インボイス制度半年 新たな納税で小規模事業者に影響も

消費税の納税額の正確な把握を目的とした税額控除の方式、「インボイス制度」は、去年10月の制度開始から半年が経ち、国税庁によりますと、これまでに400万以上の事業者が登録をしています。
一方、制度への登録で新たに納税の義務を負った小規模事業者の中には、事業や生活に影響が出ているケースもあります。

「インボイス」は事業者どうしの取り引きで発行される新しい形式の請求書やレシートで、10%と8%、それぞれの税率ごとの消費税額がいくらかなどが記載されています。

納税額を正確に把握することなどを目的に、去年10月1日に制度が始まり、事業者が仕入れなどで取引先に払った消費税額の控除や還付を受ける際、インボイスが発行されていることが条件となりました。

インボイスを発行する場合、国への登録が必要で、国税庁によりますと、ことし2月末までにおよそ441万の事業者が登録しているということです。

一方、年間の売り上げ1000万円以下の小規模事業者が登録をする場合、従来、免除されてきた消費税納付の義務を負うことになりました。

実質的な収入減につながり、事業や生活に影響が出ているケースもあります。

制度に登録したフリーのエンジニアは

迎淳志さん

フリーのデータエンジニアとして企業のウェブサイトなどを制作している福岡県の迎淳志さん(45)は、制度に登録しなければ、取引先の企業が税の控除を受けられず、「迷惑をかけてしまう」と考えたことから、制度に登録をしました。

税負担を一定期間軽減する措置が設けられていますが、月に少なくとも数万円の収入減は避けられず、迎さんは、仕事の時間を大幅に増やして、より多くの発注に対応できるようにしています。

経過措置の終了後を考えると、経済的な不安があるとして、現在暮らしている賃貸マンションから、県内の実家に、近く、転居することを決めたということです。

迎さんは「今は猶予期間なので、それほど切実には感じませんが、売り上げが伸びれば払う税額も大きくなり、価格転嫁が難しい業種でもあるので、今後苦しくなると思います」と話していました。

制度導入で新たな業務「税理士事務所」休業・廃業も

インボイス制度の開始以降、休業や廃業が急増している業種があります。

信用調査会社の「帝国データバンク」によりますと、去年1年間に「税理士事務所」が休業や廃業をしたケースが全国で81件あり、おととしの30件から2.7倍に増えています。

この増加率は、調査したすべての業種の中で最も高いということです。帝国データバンクは、業界の高齢化や競争の激化、さらにインボイス制度の導入で、税理士に新たな業務が加わり、コストを報酬に転嫁できない事務所の中には、経営が悪化しているケースがあると分析しています。

中小企業の経営者の団体からは、税理士事務所の休廃業がさらに増えれば、企業の相談先の選択肢が減ることにもつながるとして、懸念する声が聞かれました。

奥村眞吾税理士

東京などで、会計事務所を経営している奥村眞吾税理士(76)は「インボイス制度による仕事量の増加は、並大抵の量ではないが、それを価格に転嫁できない。税理士業界は高齢化が進んでいて、高齢の税理士にとってはコンピューター化された業務の増加も、負担になっていると思う」と話しています。

国税庁の専用コールセンターには

国税庁が設置している専用のコールセンターには、インボイス制度の開始から半年が経過した現在も事業者からの相談や問い合わせが1日2000件ほど寄せられています。

国税庁によりますと、2月末までに制度に登録した事業者の3分の1にあたるおよそ153万の事業者は、従来、消費税の納付を免除されてきた年間の売り上げ1000万円以下の小規模事業者でした。

コールセンターには、こうした事業者から、税負担の軽減措置を受けるための手続きなどについて、多くの問い合わせが寄せられているということです。

国税庁軽減税率・インボイス制度対応室 後藤善行室長

「制度についての質問は、さまざまなものがありますが、ぜひ気軽に相談してほしい」