物の状況などを確認するほか、家族からの連絡に気づいているかどうかなどスマートフォンのチェックも行っています。

さらに▽人の動きを関知し一定期間、動作がなければ自動的に通報する赤外線センサーを設置しているほか、▽訪問看護師やヘルパーとも連携して情報を共有し、異変や体調の変化に気づくことができる体制を作っています。

法人によりますと、こうした支援によって高齢者などの入居について大家や不動産会社の理解が得られるようになってきているといいます。

今月も、住んでいたアパートの老朽化で立ち退きを求められ部屋探しに困っていた町田市内の60代の男性が病気の治療のために希望していた病院の近くのマンションに引っ越すことができた事例がありました。

この男性は「ほっとしたというのが一番で、法人には感謝の気持ちでいっぱいです。今度はできるだけこの部屋に長く住んでいたい」と話していました。

居住支援法人「悠々会」 鯨井孝行さん
「支援は引っ越して終わりではなく、亡くなるまで当事者に寄り添っていくことが使命だと思う反面、どこまでやっていけるかという課題はありますが、住まいに困っている人は大勢いるのでさまざまなニーズに合わせ、対応していきたい」

独居高齢者の問題に詳しい日本福祉大学教授でみずほリサーチ&テクノロジーズ主席研究員の藤森克彦さんに今後の課題や対策を聞きました。

『世帯の単独化』について

藤森さんは1世帯あたりの人数が2033年に初めて2人を下回ることについて、次のように指摘しています。

「日本はこれまで介護や育児について家族の役割が大きい社会といわれてきたが、単身の世帯が増えれば家族が果たしてきた役割を担う人がいない世帯も増えることになるので、高齢者を支える社会の仕組みについては家族を前提にしたこれまでの考え方を見直す必要がある」

1人暮らしの高齢者男性未婚率6割の衝撃

また、2050年には1人暮らしの高齢者の男性のうち6割が未婚と推計されたことについては。

「未婚で1人暮らしの高齢者は配偶者だけではなく子どももいないと考えられ、老後を家族に頼ることが一層難しくなる人がこれだけ出てくることは驚きだ。ただ、未婚がいけないわけではなく人生を豊かに過ごし、個人としての尊厳を持ちながら暮らしていける社会を創っていくことが大事だ」

そのうえで。

「日常の生活支援から亡くなった後の対応までを地域の中で身寄りの無い高齢者を支える支援のネットワークを作っていくことが必要だ。地域によって事情は異なるので、自治体が中心になって対応を考えていく必要がある」

林官房長官「社会保障を持続可能なものに改革」

林官房長官は、12日の午後の記者会見で「単身で暮らす高齢者を含めて誰もが住み慣れた地域で孤立せず安心して暮らせる社会にしていくことが必要だ。社会保障制度を持続可能なものとするための改革を行っていくことに加え、地域で住民が互いに支え合い、共に暮らしていく『地域共生社会』の実現に向けて取り組んでいく」と述べました。