テロ事件 プーチン大統領 ISに触れず “ウクライナが背後に”

ロシアの首都モスクワ郊外のコンサートホールで起きたテロ事件で、ロシアの当局は、実行犯として拘束した4人の容疑者をテロの罪で起訴しました。一方、プーチン大統領は、過激派組織IS=イスラミックステートには触れず、ウクライナ側の協力が背後にあったと主張していて、これを口実に軍事侵攻をより激化させるのかなど、ロシア側の出方が焦点です。

ロシアの首都モスクワ郊外のクラスノゴルスク市にあるコンサートホールで22日に起きたテロ事件で、ロシアの連邦捜査委員会はこれまでに137人が死亡したと発表し、保健省は182人が病院で手当てを受けているとしています。

国営のタス通信は、施設の責任者の話として、銃撃のあと建物にいたおよそ5000人が避難したと伝えています。

ロシア当局は25日までに、容疑者として拘束した11人のうち実行犯とされる4人をテロに関与した罪で起訴し、国営通信は4人はタジキスタン国籍だと伝えています。

ロシア大統領府は24日、プーチン大統領がタジキスタンのラフモン大統領と電話で会談し、テロ対策を強化することで合意したとしていて、今回の事件について協議したとみられます。

今回の事件について、過激派組織IS=イスラミックステートとつながりのある「アマーク通信」は、ISの戦闘員による犯行だと伝えています。

一方、プーチン大統領はISには触れず、ウクライナ側の協力が背後にあったと主張し、「ナチスが占領地域で行っていた処刑のようだ」などと述べ、ゼレンスキー政権をナチズムだと根拠なく一方的に非難してきた主張と重ねるような発言を行っています。

ウクライナ側は全面的に関与を否定していますが、プーチン政権がこれを口実に軍事侵攻をより激化させるのかなど、ロシア側の出方が焦点です。

起訴された4人は

今回の事件でテロに関与した罪で起訴されたのは、ダレルジョン・ミルゾエフ被告、サイダクラミ・ラチャバリゾーダ被告などあわせて4人です。

首都モスクワの裁判所の発表によりますと、ミルゾエフ被告とラチャバリゾーダ被告は罪を認めているということです。

裁判所は、ミルゾエフ被告はタジキスタン国籍だとしています。

一方、ロシアのインターファクス通信は、4人全員が罪を認め、いずれもタジキスタン国籍だと伝えています。

インターファクス通信などによりますと、4人はいずれもロシアで生活していて、ミルゾエフ被告とラチャバリゾーダ被告は無職だったということです。ほかの2人は工場勤務と元美容師だということです。

4人の年齢について、地元の複数のメディアは10代から30代だとしています。

タジキスタン 経済や軍事面でロシアへの依存度高く

かつてソビエトを構成していたタジキスタンは、中国やアフガニスタンとも接する中央アジアの国で、人口およそ1010万です。

ソビエト崩壊後に起きた内戦などの影響で経済は著しく悪化し、世界銀行によりますと、おととしの1人当たりのGDP=国内総生産はおよそ1054ドルと、中央アジア5か国の中で最も貧しいとされています。

経済や軍事面でロシアへの依存度が高く、移民や避難民を支援するIOM=国際移住機関などによりますと、GDPのおよそ3分の1を海外送金に頼っていますが、2021年の統計では、このうちおよそ58%がロシアに出稼ぎに行った労働者からの海外送金だったということです。

アフガニスタンとはおよそ1400キロの長い国境線で接していて、アフガニスタン国内に多数のタジキスタン系住民が暮らしていることなどから、2国間の関係性は強く、武器や麻薬などの流入の問題が深刻だということです。

2015年には、タジキスタンの治安機関の元司令官が過激派組織IS=イスラミックステートに参加すると公言して亡命したほか、タジキスタン国家保安委員会の副議長が2018年11月、国民のおよそ1900人がシリアやイラクでの紛争に参加していると明らかにし、多くのタジキスタン人がISに加わり、その影響が中央アジアに拡大するおそれがあるとして、懸念を示していました。

2019年5月に発生したタジキスタンの首都ドゥシャンベ近郊の刑務所での暴動について、タジキスタン治安当局は、収監されていたISのメンバーが扇動したと指摘しています。

こうした中でロシアは、アフガニスタンの国境近くでタジキスタンなどと合同で軍事演習を実施したり、プーチン大統領が中央アジア諸国の首脳とたびたび会談を行い、イスラム過激派の脅威に対する対策も話し合ってきました。

プーチン大統領は去年10月にはキルギスを訪問し、ロシア軍が駐留する首都ビシケク郊外のカント空軍基地で行った演説で「ロシア軍は中央アジア全体にも安全と安定をもたらし、テロなどの脅威に大いに貢献してきた」と強調していました。

ただ、ロシアは、軍や治安機関の要員の多くを軍事侵攻を続けるウクライナに振り向けています。

また、侵攻が長期化する中で、これまで勢力圏とみなしてきた中央アジアでロシアの影響力が弱まっているとも指摘されています。