モスクワ テロ事件133人死亡 けが人含め死傷者は285人に

ロシアの首都モスクワ郊外のコンサートホールで起きたテロ事件では、当局は133人が死亡し、けが人を含め死傷者は285人になったと発表しました。
プーチン大統領は24日を追悼の日にするとして、テロに対し、国民に結束を呼びかけています。
プーチン大統領は、実行犯らについて、ウクライナ側による協力の可能性を示唆しています。これに対し、ゼレンスキー大統領は関与を否定し、ロシア側が軍事侵攻を強化する口実としないか警戒を強めています。

ロシアのコンサートホールで銃撃 133人死亡

ロシアの首都モスクワの北西にあるクラスノゴルスク市のコンサートホールで、22日夜、建物に侵入した複数の人物が銃撃を行って、火災が発生し、ロシアの連邦捜査委員会は、133人が死亡したと発表しました。

非常事態省は、死亡した133人のうち3人は子どもだったとしたほか、152人がけがをしたとして、死傷者は285人になったとしています。

ロシアの当局は実行犯とみられる4人を含め11人の容疑者を拘束したと発表し、プーチン大統領は、国営テレビでのビデオ演説で「野蛮なテロ攻撃だ」と激しく非難したうえで、24日を追悼の日にすると明らかにしました。

モスクワ市内では24日、犠牲者をいたみ、ろうそくがともされた映像が流されたり、ロシアの国旗が半旗で掲げられたりするなど追悼の動きが広がっています。

また、事件のあと、各地では、演奏会などのイベントが中止され、モスクワのボリショイ劇場なども休館となり、警備が強化されています。

モスクワ市民 テロに対する憤りの声

30代の女性は「ことばにしがたいが、犠牲者に哀悼の意を表したい。われわれの国で二度とこのようなことが起きて欲しくない」と話していました。

20代の女性は「間違いなく将来にも大きな爪痕を残すだろう。多くの人が忘れているだけで、モスクワでもすでに戦争が起きているのかもしれない」と述べ、ロシアがウクライナ侵攻を続ける中で、起きた事件に衝撃を受けていました。

一方、50代の女性は「つらいし、とても怖かったが、怖がらずに生活していこうと思う。監視カメラもあるし、検問も行われているのになぜ、このようなことが起きてしまったのか疑問だ」と話し、ロシアの警備態勢への疑問も口にしていました。

また、別の男性は「われわれは、イスラム過激派、ウクライナの過激派、そして欧米と向き合っていて、決して気を緩めてはならないということだろう。クリミアでも橋が攻撃され、テロが続いていて、モスクワでのテロが最後となることを願っている。そのためには敵を壊滅しなければならない」と話し、ロシアを守るためにはウクライナ侵攻を続けるべきだと主張していました。

銃撃から逃走まで 約18分間

アメリカのシンクタンク「戦争研究所」などによりますとロシアの首都モスクワ郊外のコンサートホールで起きたテロ事件で、実行犯が銃撃を始めて現場から逃走するまでの時間はおよそ18分間だったということです。

実行犯たちはまず、現地時間の午後7時55分に「クロクス・シティー・ホール」に到着し、人々に向けて発砲を始めました。

現場の映像には、コンサートホールの入り口の外で、複数の人物が銃を乱射する様子がとらえられています。

そして、午後8時3分までにはコンサートホール内に侵入して銃撃を行い、その10分後の午後8時13分には現場から車で逃走したということです。

実行犯たちは爆発物と可燃性の液体を利用して建物に放火し、犠牲になった人の中には閉じ込められ、充満した煙で中毒状態に陥った人もいたということです。

さらに、火災により屋根の一部が崩壊しました。

コンサートホールは6000人以上を収容でき、当日はロシアのロックバンドの公演が予定されていました。

バンドのSNSによりますとチケットは完売で、午後8時に開演する予定だったということです。

バンドのメンバーは無事だったとしています。

アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズは、このバンドについて、旧ソビエト時代から40年以上にわたって活動し、ロシアで最も人気のあるバンドの1つだとした上で「政治的なメッセージを発信するグループではない」などとする専門家の意見を伝えています。

ウクライナ関与示唆”偽の動画” ロシアが放送

ロシアの複数の独立系メディアは23日、ウクライナ政府高官が今回のテロ事件への関与を示唆する発言をしているような偽の動画をロシアのテレビ局、NTVが放送したと伝えました。

放送された偽の動画はウクライナの国家安全保障・国防会議のダニロフ書記がテロ事件を受けてウクライナのテレビ局のニュース番組に出演した際に発言したものだとしています。

この動画についてウクライナ政府の「偽情報対策センター」は、今月16日にウクライナで放送されたニュース番組の一部が加工されたものだとしています。

具体的にはインタビューを受ける出演者の映像をダニロフ氏に差し替えたうえで、発言の音声も加工されていて「冒頭から人工的で、ディープフェイクの質は非常に低い」と指摘し、「ウクライナがテロに関与したと信じ込ませようとしたものだ」としています。

また、この動画についてウクライナメディアは、テロ事件が起きた22日にウクライナのテレビ局で放送されたニュース番組では動画とは別の人物が出演していたと指摘し、「ロシアはテロ事件をウクライナに責任転嫁しようとしている」と批判しています。

プーチン大統領 ウクライナ側の協力の可能性示唆

この事件を受けて、プーチン大統領は23日午後、国営テレビでビデオ演説し「野蛮なテロ攻撃だ」と激しく非難して、24日を追悼の日にすると明らかにしました。

また、実行犯とみられる4人を含めて11人の容疑者を拘束したとした上で「われわれは事件に関与した全員を特定し、処罰する」と強調しました。

そして「彼らはウクライナに向けて移動した。ウクライナ側には国境を越えるための窓口が用意されていた」と述べ、ウクライナ側による協力の可能性を示唆しました。

ゼレンスキー大統領は関与を否定「プーチン いつも同じ方法」

ウクライナのゼレンスキー大統領は23日、SNSのテレグラムに動画を投稿し「プーチンやそのまわりの連中は誰かのせいにしようとしているだけだ。彼らはいつも同じ方法を使う。ウクライナでもわれわれの都市を焼き払い、それをウクライナのせいにしようとしている」と非難するとともにウクライナ側の関与を否定しました。

そして「彼らは何十万人ものテロリストをウクライナに送り込んで戦わせているのに、自分の国内で起きることは気にしない。プーチンは事件のあとロシア国民に向き合う代わりに1日沈黙し、どうやってウクライナになすりつけるか考えていた。すべては完全に予測可能なことだ」と指摘しました。

その上で「テロリストは必ず負けなければならない。テロと戦っているすべてのウクライナ国民に感謝する」と述べました。

「アマーク通信」 実行犯だとする4人の写真公表

過激派組織IS=イスラミックステートとつながりのある「アマーク通信」は、今回のテロ事件がISの戦闘員による犯行だと認め、実行犯だとする4人の写真も公開しました。

またロシア内務省の報道官は、拘束された実行犯とみられる4人の容疑者全員がロシア国籍ではないと明らかにしたうえで、事件の背後関係などを調べているとしています。

4人はいずれも帽子をかぶり、覆面をしているうえ、写真にはぼかしが入っていて表情などを確認することはできませんが、「ロシア人キリスト教徒への攻撃を行った実行犯」と説明しています。

また、別の写真とともに掲載された記事では「情報筋によると首都モスクワ郊外のクラスノゴルスク市でキリスト教徒の群衆に対するIS戦闘員による組織的な攻撃が行われた」としたうえで、「攻撃は武装した4人のIS戦闘員によって実行され、3人が群衆に向けて発砲し、別の1人が火をつけた。攻撃によって少なくとも300人のキリスト教徒が死傷した。攻撃は、ISとイスラム教徒と戦う国との間で激化する戦争を背景に起きたものだと情報筋から確認した」などとしています。

米 ホワイトハウス IS単独による犯行の見方示す

アメリカ・ホワイトハウスのNSC=国家安全保障会議のワトソン報道官は23日、声明を発表し「攻撃はIS=イスラミックステートに唯一の責任がある。ウクライナによるいかなる関与もない」としてIS単独による犯行だとの見方を示しました。

また、ホワイトハウスのジャンピエール報道官は声明で「ISは世界中で打倒しなければならない共通の敵だ」としています。

【解説】プーチン大統領の発言の狙いは?今後どう動く?

(モスクワ支局・野田順子支局長)

Q.プーチン大統領がテロの実行犯とウクライナに関係があるかのように発言した狙いは何でしょうか?

A.ロシアとしては市民が犠牲になったテロとウクライナを結びつけ、国際社会の厳しい目をウクライナに向けさせるとともにロシアの立場を少しでも良くしたいという思惑があると見られます。

ロシアの国営メディアでは、今回のテロ事件をウクライナ側の仕業とする報道が目立ちます。

国民に向けて、今回のテロ事件を口実にウクライナ侵攻を継続する必要性を強調し、結束を促すねらいもあると見られます。

Q.ロシアはウクライナ侵攻と同時に、国内のテロへの対応も必要になりました。
今後のロシアの行動、どうなると見ていますか?

A.ウクライナに対し報復と称してさらに激しい攻撃に出る可能性もあります。

また、ロシア国内では、このテロ事件のあと、有力な政治家の間で1996年以降、執行を停止している死刑を復活させようという議論が活発になっています。

プーチン政権はウクライナ侵攻を続ける中で、国内の言論統制を強め、政権の意向に沿わない個人や団体の活動を抑え込んできました。

今後、テロ対策を理由にさらに統制を強める可能性もあります。