アカデミー賞 「オッペンハイマー」が作品賞など7部門を受賞

アメリカ映画界で最高の栄誉とされるアカデミー賞が発表され、最多の13部門の候補となり注目された、原爆の開発を指揮した学者を題材にした「オッペンハイマー」は作品賞や監督賞など7部門を受賞しました。

「オッペンハイマー」は、「インターステラー」や「インセプション」などの人気作を手がけてきたクリストファー・ノーラン監督の作品です。

この映画は第二次世界大戦中のアメリカで原子爆弾の開発計画、いわゆる「マンハッタン計画」を指揮した理論物理学者のロバート・オッペンハイマーが題材です。

映画では人類初の核実験を成功に導いたオッペンハイマーが広島と長崎への原爆投下とその惨状を知り、原爆を開発したことについて苦悩を深めていく様子を描いています。

この映画は英国アカデミー賞で作品賞や監督賞などあわせて最多の7部門で受賞したほか、ゴールデングローブ賞で作品賞のドラマ部門をはじめ監督賞、作曲賞などあわせて5部門で受賞するなど高く評価されています。

監督「核の脅威に対する答えが絶望であってはいけない」

最も注目される作品賞や監督賞など7部門を受賞した「オッペンハイマー」を手がけたクリストファー・ノーラン監督は受賞後の記者会見でこの作品が若者に問いかけるメッセ-ジについて聞かれると、この映画の製作に取りかかったころに10代の息子と作品について話したエピソードを紹介し、「息子は、『若者は核兵器についてあまり心配していない』と話していた。核兵器は彼らが一番恐れているものではなかった。この作品を多くの人に見てもらうことで核兵器に対する認識を広げるのに役立てば」と述べました。

そして「この作品は私が必要だと考えた、絶望の形で終わっているが、現実の世界では核の脅威に対する答えが絶望であってはいけない」とした上で、1967年以降、世界の核兵器の数が大幅に減ったことに触れ、「この数年で、核不拡散の動きも間違った方向に向かっている。現実では、絶望するのではなく地球上の核兵器の数を減らし、世界をより安全にするために政治家や指導者に働きかけている団体への支援や支持が重要になってくる」と述べて核軍縮や核不拡散に取り組む必要性を訴えました。

ICAN 川崎氏「原爆や核兵器 考えるきっかけに」

原爆の開発を指揮した学者を題材にした「オッペンハイマー」が作品賞や監督賞など7部門を受賞したことについて、ICAN=核兵器廃絶国際キャンペーンの川崎哲国際運営委員は「世界で核の脅威が高まり、本当に核兵器がまた使われるかもしれないという時代になってきている中で、そもそも原爆とは何なのか、核兵器というのはどういうものなのか考えるきっかけを世界中の人たちに与えてくれる、貴重な機会になると思う」と評価しました。

また、作品の中で日本側の視点が描かれていないという意見があることについて「日本人の中には原爆投下後の広島や長崎の惨状が描かれていないことについて違和感を持つ方もいるかもしれないが、それも作品の一つの在り方であり、私たちは原爆について全く違う視点があるということを学ぶとともに、映画をきっかけに核兵器や原爆を考えるようになった世界の人たちに、映画で描かれなかった広島や長崎のことを伝えていく必要があると思う」と話していました。

さらに、今回のアカデミー賞では戦争と平和の問題を扱った作品の受賞が目立ったことを踏まえ「国家が間違った形で権力を使うことに対して、一人ひとりが声を挙げることが必要で、国家が正しいというから戦争をしてもいいんだということではないという考えが広まってきているのではないか」と指摘しました。