イラン“大使館にイスラエルが攻撃” 大統領 報復措置取る考え

中東のシリアにあるイランの大使館が、イスラエルによるとみられる攻撃を受けて、軍事精鋭部隊の幹部らが殺害されました。イランのライシ大統領はイスラエルに対し「報復を受けずには済まされない」とする声明を出し、何らかの報復措置を取る考えを強調しました。

イランの国営メディアは1日、シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館の領事部の建物が、イスラエルによるミサイル攻撃で破壊され、軍事精鋭部隊の革命防衛隊で国外の特殊任務にあたる「コッズ部隊」の司令官の1人と副官を含むあわせて7人が殺害されたと伝えました。また、シリア人の市民6人も死亡したとしています。

殺害されたザヘディ准将は特殊任務に従事

イランの革命防衛隊は1日、殺害された司令官はモハンマドレザ・ザヘディ准将だと発表しました。

革命防衛隊とつながりのあるメディア「タスニム通信」によりますと、ザヘディ准将は、革命防衛隊の中でも主に国外での特殊任務にあたる「コッズ部隊」に所属し、シリアやレバノンでの作戦などに従事していたということです。

イラン最高指導者ハメネイ師「この犯罪を後悔させる」

イランの最高指導者ハメネイ師は2日、声明を出し「憎しみに満ちたイスラエルの政権による犯罪だ」と非難しました。その上で「邪悪な政権は罰せられるだろう。我々は神の力によってこの犯罪を後悔させる」として報復を誓いました。

イラン大統領「イスラエルは報復を受けずには済まされない」

これを受けて、イランのライシ大統領は2日、声明を出し「イスラエルはこのような非人道的な行動によって彼らの邪悪な目的を達成できないことを知らなくてはならない」と非難した上で、「イスラエルは報復を受けずには済まされない」として、何らかの報復措置を取る考えを強調しました。

また、アブドラヒアン外相はSNSへの投稿でイランと国交のないアメリカの利益代表を務めるスイス大使館の高官を呼び出し「イスラエルを支援するアメリカにも責任がある」とするメッセージをアメリカに伝えたとしています。

一方、アメリカのニュースサイト、「アクシオス」は、政府高官の話としてアメリカが今回の攻撃に関与していないことをイラン側に伝えたと報じました。

去年10月以降 イラン在外公館が攻撃受けるのは初めて

イランが支援するイスラム組織ハマスとイスラエルの戦闘が始まった去年10月以降、シリアではイスラエルによるとみられる攻撃が激しさを増し、イランの革命防衛隊の幹部などが相次いで殺害されていますが、在外公館が攻撃を受けるのは初めてです。

イラン各地の広場などでは大勢の市民が繰り出してイスラエルの国旗を燃やすなどして、強く反発する動きが出ています。

イランはハマスのほか、イスラエルへの攻撃を続けるレバノンのシーア派組織「ヒズボラ」や、イエメンの反政府勢力「フーシ派」などを支援していて、こうした武装組織も巻き込んで中東情勢がさらに緊迫化することが懸念されます。

イスラエル軍の報道官「個別の攻撃には言及しない」

イスラエル軍の報道官は「外国メディアで伝えられる個別の攻撃には言及しない」とコメントする一方、アメリカのCNNの取材に対し「建物は領事館でも大使館でもなく、ダマスカスにある民間の建物を装ったコッズ部隊の軍事施設だ」と主張しています。

国連安保理 緊急会合を開催へ

国連イラン代表部は1日、国連のグテーレス事務総長と今月の安全保障理事会の議長国マルタの国連大使に対して書簡を送り、「イスラエルのテロ攻撃は国連憲章と国際法に対する明白な違反だ」などと非難し、対応を協議する安保理の緊急会合を開催するよう求めました。

そして、議長国のマルタによりますと、ロシアも緊急会合の開催を求め、2日午後3時、日本時間の3日午前4時から開催することを決めたとしています。

米ホワイトハウス報道官「調査中」

アメリカ・ホワイトハウスのジャンピエール報道官は、1日の記者会見で「報道は把握しているし、われわれのチームも調査中だ。ただ、現時点では、それ以上、言うことはない」と述べるにとどめました。

また国務省のミラー報道官も記者会見で「地域のパートナー国と連絡をとり、情報を収集しているが、攻撃の標的や誰に責任があるかなどまだ把握できていない。戦闘の拡大のおそれは常に懸念していることだ」と述べました。

ロシア外務省「攻撃を断固として非難」

ロシア外務省は1日、声明を発表し「イスラエル空軍がダマスカスのイランの領事部の建物を攻撃した」としてイスラエルによる攻撃だと断定しました。

そのうえで「われわれは今回の攻撃を断固として非難する。イスラエルによるこのような攻撃的な行動は絶対に容認できず、阻止されなければならない。地域全体に極めて危険な結果をもたらす」としてイスラエルを強く非難しました。

ロシアはシリアのアサド政権の後ろ盾となっていて、シリア国内にもロシア軍の部隊を展開しているほか、おととしウクライナへの軍事侵攻を開始してからイランとの間で軍事的な連携を強めています。

専門家「軍事作戦上の有利を確立する思惑か」

中東情勢に詳しい慶應義塾大学の田中浩一郎教授
「イスラエルによる攻撃の可能性が非常に高い。今回、殺害されたイランの革命防衛隊の幹部はもともとレバノンのヒズボラとイランとの軍事的な連携を整える役割を果たしていた。イランの指揮系統を断ち、軍事作戦上で有利なポジションを確立しようというイスラエルの思惑があるとみられる

Q イランが国際法違反だと非難していることについて
A「イスラエルは国際法を守らなかったケースが多くあったが、今回もその1つだと思う。幹部を抹殺することの政治的、軍事的な意味が極めて高いということを、承知の上でやったと思う。イランの権益を破壊することによる非難はほとんど意に介していない」

Q イスラム組織ハマスとの戦闘で人質の解放を実現できていないネタニヤフ首相への批判が高まっている中で今回の攻撃が起きたことについては
A「新たな危機を作り出し、それに対して、イランが反撃したり、ヒズボラが再び北部攻撃をしたりすることになればイスラエル国内の世論はその対応を優先する方向に大きく傾く。それを利用して自分の地位を確固たるものにするという見方もできる」

Q イスラエルを支援するアメリカを巻き込んで紛争が拡大する可能性は
A「アメリカもイランも去年10月7日以降、軍事的な対立に手を染めるつもりはないという姿勢をずっと続けてきていて、エスカレーションは避けたいという点では、アメリカもイランも思惑は一致している」

一方で、イラン国内の報復を求める世論への考慮もあるとして「これまでのパターンだと、イラクやシリアに展開している米軍の部隊や、バグダッドのアメリカ大使館といったアメリカの権益と思われるところが、イラクやシリアの民兵組織などによる攻撃の対象となることは考えられる」との見方を示しました。

その上で「地域的な紛争の拡大を避けたいと思っても、思惑どおりいかない危険性が高まっている」と述べ、イランとつながりのある武装組織が今後どのように動くのか注視する必要があると指摘しました。

イスラエルとイランの関係は

長年イランと厳しく対立してきたイスラエルは去年10月に、イランが支援するイスラム組織ハマスとの戦闘が始まって以降、隣国シリアにあるイランの軍事精鋭部隊・革命防衛隊の拠点などへの攻撃を強めています。

去年12月には革命防衛隊の幹部で、国外の特殊任務を担う「コッズ部隊」の軍事顧問としてシリアで活動していたムサビ准将がミサイル攻撃で殺害されたほか、ことし1月にもシリアで革命防衛隊の軍事顧問5人が殺害され、イランはいずれもイスラエルによる攻撃だと非難しています。

一方、イランはことし1月、隣国イラクにあるイスラエルの情報機関モサドの拠点を弾道ミサイルで攻撃したと発表し、革命防衛隊の幹部を殺害された報復だとしています。

イランは、イスラエルとハマスの戦闘に直接的な介入はしていませんが、イランが支援する「抵抗の枢軸」と呼ばれる中東各地の武装組織のネットワークはイスラエルや駐留するアメリカ軍などへの攻撃を繰り返しています。

「抵抗の枢軸」とは、ハマスのほかレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラ、イエメンの反政府勢力フーシ派、イラクやシリアの民兵組織などでイスラエルとその後ろ盾のアメリカへの対決姿勢を掲げています。

このうち、ヒズボラはレバノン南部からイスラエルに対しロケット弾や無人機での攻撃を続けているほか、フーシ派はイスラエルへのミサイル攻撃や紅海周辺を航行する船舶への攻撃を繰り返しています。

イスラエルとイランの報復の応酬が激しさを増せば、こうした武装組織も巻き込んで中東情勢がさらに緊迫化するおそれがあります。