【詳細】日米首脳 防衛協力深め幅広い分野での連携強化を確認

アメリカを訪れている岸田総理大臣はバイデン大統領と会談し、自衛隊とアメリカ軍の指揮・統制の向上など、防衛協力を深めるとともに、経済安全保障や宇宙など幅広い分野での連携強化を確認しました。また地域情勢をめぐり、中国の力と威圧による行動に強く反対していくことで一致しました。

首脳会談は、ワシントンのホワイトハウスで日本時間の10日夜遅くから11日未明にかけて、およそ1時間半にわたって行われ、会談後、両首脳はそろって記者会見し、共同声明を発表しました。

【共同声明の内容詳細】

声明の冒頭、日米両国を、「グローバル・パートナー」と位置づけ、複雑化する国際社会の課題に、あらゆる領域でともに対応していく姿勢を打ち出し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持し、強化していくなどとしています。

【防衛・安保】

続いて、グローバル・パートナーシップの中核は、防衛・安全保障協力だと強調するとともに、インド太平洋地域の平和と繁栄の礎である日米同盟による抑止力と対処力を高めていく方針を示しています。

また中国の動向をめぐり、尖閣諸島を含めた東シナ海や南シナ海での力や威圧による一方的な現状変更の試みに強く反対するとしています。

そして、アメリカの防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条が、沖縄県の尖閣諸島に適用されることを再確認したとしています。

その上で、アメリカは日本による防衛費の増額や、反撃能力の保有、防衛装備移転三原則の運用指針の改正を歓迎する姿勢を示すなどし、さらなる協力強化を打ち出しています。

具体的には、▽アメリカ軍と自衛隊の連携をより円滑にするため、それぞれの部隊の指揮・統制を向上させるとしています。

そして、▽ミサイルなどの防衛装備品の共同開発・生産などに関する協議の場を設けることや、▽在日アメリカ軍の大型艦船を日本で補修できる仕組みを整えることが明記されました。

さらに▽アメリカ、イギリス、オーストラリアの3か国による安全保障の枠組み「AUKUS」が先進技術分野での日本との協力を検討するほか、▽ジェット練習機の共同生産・開発などに関する作業部会の設立なども盛り込まれました。

また▽アメリカの核戦力などで日本を守る「拡大抑止」の強化の重要性を確認し、外務・防衛の閣僚協議、いわゆる2プラス2で突っ込んだ議論を行うとしています。

【先端技術・経済安保】
声明では、経済安全保障分野などの連携強化も打ち出していて、中国の経済的威圧を念頭に、半導体やAI、量子などの最先端技術の研究開発や、サプライチェーンの強じん化に向けた協力を進める方針が明記されました。

▽具体的なAIに関する協力をめぐっては日米の大学が最新技術の開発を進めるため、両国の企業が1億1000万ドル規模の資金を拠出し、新たな共同研究の枠組みが設立されることになったのを歓迎する姿勢を示しています。

▽そして、エネルギーの安定供給が世界的な課題となる中、クリーンエネルギーの拡大を通じた脱炭素の取り組みを推進する新たなハイレベル対話を始めるとしています。

【宇宙】
また宇宙分野での協力拡大も盛り込まれ、▽アメリカが主導する月探査プロジェクト「アルテミス計画」で、アメリカ人以外で初めてとなる月面着陸の機会が日本人宇宙飛行士に2回提供されるとしています。

【外交・開発での連携】
地域情勢をめぐっては、▽中国の南シナ海での最近の危険かつエスカレートする動きは「国際法と整合的ではない」などと指摘しています。

一方で、▽首脳レベルを含む率直な意思疎通の重要性も示し、共通の関心分野で中国側と協力する意思を表明しています。

▽また、台湾海峡の平和と安定の重要性を改めて強調し、両岸問題の平和的解決を促すとしています。

▽北朝鮮をめぐっては、弾道ミサイルの発射を強く非難した上で、関連する国連安保理決議の完全な履行と、前提条件なしでの外交復帰を求めています。

また、拉致問題の即時解決に向けたアメリカ側の協力を重ねて確認したとしています。

さらに▽ロシアによるウクライナ侵攻に断固反対し、厳しい対ロ制裁と揺るぎないウクライナ支援の継続を確認するとともに、ロシアと北朝鮮の軍事協力に深刻な懸念を示しました。

▽中東情勢をめぐっては、ハマスなどによるテロ攻撃を非難する一方、ガザ地区の人道状況に深刻な懸念を表明し、最低6週間の即時かつ持続的な停戦が必要不可欠だと強調しています。

このほか、▽日米に韓国や、オーストラリア、フィリピンをそれぞれ加えた3か国の連携を強化することに加え、▽ミクロネシアとツバルへの1600万ドルの支援を含め、太平洋地域の海底ケーブルの構築に貢献していく方針なども明記しています。

【人的結びつき】
また声明では、人的交流を活性化させる取り組みも盛り込まれました。▽両国の高校生や大学生の留学を支援するため、「ミネタ・アンバサダー・プログラム」と名付けた1200万ドル規模の奨学金制度を立ち上げるとしています。

そして声明では、日米の両国民は、今後、何世代にもわたり、ますます緊密な絆を築いていくなどとして締めくくっています。

【共同記者会見 首脳発言の詳細】

岸田首相「『法の支配に基づく国際秩序』断固として守る」

岸田総理大臣は共同記者会見で「国際社会は、歴史的な転換点にある。日米、インド太平洋、そして世界が将来にわたり、平和と安定、繁栄を享受するためには『法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序』を断固として守り、いっそう盤石にしていかなければならない」と述べました。

その上で共同声明について「『法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序』を維持・強化していくという日米の決意を表明し、その指針を記したものだ。われわれのパートナーシップで 日米、インド太平洋、そして世界の未来を守り、いっそう豊かなものにしていく」と述べました。

バイデン大統領「防衛・安全保障協力強化へ指揮統制を現代化」

バイデン大統領は、日米の部隊連携を円滑化するための指揮統制のあり方をめぐって「両国は防衛・安全保障協力を強化するため、重要な措置をとり、指揮統制を現代化する。さらに、部隊同士の相互運用性を高め、途切れること無く効果的に連携できるようにする。これは、日米同盟が始まって以来、最も重要な刷新だ」と述べました。

バイデン大統領「中東情勢についても協議」

バイデン大統領は「中東情勢についても協議し、ともに停戦と人質解放を支持することや、ガザ地区の人道危機に対処する 緊急の取り組みについて、意見を交わした」と述べました。

バイデン大統領「真のグローバルなパートナーシップへ変化」

バイデン大統領は「日本との関係は同盟関係に投資し、集団的な野心を持つことが卓越した結果をもたらすことの力強い証明だ。この3年間、日本とアメリカの関係は真のグローバルなパートナーシップへと変化した。これは岸田総理大臣の勇気あるリーダーシップによるものだ」と述べました。

岸田首相「中国側と対話は継続 共通課題については協力」

岸田総理大臣は中国をめぐる外交姿勢について「中国側と対話は継続し、共通の課題については協力をしていく。こうした重要性も確認した会談だった。引き続き、同盟国であるアメリカと強固な信頼関係のもと、中国に対して大国としての責任を果たしていくよう働きかけていく」と述べました。

その上で「中国との間で戦略的互恵関係を包括的に推進していくとともに建設的かつ安定的な日中関係の構築を双方の努力で進めていく。これが私の一貫した立場であり方針だ。引き続き、あらゆるレベルで中国と緊密に意思疎通を図っていく」と述べました。

バイデン大統領「岸田首相 勇敢な一歩を踏み出した」

バイデン大統領は「岸田総理大臣はアメリカとともに南シナ海を含む航行の自由のためにきぜんとした態度を取り、台湾海峡の平和と安定を維持し、われわれ皆がともに協力できるよう韓国との関係修復という勇敢な一歩を踏み出した」と述べました。

岸田首相 日本製鉄の買収計画「法に基づき適正に手続き」

岸田総理大臣は「日本製鉄」によるアメリカの大手鉄鋼メーカー「USスチール」の買収計画について「現在、当事者間で話し合われていると承知していて、両国にとってよい話し合いになることを期待している。日本としては、アメリカ政府において、法に基づき適正に手続きが進められると考えている」と述べました。

その上で「日本はアメリカにとって最大の投資国であり、アメリカでおよそ100万人を雇用している。日本からの投資は、今後ますます拡大基調にあり、両国にとってウィンウィンな流れを確実になものにしていきたいと考えている」と述べました。

岸田首相 中国への対応「日米が緊密連携で一致」

岸田総理大臣は中国への対応をめぐり「今回の日米首脳会談において、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を断固として守り、いっそう盤石なものにしていくために、日米両国がグローバルなパートナーとして取り組んでいくことを確認した。中国をめぐる諸課題については力または威圧による、あらゆる一方的な現状変更の試みに強く反対することを含め、グローバルなパートナーである日米が、引き続き緊密に連携していくことで一致した」と述べました。

バイデン大統領「AUKUS 日本がどう参加できるのかを模索」

アメリカがイギリス、オーストラリアとともにつくる安全保障の枠組み「AUKUS」をめぐってバイデン大統領は「AUKUSは、AI=人工知能などを含む高度な能力に焦点を当てた第2の柱において、日本がどのように参加できるのかを模索している」と述べ、AUKUSの柱の1つである先端技術分野で、日本との協力を模索すると強調しました。

岸田首相 北朝鮮対応「日米韓 緊密連携し対応で一致」

岸田総理大臣は、北朝鮮への対応について「核・ミサイル開発を含む北朝鮮情勢について、深刻に懸念すべき現下の情勢について、いっそう緊密に連携していくことで一致した。北朝鮮との対話の道が開かれているとの共通認識も踏まえて、率直な意見交換を行い、引き続き、日米、日米韓でいっそう緊密に連携して対応していくことで一致した」と述べました。

バイデン大統領「日本の宇宙飛行士が月に着陸する人物に」

バイデン大統領は「われわれは科学や教育分野での日本とアメリカの結びつきも強固なものにする。それは月にまで及び、2人の日本の宇宙飛行士がアメリカのミッションに参加し、このうちの1人はアメリカ人以外で初めて月に着陸する人物となる」と述べました。

岸田首相 AUKUS「バイやマルチの枠組みの中で協力」

岸田総理大臣はアメリカ、イギリス、オーストラリアの3か国でつくる安全保障の枠組み、「AUKUS」について「地域の平和と安定に資することから取り組みを一貫して支持している。3か国とは、バイやマルチの会談でこれまでも関係を構築してきているが、直接わが国として、協力関係について決まったものは現在はないと考えている」と述べました。

その上で「これからもアメリカ、イギリスあるいはオーストラリアの国々との間でバイやマルチの枠組みの中で協力する取り組みを進めていくことは考えていきたい」と述べました。

岸田首相 拉致問題めぐり「大統領から力強い支持得た」

岸田総理大臣は、北朝鮮による拉致問題をめぐり「私から拉致問題の即時解決に向けたアメリカの引き続きの理解と協力をしっかりと求め、バイデン大統領から改めて力強い支持を得ることができた」と述べました。

その上で「最近の北朝鮮側の発表の1つ1つにコメントすることは控えるが、日朝間の実りある関係を樹立するということは日朝双方の利益に合致するとともに、地域の平和と安定に大きく寄与するという考えのもと、北朝鮮との間の諸懸案の解決に向けて首脳会談を実現すべく、私直轄のハイレベルでの協議を進めていく。こうした方針については変わりはない」と述べました。

バイデン大統領「同盟国が北朝鮮と対話を始める機会を歓迎」

バイデン大統領は岸田総理大臣とキム・ジョンウン(金正恩)総書記による日朝首脳会談の開催の可能性をめぐって質問されたのに対し、「同盟国が北朝鮮と対話を始める機会を歓迎する。わたしは、日本を信頼し、岸田総理大臣を信頼している。対話を模索することは前向きなことだ」と述べ、歓迎する意向を示しました。

バイデン大統領 “尖閣諸島は日米安保条約第5条の適用範囲”

バイデン大統領は「日米安全保障条約第5条のもとで、アメリカによる尖閣諸島を含む日本の防衛への関与は、揺るぎない」と述べ、尖閣諸島は日米安全保障条約第5条の適用範囲だと改めて強調しました。

バイデン大統領「アメリカ人労働者との約束を守る」

バイデン大統領は日本製鉄によるアメリカの大手鉄鋼メーカー「USスチール」の買収計画について「私はアメリカ人労働者との約束を守る。私は約束を守るし、守り続ける。その点では私はわれわれの同盟への約束も守る。強い同盟、それがまさに私たちがやっていることだ」と述べました。

【日米首脳会談 両首脳の冒頭発言】

岸田首相「日米は国際秩序をリードする立場にある」

日米首脳会談は、ワシントンのホワイトハウスで日本時間の10日午後11時50分すぎからおよそ1時間半にわたって行われ、前半は少人数で、後半は人数を拡大して意見を交わしました。

会談の冒頭、岸田総理大臣は「これまでジョーと私は数限りない対話を積み重ねて友情と信頼を培ってきた。それによって、いまや日米は法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を先頭に立ってリードする立場にある。ぜひ今回の訪米において日本とアメリカの固いきずなを確認するとともに、日本とアメリカが、どんな未来を築こうとしているのかを、世界に、そして内外に向けて示す貴重な機会にしたい」と述べました。

バイデン大統領「日米同盟はかつてないほど強固」

またバイデン大統領は冒頭、「ホワイトハウスへようこそ。去年、私たちはここで日米が果たす役割はさらに大きくなると話しました。そしてあなたの意見にこれ以上なく同意します」と述べました。

そして「ウクライナに対して私たちは共同で支援を行っているがロシアの悪質な攻撃に直面していることは、まさに言語道断だ」とウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアを非難しました。

さらに「日米同盟はかつてないほど強固になっている。防衛や技術協力を含めどうすればもっと深化できるのかを議論できるのを楽しみにしている。このほかにどうすればインド太平洋が自由で開かれた、そして繁栄した地域であり続けられるのかを話し合いたい」と述べました。

《海外反応》

中国外務省 報道官「中国の内政に干渉 断固反対」

日米首脳会談で中国の動向をめぐって意見が交わされたことについて、中国外務省の毛寧報道官は11日の記者会見で「台湾や海洋などの問題で中国を攻撃し、あからさまに中国の内政に干渉しており、国際関係の基本的なルールに反している。強い不満と断固とした反対を示す」と反発し、関係国に抗議したことを明らかにしました。

その上で日米関係について「他国を標的にしたり、他国の利益を損なったりすべきでなく、地域の平和と安定を破壊すべきでない」と述べ、日米両国をけん制しました。

また台湾について「完全に中国の内政であり、いかなる外部勢力の干渉も許さないことを強調したい。特に日本は台湾を侵略し、植民地として支配したという歴史的な罪の責任を負っており言動を慎むべきだ」と強く反発しました。

《国内の各党反応》

林官房長官「自衛隊が米軍の指揮・統制下に入ることはない」

林官房長官は午前の記者会見で、自衛隊とアメリカ軍の指揮・統制の向上で合意したことについて「アメリカ軍との一体化が強まる懸念もあるのではないか」と問われたのに対し「自衛隊とアメリカ軍はおのおの独立した指揮系統に従って行動しており、自衛隊の統合作戦司令部がアメリカ軍の指揮・統制下に入ることはない」と説明しました。

またバイデン大統領が、日朝首脳会談の開催を歓迎する意向を示したことについて「両首脳は北朝鮮との対話の道が開かれているとの共通認識も踏まえ、日米や日米韓でいっそう緊密に連携することを確認しており、こうした共通認識を踏まえた発言と受け止めている」と述べました。

立民 長妻政調会長「国民をないがしろに」

立憲民主党の長妻政務調査会長は記者会見で「日米両国が国際秩序の安定に寄与する『グローバル・パートナー』となるのは望ましいことだが、安全保障分野について、きちんとした国会の議論がないまま、いろいろな約束をするのは、国民をないがしろにすることになりかねない」と述べました。

維新 馬場代表「有事の際の体制議論は非常に有意」

日本維新の会の馬場代表は記者会見で「世界情勢を見れば、新たに紛争が起こる可能性は十分あり、特にいわゆる『台湾有事』は日本の有事だ。アメリカと有事の際の体制をきちんと議論し、強化していくのは非常に有意なことだ」と述べました。

共産 田村委員長「危険な道 断じて許すことはできない」

共産党の田村委員長は記者会見で「『日米軍事同盟の歴史的大変質』を宣言するものとなった。共同声明は、これまでの自衛隊のあり方を変えて、アメリカ軍の指揮統制のもとに深く組み込んでいくもので、危険な道だ。安全保障どころか、日本に戦争を招き込みかねない。アメリカに評価してもらうことで政権の延命を図ろうとしている意図も見えており、断じて許すことはできない」と述べました。