自転車 “青切符” 悪質違反に反則金 道交法改正案を閣議決定

「自転車はルールを守らなかったり、ちょっと油断したりすると、凶器になってしまう」

自転車の事故で、36年連れ添った夫を亡くした女性のことばです。

自転車の悪質な交通違反が後を絶たないなか、政府は反則金を課す、いわゆる「青切符」による取締りの導入を盛り込んだ道路交通法の改正案を閣議決定しました。

自転車の悪質な交通違反に反則金

警察庁によりますと、自転車が関係する交通事故はおととし、全国でおよそ7万件と増加傾向が続いているほか、死亡や重傷事故のうち、およそ4分の3で自転車側に違反行為が確認されています。

こうした状況を受けて、政府は自転車の悪質な交通違反に対し、車やオートバイと同じように反則金を課す、いわゆる「青切符」による取締りの導入を盛り込んだ道路交通法の改正案を閣議決定しました。

▽信号無視や▽一時不停止、▽携帯電話を使用しながらの運転など、重大な事故につながるおそれのある違反を重点的に取り締まることになるほか、改正案には▽携帯電話を使用しながらの運転や▽罰則の対象外だった自転車での酒気帯び運転を禁止して罰則を設けること、▽「モペット」などと呼ばれる、電動モーターやエンジンで走行できる二輪車について、ペダルをこいで運転するモードにしても原付バイクやオートバイに該当すると明確化することなどが盛り込まれました。

政府はいまの通常国会での成立を目指すことにしていて、成立すれば自転車の取締りが大きく変わることになります。

自転車事故の遺族「ルールを守らないと凶器に」

自転車の事故で夫(62)を亡くした女性がNHKの取材に応じました。

事故は6年前の2018年に茨城県内で起きました。

帰宅途中だった夫は、午後8時45分ごろ、最寄りのバス停で降りて歩行者と自転車に通行区分が分かれている歩道を歩いていたときに、前から走ってきた自転車と衝突しました。

自転車を運転していたのは当時19歳だった大学生で、ライトが点灯しない状態でイヤホンで音楽を聴き、スマートフォンを見ながら運転していたため、女性の夫に気付かずにぶつかったということです。

亡くなった夫の携帯電話には、職場を出たあと、いつものように帰宅時間を知らせるために送った「20時50分頃に家に着く」と書かれたメールが残っています。

女性は、夫がその時刻を過ぎても帰宅しなかったため、「どうしましたか?」と心配するメールを送ったり電話をかけたりしましたがつながらず、その後、病院から連絡が来て駆けつけましたが、翌日亡くなったということです。

「自転車との事故だったと聞いて最初は『車じゃなくてよかった』と思いました。自転車事故で亡くなる人がいるのは聞いたことはありましたが、まさかそうなってしまうとは思っていませんでした。

夫は温厚で達観している人でした。36年連れ添いましたが、愚痴を聞いたことは1回もなく、いつも私の愚痴を聞いてくれました。料理も作ってくれたし、散歩も映画も一緒に行って、夜遅くまでよくおしゃべりしていたので、いなくなって今でもとても寂しいです。

自転車は幼児からお年寄りまで運転免許なしで乗れる身近な移動手段ですが、ルールを守らなかったり、ちょっと油断したりすると、凶器になってしまうことをわかってほしい。きのうと同じような人生を歩んでいる人が突然、歩めなくなってしまう。その家族もつらいし、事故を起こした加害者も悔やんでも悔やみきれないと思うので、ルールを守って、楽しく安全に利用してもらいたい」

事故を起こした男性「関わった全ての人を不幸な目に」

この事故を起こした当時19歳の大学生だった男性がNHKの取材に書面で応じました。

男性によりますと、当日はアルバイトに向かうために急いで自転車を運転していて、ライトは壊れていたため無灯火だったということです。

そして、時間の確認などのため、スマートフォンを見ながら運転していたところ、ぶつかってしまったとしています。

男性は重過失致死の疑いで書類送検され、その後、保護観察処分になりました。

男性は今回の事故について、自身の違反行為が事故につながったと認めたうえで、自転車の利用者に対して伝えたいことを記しました。

「自転車のルールを軽いものと思ってはいませんでしたが、ここまでのことが起こることは自分にはありえないとも思っていました。自転車にはその後、乗れておりません。
自転車という乗り物を軽く捉えてる人はたくさんいると思いますが、車と同じくらい、いや、車より危険なものだと思います。車には自動運転だったり、事故を防ぐオプションがついているのに対して自転車はありません。自分の操作で決まります。軽い行動が後にものすごい大きなことになる。自転車事故は自分、相手、関わった全ての人を不幸な目にあわせてしまいます。それほど恐ろしいものだと感じました」

自転車関係する死亡・重傷事故 7割超で自転車側に交通違反

「青切符」による反則金制度を導入する背景には、自転車が関係する事故が増加するなかで、実効性のある取締りを行う必要があったためです。

警察庁によりますと、全国の交通事故の発生件数は毎年減少している一方で、自転車が関係する事故はおととし、6万9985件と2年連続で増加しました。

この中で、死亡や重傷事故になった7107件のうち73.2%にあたる5201件で自転車側に前方不注意や信号無視、一時不停止といった交通違反が確認されたということです。

現在、自転車の取締りの多くは、罰則を伴わない専用のカードを使った「警告」でおととしは全国でおよそ131万件に上りました。

一方、悪質な違反には交通切符、いわゆる「赤切符」が交付され、刑事罰の対象として検察庁に送られることになっています。

おととし、全国で「赤切符」などで検挙されたのは2万4000件余りでしたが、違反者の多くは起訴されず、罰則が適用されるケースは少ないのが実態でした。

「青切符」対象は

「青切符」での取締りが適用されるのは16歳以上の利用者です。

最低限の交通ルールを知っていると考えられることや、原付き免許などを取得できる年齢であること、そして、電動キックボードを運転できる年齢であることなどが考慮されました。

また、対象となるのは112の違反行為で、このうち重大な事故につながるおそれのある違反を重点的に取り締まるとしています。

具体的には、
▽信号無視
▽例外的に歩道を通行できる場合でも徐行などをしないこと
▽一時不停止
▽携帯電話を使用しながら運転すること
▽右側通行などの通行区分違反
▽自転車の通行が禁止されている場所を通ること
▽遮断機が下りている踏切に立ち入ること
▽ブレーキが利かない自転車に乗ること
▽傘を差したりイヤホンを付けたりしながら運転するなど、
都道府県の公安委員会で定められた順守事項に違反する行為です。

特に悪質な違反は従来どおり「赤切符」

酒酔い運転や酒気帯び運転、携帯電話を使用しながら事故につながるような危険な運転をした場合などは、これまでどおり「赤切符」が交付され、刑事罰の対象となります。

反則金は5000円から1万2000円程度に

取締りは、通勤通学や、日没の前後1時間ほどの薄暮時に、自転車の利用が多い駅周辺や過去に事故が発生した場所などで重点的に行われることが想定されています。

警察官の警告に従わずに違反行為を続けた場合や、事故につながりかねない交通の危険を生じさせた場合に「青切符」を交付し、取締りを行うことになります。

反則金は今後、政令で決まりますが、5000円から1万2000円程度になるとみられています。

今回の道路交通法の改正案が成立すれば、「青切符」による反則金制度は、公布から2年以内に施行されます。

専門家「最低限のルール守ること心がけて」

自転車に関わる政策の調査・提言などをしているNPO法人「自転車活用推進研究会」の理事長で、警察庁の有識者検討会で委員を務めた小林成基さんは「青切符」による取締りの導入について、次のように指摘しました。

NPO法人「自転車活用推進研究会」小林成基 理事長
「最初から犯罪として取り締まるのではなく、軽微な違反をどうやって減らしていくか、どうやって安全に自転車と車と歩行者が通行できるかということを主眼に考えているので、ルールが厳しくなると思うのではなく、最低限のルールを守ることを心がけてほしい。
歩行者をちゃんと守る、そのために自転車もルールを守る、車も自転車を意識して自転車を危ない目に遭わせないというのが大原則なので、制度、法律、警察のキャンペーン、民間の呼びかけがその方向に向かうことが今後、重要になると思う」