水原氏を“テロ対策”の機関が捜査?背景に何が 専門家に聞く

大リーグ、ドジャースの大谷翔平選手の専属通訳を務めていた水原一平氏が違法賭博に関わっていたとされる問題で、アメリカのメディアは「国土安全保障省」の国際的な金融犯罪などを捜査する部門が、国税当局とともに水原氏の捜査を行っていると報じました。

元来、“テロ対策”を目的に設立された機関が、なぜ水原氏の捜査を行うというのでしょうか?どんな組織なのか?専門家に聞きました。

米メディア報道 「国土安全保障省が…」

水原氏をめぐって、アメリカのメディアは大谷選手の口座からブックメーカーと呼ばれる賭け屋に対し、450万ドルが送金されていたと報じていて、大谷選手は、水原氏が自分の口座に勝手にアクセスし、ブックメーカーに送金していたと説明しています。

これについてアメリカのスポーツ専門チャンネルESPNは27日までに、アメリカの国土安全保障省が水原氏の捜査を行っていることを認めたと報じました。

国土安全保障省

この問題では日本の国税庁にあたるアメリカのIRS=内国歳入庁も水原氏と賭け屋に対する捜査を始めていて、国土安全保障省の国際的な金融犯罪などを捜査する部門がIRSと合同で行っているということです。

一方で、国土安全保障省は、この捜査の具体的な内容や、大谷選手の代理人から接触があったかについては、明らかにしなかったとしています。

【Q&A】なぜ「国土安全保障省」が捜査?

なぜ水原氏の賭博問題を、アメリカの国土安全保障省が捜査するのでしょうか?

アメリカの安全保障に詳しい、明海大学外国語学部の小谷哲男教授に話を聞きました。

(以下、小谷教授の話です)

Q.国土安全保障省とは?

A.国土安全保障省=DHS(The Department of Homeland Security)は、もともと2001年の「9.11」のテロを受けて、アメリカ国内の治安を維持する、維持を強化するという目的で作られた省庁です。

ただ、「対テロ」の対策を行っているだけではなくて、例えば、密輸取締りですとか、人身売買の取締り、あるいはサイバー攻撃についても管轄権を持っています。

今回の賭博の件に関しては、インターネット上の賭博を取り締まることが、このDHSの管轄権になってまして、その観点から捜査を行っていると考えられます。

アメリカは州によって、ギャンブルを認めるかどうか基準が違うのですけれども、インターネットを使った賭博の場合は、賭博が認められている州と、認められていない州、双方をまたいだ形でギャンブルが行われるということがありえますので、そういった意味でDHSがこの問題を管轄しているということになります。

Q.「横断的な捜査」がポイント?

A.そうですね。今回問題となっているのは、カリフォルニア州ですけれども、カリフォルニア州に関してはまだスポーツ賭博が違法とされていて、その他多くの州では、一定程度認められているんですけれども、今回は認められていないカリフォルニア州が拠点となった、それがおそらくインターネットを使った賭博だということで、DHSが捜査の一端を担っていると考えられます。

【補足】「国土安全保障省」の犯罪捜査部門とは

今回、水原氏の捜査を行っているとアメリカのメディアが報じた「国土安全保障省」は、国境をまたいで行われる犯罪を捜査する部門を設けています。

捜査の対象となるのは、薬物の密輸や武器の違法な輸出、人身売買、それにマネーロンダリングなどの金融犯罪で、犯罪者の検挙や犯罪によって得られた資金を押収することで、国際的なテロ組織や犯罪集団を解体することが目的の一つです。

報告書によりますと、この捜査部門は去年9月までの1年間に、犯罪に関係して送金されたとしておよそ10億ドルを押収しています。

国土安全保障省のウェブサイトによりますと、8000人を超える職員が、アメリカ国内と世界50か国以上にある拠点で活動しているということです。

Q.テロ対策と、どうつながる?

A.もともと9.11のあとにDHSが作られた時は、やはりテロを未然に防げなかったということで、「テロからいかに守るか」ということが1番重要なポイントだったんですけれども、その後、様々な省庁から権限を吸収する形で、「対テロ」だけではなく「国内全般の治安」を担うことになってきました。

例えば、国境管理の問題やコーストガード(沿岸警備隊)もアメリカの国土安全保障省の傘下にあります。様々な犯罪の局面で取締りを行うということなんですけれども、違法なギャンブル、インターネットを使ったギャンブルで得た資金が、例えばテロも含めて、他の犯罪にも使われうるわけです。

国内の治安全般を守るためには、少しでもテロの資金源になるようなことは取り締まらなければならないということで、幅広い取締りの権限を持つようになってきた、権限が集中してきたということになります。

Q.日本でいうと、どんな組織?

A.日本にはDHSと似た組織はないと思いますけれども、あえて言えば、“戦前の日本の内務省”のような役割を果たしているということですね。

旧内務省

例えば、今の日本で言えば、警察庁はもちろんですけれども、海上保安庁ですとか、厚生労働省の麻薬取締部など、これらの国内の捜査機関をすべて一元化したようなものと考えていいかと思います。

アメリカの省庁でも、国防省と退役軍人省(退役軍人の福利厚生を扱う)に次いで、3番目に大きいものになります。

Q.FBIとの違いは?

A.もちろん、国内の警察機関、連邦捜査局「FBI」と権限が重なる部分もありますので共同の捜査を行うこともありますが、国外からの脅威が国内に流入するのを防ぐのが、DHSの一番の特徴です。

そのうえで、今回のインターネットを使ったギャンブルというのは、「サイバー」「情報」の側面からの脅威という観点で、DHSが担うということになったと考えられます。

Q.捜査の焦点は?

A.この問題は、私の専門を離れてしまうので、なかなかお答えするのが難しいですけれども、まずはこのギャンブルにあたっては、それを取り仕切っている「胴元」が存在するわけです。

その胴元の捜査をDHSが仕切ってきた一環で、大谷選手の通訳の方も捜査対象になったということではないかと思います。一番の焦点は胴元が行ってきた不法行為、これの取締りということになります。

ただ、胴元が主催していたインターネットギャンブルに関わっていた人たちも、当然捜査対象になってきますので、それが現状だと思います。

明海大学 小谷哲男教授

今回はインターネットを使った違法なギャンブルということで、サイバー犯罪を取り締まっている国土安全保障省=DHSが捜査の一部を担っている。そして、アメリカの各州で、このギャンブルを取り締まる政策・方針が違うことから、それらを一元的に、州を越えて捜査を行うことができるDHSが今回の捜査に関わっている、ということだと思います。

(ここまで小谷教授の話)

NBA 選手のスポーツ賭博めぐる疑惑で調査

アメリカでは今週、NBA=アメリカプロバスケットボールの選手をめぐってもスポーツ賭博をめぐる不正行為の疑いでリーグが調査を行っていることが報じられるなどスポーツ関係者と賭博をめぐる問題が表面化しています。

スポーツ専門チャンネルのESPNなどによりますと調査されているのはトロント・ラプターズのジョンテイ・ポーター選手です。

報道によりますとことし1月26日と今月20日の試合について選手の試合中の得点やアシスト数などの数字を予想する「プロップ・ベット」という賭け事で不正が行われていた疑惑があるということです。

いずれの試合でも、ポーター選手の得点数などが低くなる予想に対する賭け金が巨額に膨らんでいて、ポーター選手は自己申告によるけがや病気を理由に極めて短い時間しか出場しなかったということです。

ESPNの取材に対しNBAの広報担当者は「この件について調べている」とコメントしています。

NBAの選手やリーグで働く職員はNBAの試合で賭博を行うことが禁止されていて違反すると出場停止や契約解除などの処分を受ける可能性があるということです。

アメリカのスポーツ専門サイト「The Athletic」は、今月23日と25日のラプターズの試合ではポーター選手がチームに帯同していなかったと伝えています。

大リーグ、ドジャースの大谷翔平選手の専属通訳だった水原一平氏が関わったとされるスポーツ賭博がどのようなものだったのかは明らかになっていません。

NCAA「こうした賭博を撲滅させる」

アメリカでスポーツ賭博をめぐる問題が表面化したことを受けてアメリカの大学スポーツを統括する組織、NCAA=全米大学体育協会はSNSにチャーリー・ベーカー会長の声明を投稿し「スポーツ賭博の問題は全米で増加傾向にあり、競争の誠実性を脅かし、学生やプロのアスリートたちが嫌がらせを受けることにもつながっている」と懸念を示して、学生アスリートを守るための対策に力を入れていく姿勢を示しました。

声明では特に「プロップ・ベット」と呼ばれる選手やチームの特定の成績や試合中の出来事などが対象となる賭博に対して懸念を示し、NCAAはこれまで州当局と協力して多くの州でこうした賭博を禁止してきたとした上で「今週、われわれはこうした賭博を認めている州の関係者に連絡を取り、スポーツ賭博の市場から学生アスリートを対象としたこうした賭博を撲滅させるよう求めていく。NCAAは試合の誠実性を守るためにスポーツ賭博とは一線を引く」と強調しました。

アメリカでは、NCAAが主催する大学スポーツの大会はアメリカンフットボールや野球など多くの種目で人気が高く、毎年3月から始まるバスケットボールのNCAAトーナメントは、全米が注目する一大イベントです。

ギャンブル大手7社が啓発団体設立

アメリカでスポーツ賭博をめぐる問題が表面化する中、27日、アメリカでオンラインのスポーツ賭博やカジノなどを運営する大手7社が利用者が健全にギャンブルを行えるよう啓発活動や対策などに取り組む団体を設立しました。

団体によりますと、設立に携わった7社をあわせると合法的なオンラインのスポーツ賭博市場の85パーセント以上を占めるということで、団体の1年目の活動には2000万ドル、日本円でおよそ30億円以上を投じるということです。

団体のトップには長年、ギャンブル依存症の対策などに取り組んできた専門家を据え、利用者が健全にギャンブルを行えるよう啓発活動を進めるほか、ギャンブルがまねく問題への対策などにも取り組むということです。

アメリカでは、40州近くの州でスポーツ賭博が合法化され、携帯電話から簡単に参加できるアプリも普及し、人気がある一方で、ギャンブル依存症や違法賭博などの問題も指摘されています。