大統領選挙にも影響? 広がるバイデン大統領への反発 なぜ?

大統領選挙にも影響? 広がるバイデン大統領への反発 なぜ?
バイデン大統領に対する失望と反発が、アメリカの民主党支持者の間で広がり続けています。

いまだに停戦を実現できないガザ情勢への対応をめぐって厳しい目が向けられ、11月の大統領選挙にも影響を与えかねない事態になっているのです。

アメリカでいま、何が起きているのか。現地を取材しました。

(ワシントン支局記者 岡野杏有子)

反発するアラブ系アメリカ人

アラビア文字やヒジャブをつけた女性の姿が目立つこの街。

全米最大のアラブ系アメリカ人のコミュニティーがあるミシガン州のディアボーンです。

州の最大都市デトロイト郊外の自動車工場が集まるエリアに位置し、工場で働くため中東から移り住んだ人が多いと言われています。
イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突が始まった去年10月7日以降、アメリカ各地で即時停戦を求める抗議活動が行われていますが、ここでは特に、中東とのつながりがあるアメリカ人を中心に、いまだに停戦を実現できないバイデン政権への失望と反発の声が広がっています。
そうした中、ある運動が起きました。

民主党の大統領候補者を選ぶ予備選挙、ミシガン州での投票日(2月27日)に「支持候補なし」に投票しようという呼びかけが行われたのです。
民主党では現職のバイデン大統領の他には有力な候補者はいません。

投票前からバイデン氏の勝利は確実と見られる状況でした。

そこであえてバイデン氏に投票せず「支持候補なし」を選ぶことでバイデン大統領に抗議の意思を突きつけることが目的でした。
呼びかけた団体の代表の1人、レイラ・アラベッドさんは、抗議の声に耳を傾けず方針の転換を見せないバイデン政権にプレッシャーを与えたいと考えていました。
アラベッドさん
「私たちは街頭で抗議デモを行い、政治家にも手紙を送ってきました。
しかし多くのパレスチナ人の命を救うために必要な停戦はいまだに実現していません。だから私たちは投票で示すことにしたのです」

自分たちの税金がガザに惨状もたらす

運動に参加するアリ・ハラールさん。
イスラエルの隣国、レバノンに親戚が暮らしています。
ハラールさん
「レバノンにいる親戚とは連絡をとることができています。
彼らは戦闘の直接的な影響は受けていませんが経済的には厳しくなっていると話しています。
明日はどうなっているか分からない不安定な日々を送っているようです。
私も戦闘がいつ拡大するか分からず不安に感じています」
毎日、ガザ地区の情勢を報道で確認しているハラールさん。

目にする悲惨な状況に胸を痛めています。
前回の大統領選挙ではバイデン大統領に投票しましたが、イスラエルへの軍事支援を続けるバイデン大統領に怒りを感じています。
ハラールさん
「ガザ地区の惨状については、私を含め多くのアメリカ人が責任を感じています。
なぜなら私たちの税金が(攻撃に)使われているからです」
ガザ地区で民間人の犠牲者が増え続けているのを黙ってみていられない。

ハラールさんは電話や戸別訪問を連日行い、有権者たちに「支持候補なし」に1票を投じるよう呼びかけました。
そして、予備選挙当日の2月27日。

ハラールさんも投票所に足を運び1票を投じました。もちろん「支持候補なし」です。
ハラールさん
「バイデン大統領が本当に再選を望むなら私たち有権者の声を聞くべきです。今後どうするか見守ります」
ミシガン州の予備選挙ではバイデン大統領が80%以上の票を獲得し勝利しました。ただ「支持候補なし」の票も10万票以上、全体の13%を占め、バイデン大統領にとって懸念が残る結果となりました。
ミシガン州は、バイデン大統領とトランプ前大統領が対決することになる11月の大統領選挙でも接戦となることが予想されています。バイデン大統領がもし仮に11月の選挙でも数万票を失うとしたら大きな痛手となります。

こうした動きはミネソタ州やワシントン州などアラブ系アメリカ人のコミュニティーがある地域を中心に広がりを見せています。

変わらぬバイデン氏のイスラエル支持

バイデン大統領はそれでも衝突の開始時から一貫してイスラエルを支持する立場をとり続けています。

衝突が起きたわずか10日後にはイスラエルを訪問。ネタニヤフ首相と会談し「アメリカはイスラエルとともにある」と述べ、連帯を示しました。
人道支援の必要性を強調し、ネタニヤフ首相にくぎを刺す場面も見られますが、立場そのものは崩していません。

批判は身内からも

批判はバイデン大統領の身内である民主党の議員などからも出ています。

2月に行われたミシガン州の集会には、民主党のラシダ・タリーブ下院議員、ディアボーン市のアブドゥラ・ハムード市長が参加しました。
タリーブ下院議員
「バイデン大統領へのメッセージは簡単なものです。大量虐殺を続けるネタニヤフ首相とはいい加減、手を切りましょう」
ハムード市長
「毎日、画面を通して亡くなっていく人々を見ています。
彼らは私たちの友人であり家族です。
殺りくをきょう終わらせるために声をあげなければなりません」
また、自身がユダヤ系で、これまで一貫してイスラエルを支持してきた民主党の議会上院トップ、シューマー院内総務も3月、議会での演説でネタニヤフ首相を批判。イスラエルを支持するバイデン大統領に対する風当たりは強まっています。
シューマー院内総務
「ネタニヤフ首相は国益よりもみずからの政治的な生き残りを優先させ、道を失いました。ガザ地区での民間人の犠牲をあまりにも容認し、国際社会でのイスラエルへの支持を歴史的に低い水準にまで押し下げたのです」

強固な支持基盤 黒人社会からも苦言

さらにここに来てバイデン大統領にとって手痛い事態が進行しています。

ガザ地区の対応への失望が民主党の重要な支持基盤である黒人社会にまで広がっているのです。
全米の黒人教会の牧師たちはバイデン政権に対し停戦のために行動するよう働きかけを強めています。

1000人以上の牧師が連携して、ホワイトハウスに書簡を送ったり高官と面会したりしています。

南部ジョージア州で影響力のある牧師のジャマール・ブライアントさんもその1人です。
ブライアントさんの教会には毎週日曜日にはおよそ2000人が集います。

ブライアントさんが即時停戦を強く求めるのは、抑圧されてきた自分たち黒人の歴史をガザ地区の住民に重ねているからだといいます。そして、その呼びかけに応じないバイデン大統領に不満を募らせています。
ブライアントさん
「バイデン大統領はガザ地区に空から支援物資を投下することを承認しましたが、人道支援と同時に軍事支援を行うことはできません。
私は停戦を求めて活動してきましたが、この国はそれをしないどころか、イスラエルへの軍事支援を続けています」
ブライアントさんは「バイデン大統領は再選のためには黒人票が必要だ」と話します。

その票を得るためには11月の大統領選挙までには具体的な行動をとらなければならないと主張します。
ブライアントさん
「アフリカ系アメリカ人(の主張)はこれまで後回しにされてきたように思います。
だけどよく聞く必要があります。11月までまだ時間があるので方針が変わることに期待しています。
私たちは自分たちにとって最善の人に投票したいと考えているのです」
調査会社「ギャラップ」によると、「バイデン大統領の中東情勢への対応を支持する」と答えた民主党支持者は、戦闘開始直後の去年11月は60%と半数を超えていましたが、3月には47%にまで低下。
また、ロイター通信などの世論調査では、民主党支持者の56%が「イスラエルへの軍事支援を続ける大統領候補は支持しない」と答えています。
アメリカ国内の世論はバイデン大統領の対応に厳しい目を向けています。

この先、停戦が実現したとしても「ガザ地区であまりにも多すぎる犠牲が出てしまった」として、すでにバイデン大統領に投票しないことを決めていると話す人もいます。ただ、多くは態度を決めかねていました。なぜなら、バイデン大統領と対決する共和党のトランプ前大統領もまた、イスラエルを強く支持しているからです。

11月の大統領選挙でガザ情勢への対応が有権者にとって投票の決め手となる可能性もある中、バイデン大統領は国内世論の反発を抑え対応することができるのか。難しい舵取りが続きそうです。
(3月8日おはよう日本で放送)
ワシントン支局
岡野 杏有子
2010年入局
大阪局、国際部、政治部などを経て2023年7月から現所属
国務省担当 大統領選挙では主に共和党の動きを取材