日本人宇宙飛行士の月面着陸盛り込んだ取り決め 日米間で署名

アメリカ主導の月探査計画「アルテミス計画」で、日本人宇宙飛行士が月面に着陸することなどを盛り込んだ取り決めが日米間で署名されました。アメリカ人以外では初めてとなる日本人の月面着陸が実現すれば、日本の宇宙探査の新たな一歩となることが期待されます。

アメリカは人類が宇宙へ進出する足がかりとして、日本やヨーロッパなどとともに月面を持続的に探査する「アルテミス計画」を進めていて、2026年以降に宇宙飛行士の月面への着陸を目指しています。

これについて日本時間の10日、アメリカ・ワシントンで盛山文部科学大臣とNASA=アメリカ航空宇宙局のネルソン長官が月面探査に関する取り決めに署名しました。

取り決めでは、NASAが日本人宇宙飛行士に2回にわたり月面に着陸する機会を提供し、探査活動を行う一方で、日本側はJAXA=宇宙航空研究開発機構がトヨタ自動車などとともに開発を進めている有人月面探査車の開発や運用にかかる費用などを負担して月面探査に協力することなどが盛り込まれています。

文部科学省によりますと、有人月面探査車の開発費だけでも数千億円規模に上る見込みだということです。

これまで人類で月面に着陸したのは半世紀前に行われたアポロ計画のアメリカ人のみで「アルテミス計画」でアメリカ人以外では初めてとなる日本人の月面着陸が実現すれば、日本の宇宙探査の新たな一歩となることが期待されます。

NASA ネルソン長官「日本とともに歩けることを誇りに思う」

共同会見の中でNASA=アメリカ航空宇宙局のネルソン長官は「きょう、バイデン大統領と岸田総理大臣は将来のアルテミス計画で日本の宇宙飛行士がアメリカ人以外で初めて月に降り立つことを共通のゴールとすると発表した」と述べました。

そのうえで「アメリカは、もはや月面を単独で歩くことにはならない。日本とともに歩けることを誇りに思う」と述べました。

JAXAとNASA 月面探査に関する取り決めに署名

JAXA=宇宙航空研究開発機構とNASAは日本時間の10日、月面探査に関する取り決めに署名し、この中で有人月面探査車の開発や運用を日本側が行うことが盛り込まれました。

これについてネルソン長官は「この探査車ほど日本とアメリカの協力関係の力を示しているものはない。これによって宇宙飛行士が歩いてでは行けないような多くの場所へ行くことができるようになる。そして宇宙飛行士がもっと多くのことをできるようになる」と述べ大きな期待感を示しました。

NASAによりますと、この有人月面探査車は宇宙飛行士2人が乗って月の南極付近で使用し、この中で最大で30日間、生活しながら、さまざまな科学的な調査ができるということです。

盛山文科相「月面探査にかかる日米協力が具体的に」

盛山文部科学大臣は、日本時間11日にアメリカ・ワシントンでNASAのネルソン長官とともに記者会見し「先ほど首脳の共同記者会見では日本人宇宙飛行士が米国人以外では初めて、月面に着陸するという共通の目標が発表され、いよいよ月面探査にかかる日米協力が具体的に動き始めた。日本人宇宙飛行士の初めての月面着陸に向け、引き続き米国をはじめとする国際連携のもとで、アルテミス計画における取り組みをしっかり進めていきたい」と述べました。

JAXA 星出宇宙飛行士「日本の与圧ローバー 重要な機能担う」

会見に出席したJAXAの星出彰彦宇宙飛行士は「日本が開発し運用する与圧ローバーは、人類の活動領域をさらに拡大し、維持するもので、月面探査において極めて重要な機能を担う」と述べた上で、日本人宇宙飛行士の月面着陸が日米で合意されたことについて「JAXAの宇宙飛行士や宇宙飛行士の候補者も含めて、この挑戦にしっかり臨んでいきたい。そして次の時代にたすきを渡し、さらに火星に向けて頑張っていきたい」と意気込みを語りました。

「アルテミス計画」とは

「アルテミス計画」はアメリカが主導する国際月探査プロジェクトです。1960年代から70年代、人類を月面に送り込んだ「アポロ計画」以来、およそ半世紀ぶりに月に宇宙飛行士を送り込むことを目指しています。

計画の名前の由来となっている「アルテミス」はギリシャ神話の月の女神で、「アポロ計画」の由来となった「アポロ」とは双子のきょうだいです。

現在の計画では、2026年9月に宇宙飛行士が月面に降り立つミッションを実施することを目標としています。

これに先だって、2025年9月に宇宙飛行士を乗せた宇宙船が月の周りを周回する試験飛行を行うことを目指しています。

さらには2026年以降も継続的に宇宙飛行士による月の探査が行われる予定で、月面での長期滞在や将来、火星の有人探査も見据えています。

NASA=アメリカ航空宇宙局はこのプロジェクトで使用する宇宙船「オリオン」や大型ロケットの開発を進めていて2022年には無人の宇宙船を大型ロケットで打ち上げ、月を周回して地球に帰還させる試験飛行を行いました。

また、宇宙飛行士が月面に降り立つ際に活用する、月を周回する新たな宇宙ステーション、「ゲートウェイ」の建設も予定されています。

アルテミス計画は国際協力のもと進められていて、日本やヨーロッパなども参加し、ゲートウェイの建設やプロジェクトに必要な機材の開発に協力することになっています。

さらにアメリカの民間企業「スペースX」も月面着陸に使用することを想定した大型宇宙船「スターシップ」やこれを打ち上げるための大型ロケットの開発を進めています。