上野動物園のサル山取り壊しへ サルが暑さをしのげる森に

地球温暖化などの影響で平均気温が上昇し、暑さ対策が求められる中、東京の上野動物園では、サルが厳しい暑さをしのげるように「サル山」が取り壊され、日陰ができやすい森のようなつくりにリニューアルされることとなりました。

「サル山」老朽化でリニューアルへ

東京 台東区にある上野動物園のニホンザルの展示施設「サル山」は、92年前の昭和7年に造られた動物園に現存する最も古い展示物で、コンクリート製の岩山のつくりはサルが観察しやすくなっています。

この「サル山」について、老朽化を理由にリニューアルされることとなりました。

「動物の福祉」の考え 森のようなつくりを計画

関係者によりますと、新たな施設は、世界や日本各地の動物園などで広がっている、できるかぎり動物が健康でストレスなく過ごせるようにするなどの「動物の福祉」の考えに基づいて建設されます。

具体的には、地球温暖化などの影響で平均気温が上昇する中、サルが厳しい暑さをしのげるように「サル山」は取り壊され、日陰ができやすい擬木を植えた森のようなつくりになる計画だということです。

また、地面には、照り返しなどで暑くなりにくい素材の活用が検討されているということです。

工事は早ければ来年3月ごろから始まって、およそ1年で完了し、この期間、サルは園内の臨時の施設で展示される予定です。

上野動物園を訪れた人は

上野動物園を訪れた15歳の女子中学生は「昔の動物園は動物が過ごしづらい環境だったので、それを変えていこうというのはすごくいいことだと思う」と話していました。

30代の女性は「サルが見えづらくなるかもしれないが、森になることでサルの本来の姿が見られるようになるのでいいことだと思う」と話していました。

また、別の30代の女性は「人間には帽子などがありますが、サルにはないので、暑さでぐったりしている様子を見るとかわいそうだと思う。夏の暑さが厳しい中、もし、自分が直射日光を浴びる『サル山』にいたらと思うと死んじゃいそうなので、日光を遮るものが出来るのはいいことだと思う」と話していました。

昭和7年完成の「サル山」 暑さへの対策が課題

上野動物園の「サル山」は、ニホンザルなどを飼育・展示している全国各地の「サル山」の先駆けとして92年前の昭和7年に完成し、動物園に現存する最古の展示施設となっています。

千葉県富津市にある高宕山の岩山をモデルにして造られ、コンクリート製の岩山は当時の姿のままとなっています。

上野動物園によりますと、ニホンザルは、寒さには強いものの、汗をあまりかかないため暑さには弱いということです。

夏になるとコンクリートによる照り返しもあって、サル山では40度超えることもあり、動物園はスプリンクラーを設置するなど対応にあたっていて、暑さへの対策は課題となっていました。

イギリスで始まった「動物の福祉」の考え 日本でも

動物が健康でストレスなく過ごせるようにするなどの考えは「動物の福祉」、「アニマルウェルフェア」と呼ばれています。

もともとはイギリスで始まった考え方で、2015年にはWAZA=世界動物園水族館協会が指針を出し、世界中の動物園などで急速に取り入れられるようになりました。

札幌市円山動物園

日本の動物園でも「動物の福祉」の考えは広まっていて、札幌市にある円山動物園では、2015年に「サル山」の暑さ対策として地面をコンクリートから芝生に変えたということです。

また、福岡県の大牟田市動物園では来園者がモルモットを触る際、以前は、飼育員が来園者のところまで持って行きましたが、2016年からはストレスをかけないよう持って行くのはやめて、展示スペースにいるモルモットを触ってもらうようにしました。

このほか、北海道旭川市にある旭山動物園では、ヒグマが窮屈に感じないよう2022年に展示スペースをそれまでの3倍の大きさに広げました。

「動物の福祉」に詳しい日本動物園水族館協会の渡部浩文動物福祉研究部長は「全国各地で『動物の福祉』を向上させる取り組みが進んでいると受け止めている。この取り組みを通じて野生動物が生き生きと過ごすことができ、来園者もその動物の生態などを知る重要な機会につながるのでとても意義があることだ」と話していました。