静岡 川勝知事 辞職理由は“発言とリニア開業延期で区切り”

職業差別とも捉えられかねない発言をし、突然、辞職の意向を表明した静岡県の川勝知事は3日、改めて記者会見を行い、辞職を決意した理由はみずからの発言と、着工を認めてこなかったリニア中央新幹線について開業延期という区切りがついたことの2つだと説明しました。

【記者会見での発言】

「申し訳なく心からお詫び」

静岡県の川勝知事は記者会見の冒頭で「私の新規県庁職員としての励ましの言葉の中に人々の心を傷つけるものがあったということを厳しく受け止めております。心を1つにしている、あるいは心を1つにしたいと思っている方々の心を傷つけたということがありましたならば、特に、第1次産業、農業、酪農、あるいは水産業、これは最も大事にしてきた産業であり、そういう方たちの心を傷つけたとすれば誠に申し訳なく心からお詫びをいたします」と述べて謝罪しました。

「大きな区切りを迎えた」

辞職の意向を固めた背景について「大きな区切りを迎えているなという感覚がある。皆さんとともに苦しみあえいだ新型コロナウイルスの時期を乗り越えて、去年は東アジア文化都市として日本の文化の顔、文化首都として、恥ずかしくない素晴らしい実績が残せた」と述べました。

「ことばの問題 不徳の致すところ」

発言した内容について「ことばの問題で、議会やマスコミ、県民の方からアドバイス含めてご批判をいただき、その都度、以後、このようなことがないようにと努めてきたが、みずからの不徳の致すところだ」と述べました。

その上で「県民の皆様に対する気持ちは常に、尊敬と敬愛と心はひとつで、とくに弱い立場にいる人たちのために働いてきたつもりだが、心を傷つけられた人がいるとすれば、本当に本意ではなく、心からおわび申し上げたい。どうか、自分のお仕事に誇りと使命をもって続けてください」と述べました。

「リニア みんなが喜ぶ形になればいい」

JR東海が建設を進めるリニア中央新幹線について「JR東海と真摯(しんし)な対話を続けてきたが、昨年、社長が代わり雰囲気が変わった。リニアが大きな区切りを迎えたのが一番大きい。県民の皆さまとお約束したリニア問題については一里塚をしっかりこえて、JR東海と信頼関係を作り上げてみんなが喜ぶ形になればいいと思う」と述べました。

辞職理由 みずからの発言とリニア延期で区切り

辞職を決意した理由として、みずからの発言とリニア中央新幹線の問題に開業延期という区切りがついたことの2つだと説明し、「不十分なことばづかいによって人の心に傷をつけた。大きく反省すべきことだ。これが繰り返されており、ひとつの大きな辞任の理由だ」と述べました。

また、リニア中央新幹線については「2027年の開業の断念は重要な、爆弾的なニュースでこれで思いのまま後は任せられる。これが大きな理由だ」と述べました。

「リニアは私の手をもう離れた」

JR東海が2027年の開業を断念する方針を示したリニア中央新幹線について「JR東海は事業計画にずっと固執されてきたが、事業計画を根本的に書き直したものが3月29日に出た。これで私の手をもう離れた。この段階でリニアの問題が一区切りというか、立ち止まって考えざるを得ない状況に立ち至り、従来と全く違う次元に来た」と述べました。

県議会との関係も理由に

任期の途中で辞職する理由を問われたのに対し「1番の大きな公約はリニアの問題を任期中に決定することだった。一方で、県議会も私の言動が一因になり、政局がらみで動くというのが常態化して、これはなんとか解決したいと思っていた」と述べ、県議会との関係も理由に挙げました。

「出直し選挙なんてとんでもない」

再び知事選に立候補する考えがあるかどうか問われたのに対し「まったくない。私はもう十分仕事をした。4期目は、リニアが非常にヒートアップした争点になり、県民のためになる形でJR東海に、思い切って正直な話をしていただき、ひとつの解決をみた。出直し選挙なんてとんでもない。まったく考えていない」と述べました。

「後継候補として立候補を求めたわけではない」

立憲民主党の渡辺周衆議院議員が川勝知事から後継候補として知事選挙に立候補するよう求める趣旨の話があったと明らかにしたことについて、川勝知事は、後継候補として立候補を求めたわけではないという認識を示しました。

渡辺氏に連絡をした真意については「私が知事選挙に出たときに何度も応援してくださったが、そのときに、渡辺氏も県議会の経験があり、『県の舵取りをしたい』、『川勝が出るのであれば出ない』とおっしゃったので『私が出ないときには、連絡を差し上げましょう』と約束をした。2日は辞職のことを言おうと思っていたので、その前に電話を差し上げた。約束を果たしたということに尽きる」と述べました。

退職金「規則どおりにしていく」

退職金を受け取るかと質問されたのに対し「しかるべき委員会で勧告があり、これに従うということでこんにちに至っている。どういう形になるか、規則どおりにしていく」と述べました。

「辞表提出は6月定例会のちょっと前」

辞表を提出する時期について問われたのに対し「辞表の提出は6月の定例会のちょっと前になるかもしれない。辞表を出して、それを受け取った議会が判断するので、定例会で私の説明を聞いて、そこで可否を議論されて、可決されれば辞職できるという段取りになっている」と述べました。

また「定例会の冒頭でお許しを得て、お礼とごあいさつの機会を得たいと思っている」と述べました。

辞職決意までの経緯は

静岡県の川勝知事は1日、新人職員への訓示の中で「県庁というのは別のことばで言うとシンクタンクです。毎日野菜を売ったり、牛の世話をしたりするのとは違って、基本的に皆さんは知性が高い方たちです」などと発言しました。

この発言が、職業差別発言とも捉えられかねないとして波紋が広がり、川勝知事は2日夜、記者会見し「職業差別はありません。もし、そのことで不愉快な思いをされたとすれば 誠に申し訳ないと思う」と述べました。

そのうえで「どうしたらいいかと考えたんですけど、ことしの6月議会をもって職を辞そうと思う」と述べて突然、任期途中で辞職する意向を表明しました。

一夜明けて、川勝知事は3日午前10時半すぎ、知事公舎を出る際に、記者団から「どうして辞意を表明したのか」と質問されたのに対し「午後3時半に記者会見します」とだけ述べて、車に乗り込み、県庁に向かいました。

県に批判や苦情 1700件超

静岡県によりますと、川勝知事が新人職員への訓示の中で、職業差別とも捉えられかねない発言をしたことに対し、2日から「すぐに辞職するべきだ」とか「農業をばかにしているのではないか」といった批判や苦情が電話やメールなどで寄せられているということです。

3日は午後5時までに1358件にのぼり、2日の分と合わせると1788件になり、ほとんどが否定的な意見だということです。

《静岡県内の自治体の反応》

御殿場 勝又市長「差別的な発言と取られても否めない」

静岡県の川勝知事は、3年前の参議院補欠選挙の応援演説の中で、御殿場市に関して「あちらはコシヒカリしかない」などと発言しました。

御殿場市の勝又正美市長は3日朝、記者団に対し「コシヒカリ発言で多くの市民の心が傷つけられたが少し重なる部分があると感じた。職種を出して比較して対象になった皆さんのことを考えると、見下したような差別的な発言と取られても否めない」と述べました。

そのうえで、今後について「突然の辞職に驚いているし、コシヒカリ発言以降、知事には東部地域に関心をもってもらい、相談して継続している事業もあるので不安だ」と話していました。

静岡市 難波市長「今回は信じがたいレベルで逆に心配」

静岡県の川勝知事が辞職の意向を表明したことについて知事のもとで副知事を務め、リニア問題も担当した静岡市の難波喬司市長は、記者団に対し「副知事をしていたころにも不適切な発言はあったが、今回は信じがたいレベルで、どうされてしまったのかと逆に心配している状況だ」と話しました。

そのうえで、JR東海が開業を目指すリニア中央新幹線について「JR東海の経営判断にみずからの意見を言うなど適切でない発言が多かった。県は前に進む姿勢で臨むべきだと思う」と述べました。

さらに、望まれる知事の姿勢については、「発言などで時間を取られることなく、しっかりとした行政経営ができる方に知事になっていただきたい」とする考えを示しました。

浜松市 中野市長「優劣をつけるような話いかがなものか」

川勝知事が辞職の意向を表明したことについて、浜松市の中野祐介市長は「きのうの知事の会見では、『職業差別の意図はなかった』ということだが、知事として受け取られる側がどう受け取るかまで考えなければいけない。特に、優劣をつけるような話をするのはいかがなものか。静岡県の顔としての知事のあり方、やり方が、すべてがいい方向に出ていたかというと必ずしもそうではなく、悪い方での静岡県の顔も残念ながらあった」と述べました。

そのうえで、今後の県政について「最近もさまざまな静岡県政の課題が出てきているので、解決に向けて新しく動き出すことを期待したい」と話していました。

島田市 染谷市長「突然の表明で大変驚いた」

川勝知事が辞職の意向を表明したことについて、リニア中央新幹線のトンネル工事で水資源への影響が懸念される大井川流域の自治体の1つ、島田市の染谷絹代市長は3日朝、報道陣の取材に応じ「突然の表明で大変驚いた。不適切発言はこれまでもたくさんあり、どんな心持ちがあって辞職の発表になったのかよく分からない」と話しました。

その上で、リニア中央新幹線の今後について「本来あるべき水資源や環境保全などの本筋から離れた議論でいろいろと世間をにぎわせてきたので辞職によって、本来あるべき議論に戻る1つのきっかけになればいいと思う」と述べました。

《JR東海、国、周辺自治体などの反応》

JR東海「工事着手に向け真摯に取り組む」

JR東海では「川勝知事の発言を直接聞いたわけではない」としたうえで、「静岡工区のトンネル掘削工事に1日でも早く着手できるよう静岡県や静岡市、流域の市町などの関係者と双方向のコミュニケーションを大切にして真摯(しんし)に取り組む」とコメントしています。

林官房長官「コメントすることは差し控える」

林官房長官は午前の記者会見で「知事の発言の一つ一つについて、政府の立場でコメントすることは差し控える」と述べました。

一方で「リニア中央新幹線については引き続き国土交通省がJR東海と静岡県の協議の状況を確認しつつ、JR東海に対して、静岡県をはじめとする関係自治体とのいっそうの対話を促すなど、品川ー名古屋間の早期開業に向けた環境整備を進めていきたい」と述べました。

愛知 大村知事 “発言が事実なら許されないこと”

愛知県の大村知事は、3日午前に記者会見し、「川勝知事の発言が事実であるとすれば許されないことだ。選挙で選ばれる政治家の出処進退は、本人の説明責任とあわせて政治家みずから判断することだ」と述べました。

また、川勝知事が静岡県内での着工を認めていないリニア中央新幹線をめぐっては、「沿線の都府県でつくる『建設促進期成同盟会』で、一日でも早い静岡工区の着工と東京~名古屋間の早期整備実現、開業に結び付けてほしいと、毎年決議し、要望している。沿線の都府県のせつなる願いとして、リニアを一日でも早く開業したい、その一心だ」と述べました。

名古屋市 河村市長「早く工事を進めてほしい」

名古屋市の河村市長は「川勝知事の発言は、ラーメン屋のおやじのように苦労して雇用を守って税金を納めている人を大事にするという私の考えとは真逆だ。個人を批判したくはないが、川勝さんはエリートなので、そのような発言が出たのではないか」その上で、辞職する意向を表明したことについては「びっくりしたが、苦しみから逃れたかったのではないか」と述べました。

また、川勝知事が静岡県内での着工を認めていないリニア中央新幹線をめぐっては「知事がかわれば普通は工事は進むと思うが、大井川は大切で、命の水として重要だ。JR東海は、静岡の人が、うまい水を飲めるように頑張るという気持ちを持ってほしい。リニアができることは名古屋にとっては多くの人が集まり、ありがたいことなので、早く工事を進めてほしい」と述べました。

立民 渡辺氏 “後継候補の話もいまは国会議員の職務に専念”

静岡県の川勝知事が辞職する意向を示したことについて、立憲民主党静岡県連の顧問を務める渡辺周・衆議院議員は川勝知事から後継候補として知事選挙に立候補するよう求める趣旨の話があったと明らかにし、いまは国会議員の職務に専念したいという考えを示しました。

2日静岡県の川勝知事が辞職する意向を示したことを受けて、立憲民主党静岡県連の顧問を務める渡辺周・衆議院議員は3日午前、国会内で記者団の取材に応じました。

この中で渡辺氏は、2日辞職の意向を表明する直前に川勝知事から電話を受けたことを明らかにし「リニア中央新幹線の開業時期の延期がはっきりし、自分の責任は果たしたので近く職を辞すということだった」と述べました。

その上で「『あとをやってくれ』という直接的な話はないが、今後の話について含みのある形で言われた」と述べ、川勝知事の後継候補として知事選挙に立候補するよう求める趣旨の話があったと明らかにしました。

一方で「政権交代に向け党の安全保障政策などを取りまとめる側にいる。いまは目の前のことに誠心誠意まい進したい」と述べました。

またリニア中央新幹線をめぐって、県がトンネル工事によって県内を流れる大井川の水量が減ることなどを懸念し、着工を認めていないことについて「ここまで来てやめることはありえない。JR東海や国が責任を持ってやるべきで、もし何かあった場合、施工者側が何らかの責任を取る覚書が必要だ」と述べました。

川勝平太氏とは

川勝平太氏は京都府出身の75歳。

早稲田大学政治経済学部教授や浜松市にある静岡文化芸術大学の学長などを務めたあと2009年の静岡県知事選挙で初当選し、現在4期目です。

川勝知事は2021年6月の県知事選挙期間中の集会でみずからが学長を務めていた大学の学生について「8割ぐらい女の子なんです。11倍の倍率を通ってくるんですから、みなきれいです」などと女性の学力と容姿を結びつけるような発言をしていたことが明らかになり、その後、謝罪して発言を撤回しました。

また、この年の10月の参議院補欠選挙の応援演説で、対立候補が御殿場市長を務めていたことに関連し、「あちらはコシヒカリしかない」などと発言したことを受けて県議会で辞職勧告決議が可決され、川勝知事はその年の12月の給料とボーナスの合わせて440万円余りを返上する意向を示していました。

しかしその後、給与などを返していなかったことが明らかになり、去年7月には県議会で50年ぶりとなる不信任決議案が出され1票差で否決される事態にまで至りました。

川勝知事は、この月の定例会見で、自身の不適切な発言がたびたび問題視されることについて「私の不徳のいたすところだ。常に公人の立場でいる。今度、迷惑をかければ辞職する」と述べていました。

リニア中央新幹線巡り国に反発

川勝知事といえば、“夢の超特急”リニア中央新幹線に異を唱える知事として知られています。

リニア中央新幹線のトンネルが南アルプスの地下深くで地元では「命の水」とも呼ばれる大井川の源流の下を貫くように計画されていることから、2017年に水資源や自然環境などへの影響を懸念して着工に異論を唱え始めました。

その後は静岡県内での着工を認めず、静岡特産の茶の生産者など大井川流域の人たちの暮らしを守り南アルプスの環境を保護すると訴え、県知事選挙では県民の圧倒的な支持を得て、舌鋒鋭く国やJR東海をへの反発を繰り返してきました。

その後、トンネル工事で県外に流れ出る大井川の水を県内に戻すいわゆる「全量戻し」の方策などをJR東海が打ち出したことなどから、去年、国の有識者会議でもJR東海の対策を整理した最終報告をまとめ、大井川流域の自治体で作る協議会も着工に向けて動き出すことを要請していました。

しかし、川勝知事は、生物多様性や工事の際の発生土置き場など30項目について、「今後も議論する必要がある」として納得せず、工事の着工を認めていない状況が続いています。