被災地の小中学生 心のケア面談にのべ600人余 不調訴える声も

能登半島地震の被災地の学校に派遣されたスクールカウンセラーが面談した小中学生はのべ600人余りに上り、中には「眠れない」などと不調を訴える声もあるとして、子どもたち自身が対処法を学ぶ取り組みが始まっています。

「不安で眠れない」などの声相次ぐ 教員ものべ60人近く面談

文部科学省は、能登半島地震で被災した子どもたちの心のケアのため、石川県珠洲市や輪島市、能登町にスクールカウンセラーをこれまでに22の道府県からのべ65人派遣しています。

とりまとめている日本臨床心理士会によりますと、派遣を始めた1月26日から3月4日までの1か月余りで、学校からの要望を受けて面談した小学生はのべ482人、中学生はのべ182人で、あわせてのべ664人に上っています。

面談の中では「不安で眠れない」とか「頭が痛くなる」、「授業に集中ができず落ち着かない」などと不調を訴える声も相次いでいるということです。

教員についてものべ59人と面談していて、「授業や子どもへの対応が十分できずストレスを抱えている」とか「今後の学校や生活の見通しが不透明で不安だ」といった声が聞かれるほか、避難所が併設された学校では教育と生活の場が混在していることによる疲れが顕著だとしています。

スクールカウンセラーは個別にカウンセリングを行ってきましたが、2か月がたち自分でも心をケアしていくことが大切な時期だとして、3月から悩みなどへの対処法を学ぶ授業を始めていて、支援を進めることにしています。

子どもたちが悩みや不安の対処法を学ぶ授業も

不調を訴える声も出ている中、被災地では子どもたちが悩みや不安な気持ちへの対処法を学ぶ授業も進められています。

このうち、石川県珠洲市の三崎中学校には兵庫県から派遣されたスクールカウンセラー2人が訪問し、まず養護教諭から現状を聞き取りました。

養護教諭によりますと、生徒からは「不安で眠れない」とか「頭が痛い」「お腹が痛い」と不調を訴える声があるといい、「授業中もぼんやりしている生徒がいる」などと説明していました。

これを踏まえ、スクールカウンセラーが1年生から3年生の15人に心のケアに関する授業を行い、生徒たちが今の心と体の状況を「怒りっぽい」「眠れない」など6項目のチェックシートで確認しました。

中には、「週3日から5日」の頻度で「勉強に集中できない」と答える生徒もいました。

その上で、眠れないときの対処法を話し合い、生徒からは「音楽を聞く」「好きなことを思い出す」といった意見が出されました。

スクールカウンセラーは、
▽肩を上げたあと一気に力を抜くなど体をリラックスさせる方法や、
▽頑張るときと休むときの切り替えを意識するといった対処法も説明していました。

3年生の女子生徒
「自分の家に住めず、眠れないときや集中できないときがありましたが、高校に行ったら自分の心と向き合いながら落ち着いて頑張りたいです」

別の3年生の女子生徒
「今後について不安になったり眠れなくなったりします。今まではマイナスに考えていたので、どう改善するかプラスに考えることが大事だとわかりました」

養護教諭の小坂眞子さん
「学校を再開したころに比べ睡眠は改善傾向に見えますが、集中力はあまり改善がみられず心配していました。生徒からは『1人でゆっくりする空間が欲しい』という声も聞かれ、災害時の子どもの心はすごく変化していて、どうケアをしていくか迷う部分も多いですが、サポートを受けながら継続して健康チェックや声かけをしていきたい」

東日本大震災では子どもの14%にPTSD疑われる症状

東日本大震災では、翌年の2012年の調査で、被災地の子どもの14%にPTSD=心的外傷後ストレス障害が疑われる症状がみられました。

文部科学省は、東日本大震災の翌年に被災地の小中学生や高校生などの心や体の状況について、保護者や教員、スクールカウンセラーを対象にアンケート調査を実施しました。

この中で、
▽「物音に敏感になり、イライラするようになった」や
▽「災害を思い出す話題やニュースになると話題を変えたり、立ち去ろうとする」など、PTSDが疑われる症状として4項目を挙げて保護者に聞いたところ、1つでも該当する子どもの割合は14%に上りました。

このほか、
▽「よく甘えるようになった」とか、
▽「以前は1人で出来たことができなくなった」といった、PTSDに関連する症状も12%の子どもにみられ、子どもの心のケアが大きな課題となりました。

スクールカウンセラー「対処法伝え 長期支援が必要」

東日本大震災などでも活動し、能登半島地震の被災地でも活動しているスクールカウンセラーで、兵庫教育大学の冨永良喜名誉教授は、「個別面談をしてきたが、家族や友達と離ればなれになっている寂しさや、日常が戻らない不安から夜に眠れないとか集中できないといった声が聞かれる」と話しています。

その上で、「子どもたちは一見、平静に戻ったように見えるかもしれないが、つらいことを思い出すものに触れた時に、心臓がバクバクして『もういい』となる子もいる。避けることでコントロールすることには相応のリスクもあるので、これから先、長期の支援が必要になる。日々の生活の中でつらいことを思い出した時にどう対処するかをしっかり身につけていくことがポイントになる」と指摘しています。