バイトでためたお金が…“動画見るだけ”簡単副業に注意!

「スマホで簡単に稼げる」「月収100万円も!」

SNSで流れてくるこうした“副業を誘う広告”。

試しにクリックしてみて、実際に収入が得られて安心しているうちに、気が付けばお金をだましとられていた。そんなトラブルがことしに入って相次いでいます。

人間の心を巧みに動かす、その手口とは。

(デジタルでだまされない取材班 絹川千晴)

本当に利益が出るんだと思ったら…

都内に住む、19歳の大学生の千里さん(仮名)。

ことし1月、インスタグラムを眺めていた時に目に飛び込んできた広告。

“簡単副業”の言葉にひかれ、思わずクリックすると。

YouTubeと提携している業者だという女性のLINEアカウントに友達登録するよう促されました。

そこで、動画を見るという“タスク”をこなせば、簡単に稼げると言われました。

疑いの気持ちもありましたが、試しに、指定された動画を見たあと、画面のスクリーンショットを相手に送ってみました。すると、すぐに決済サービスの「PayPay」で150円の報酬が支払われたといいます。

その後、同じようなタスクを何度か行うと、別のトークアプリをダウンロードするよう求められました。このアプリでも同様のタスクが紹介されましたが、そのうち、“スペシャルタスク”をやってみないかと誘われます。

登録したウェブサイトで暗号資産を選んでいくらかお金を振り込むと利益が得られるとするものでした。

実際のやりとり

千里さんは、言われた通りの操作を行い、指定された口座に3000円を振り込みました。すると、すぐに利益が出たとして自分の口座に3900円の振り込みがあり、「本当に稼げるんだ」と安心したといいます。

その後も、別のスペシャルタスクとして指示された3つの口座に1万円ずつあわせて3万円を振り込みました。

ところが、この時は、サイト内での操作を誤ったとして利益は受け取れず、お金を取り戻したければ5倍の金額を支払うよう言われ、追加で15万円を振り込んだということです。さらにその支払いにも操作ミスがあったと、さらに3倍の金額を支払うよう言われます。

千里さんは、ここで友人や家族に相談。詐欺の可能性が高いことがわかりました。警察にも相談しましたが、振り込んだお金は戻ってくる可能性はほとんどないと言われました。

千里さん(仮名)
「『月収100万の人も』という広告を興味本位で開き、安易な気持ちで始めてしまいました。実際に報酬を得られたので信用してしまいました。アルバイトでためたお金と何かあった時のためにと親が準備してくれていたお金をとられてしまい、ショックです」

“グループ”で支払いうながす

生活資金の足しに副業を始めようとして、だまされた人もいます。

60代の久美さん(仮名)は、ことし2月、Facebookで流れてきた副業をすすめる広告を、クリックしました。

がんの闘病中で、少しでもお金を増やせればという思いでした。

こちらも最初は、動画を見て高評価ボタンを押すだけで100円の報酬が手に入りました。その後、LINEから誘導された別のトークアプリでは3、4人のグループが作られ、そこで指示役の女性のアカウントから、案内があったのが“福利厚生タスク”でした。

指定された口座にお金を振り込んでウェブサイト上で暗号資産を購入すると、利益が得られるとうたうものでした。千里さんの事例と同様に、暗号資産の取引を偽装したものと見られます。

最初は5000円を振り込んだら6500円を引き出すことができ、その後、より高額なタスクをやるようになっていきます。

グループのほかのメンバーも、次々にタスクに取り組み、5万円、10万円と振り込んで収入が増えたようなコメントをしていたたため、同じ仲間のような連帯感が生まれ、つられるようにタスクにいそしむようになっていきました。

実際のやりとり

そして、ある時、タスクの操作を間違えたと言われ、そこで、「1人が間違えると連帯責任で全員お金を引き出せなくなる」と、違約金を振り込むように指示されました。

違約金を支払えば利益を引き出せると言われ、振り込みましたが、その後もさらに追加でおよそ40万円の手数料が必要と告げられました。

振り込むなどして失ったお金は結局、110万円ほどに上ったと言うことです。

最後には、もうお金がないと答えると、消費者金融のリンクとともに「ここで借りればいい」というメッセージが送られてきたと言います。久美さんも警察に相談しましたが、お金を取り戻すのは難しいと言われたといいます。

久美さん(仮名)
「今思えばグループのほかのメンバーはサクラだったかもしれません。当時は自分のせいでみんなに迷惑をかけたと怖くなって、言われるがままに追加でお金を支払ってしまいましたが、これ以上お金を払えないと言っても賠償だとか手数料だとか名目をつけてさらに数十万円の支払いを求められました。とにかくショックでだまされたことが恥ずかしく、体調を崩してしまいました」

「動画見るだけで…」同様の相談 相次ぐ

国民生活センターによりますと、こうした「タスクをこなすことで稼げるとうたう副業」に関するトラブルの相談はことしに入ってから相次いでいて、中には600万円を支払って取り返せないという人もいるということです。

共通している手口の特徴
▽「動画を見るだけ」など簡単に稼げるという広告が入り口になっていること。
▽不正に売買されたとみられる個人口座へ振り込ませること。

SNSを舞台にしたこうしたトラブルでは、SNSだけのやりとりで相手が実在する人物や事業者なのかといった基本的な情報が分からず、相談を受けても被害の回復が難しいということです。

国民生活センター相談情報部 皆川祐哉さん
「副業広告がきっかけのトラブルの相談は、以前から、情報商材を売ったり高額なサポート契約を結ばせたりといった手口がありましたが、最近は動画を見るだけやSNSでいいねを押すだけで報酬を得られるところから暗号資産を勧められて入金を求められたといった相談が目立ちます。簡単に稼げるようなメリットが強調された広告はうのみにせず、お金を稼ぎたいのに支払いを求められた時はおかしいなと気付いてほしい」

暗号資産の相談件数 過去最悪ペースに

そして、こうしたタスクで稼げるとする副業のトラブルでは、最終的に、暗号資産の投資に誘導するケースが特に目立っていると言います。

暗号資産に関するトラブルなどの相談は、今の形で集計し始めた2021年度が6381件で最も多かったのに対し、2023年度は2月末までで6711件とすでに上回り、過去最悪のペースになっています。

『簡単に稼げる』などといったネット広告から誘導されたもののほかに、▽海外の業者で購入したらお金が返ってこない▽著名人のなりすましで投資を勧誘されたなどの相談も目立つということです。

暗号資産に関しては、ほかの相談と比べて支払った金額が大きくなる傾向があります。

見せかけのシステム上で利益が増えていたり、最初だけお金を引き出せたりして、もうかるものだと信用して多額のお金を支払ってしまう人が多いということです。

また、暗号資産の取り引きには、海外の事業者であっても、日本に住んでいる人を対象とする場合は金融商品取引法に基づく登録が必要です。金融庁のウェブサイトで公開されている登録業者一覧のリストに名前があるか確認してほしいとしています。

副業をめぐるトラブルも暗号資産に関する詐欺も以前から繰り返されていますが、その手口は日々変化しています。私たちができることは変わらず「お金を払う前に慎重になる」ことです。

簡単に稼げると言われた時こそ、疑ってかかる気持ちが大切です。