遮断機が下りないトラブル 昨年度までの5年間で少なくとも48件

列車が踏切に近づいても遮断機が下りないトラブルが各地で起きていて、鉄道会社が、運輸局に届け出た件数は昨年度までの5年間で少なくとも48件に上ることがNHKが行った情報公開請求でわかりました。専門家は「大きな事故につながる可能性があり対策を講じなければ、今後増えるおそれもある」と指摘しています。

去年4月、高松市にあることでん=高松琴平電気鉄道の踏切で遮断機が下りないトラブルがありました。

接近してきた列車は急ブレーキをかけ踏切内で停車しましたが、けが人はありませんでした。

さらに「ことでん」の別の踏切でも去年の7月と8月に遮断機が下りないトラブルがそれぞれ発生し遮断機内の電子部品の老朽化や装置の不具合などが原因だったことがわかっています。

NHKは遮断機が下りないトラブルが全国でどの程度起きているのかを確認するため国土交通省に情報公開請求を行いました。

鉄道会社は事故やトラブルが起きた場合には国の省令に基づき運輸局に届け出ることが義務づけられているため公開された情報を独自に集計・分析しました。

それによりますと昨年度までの5年間に届け出がされたのは少なくとも24の都道府県で48件に上ることがわかりました。

このうち、およそ8割にあたる39件では、接近してきた列車が遮断機が下りていない踏切をそのまま通過したり踏切内に進入したりしていました。

中には列車が踏切内にいた自動車と衝突して1人がけがをしたケースや、自動車が横断していることに列車の運転士が気付き、手前で急ブレーキをかけたというケースもありました。

また、原因については「機器の不具合」が16件、「レールのさびや部品の破損などで列車の接近を検知できず」が9件、「人為的なミス」が9件などでした。

鉄道工学が専門の日本大学の綱島均教授は、「大きな事故につながる可能性が十分にあったことが今回の調査からうかがえる。背景には、経営が厳しく設備が老朽化していたり、点検に十分な人手をかけられなかったりするなど、多くの地方鉄道に共通する事情があるとみられ、対策を講じなければ、今後増えるおそれもある」と指摘しています。

国交省「無視できない件数」

国土交通省は「遮断機が下りない事象は、事故に至る可能性があるため、とても無視することはできない件数だという認識だ」とした上で、「トラブルの背景にはさまざまな原因があり防止のための対策は簡単なものではない。施設の更新のための支援を行っているので鉄道事業者には安全維持に努めてほしい」とコメントしています。

遮断機下りない原因

48件の原因についてNHKが独自に集計・分析しました。

【踏切関連の機器の不具合…16件】
遮断機を動かすための機器が故障したり、動作不良があったことなどが分かるケースは16件ありました。

この中には、機器の劣化が原因としてあげられているものもあったほか、落雷によって機器に不具合が生じたとみられるものもありました。

【人為的なミス…9件】
また、点検作業を終えたあと電源スイッチを入れ忘れたり、部品交換を行ったあと設定を誤るなど、人為的なミスによるものは9件でした。

【検知できず…9件】
一般的に遮断機は、踏切に列車が近づいてきたことをレールで検知してから下りる仕組みとなっていますが、列車の位置を検知することができなかったケースは9件ありました。

検知できなかった理由として、レールにさびができたり、付着した葉が車輪で踏み固められたりしたケースがあったほか、暑さでレールが膨張したことで部品が破損したケースもありました。

【その他…8件】
遮断機がケーブルに引っ掛かって下りないなどの「その他」が8件でした。

【不明】
また、「不明」は6件でした。

専門家「増える可能性」

今回の調査結果について、鉄道工学が専門の日本大学の綱島均教授に聞きました。

5年間で少なくとも48件に上ることについて綱島教授は、「かなりの頻度で発生しているといえると思う。遮断機が上がっていれば、踏切に車や人が進入してもおかしくなく、大きな事故につながる可能性が十分にあったことがうかがえる」と指摘します。

その上で綱島教授は、「ほとんどの地方鉄道は経営が厳しく、十分な設備投資をすることが難しくなっている可能性が非常に高い。このため使っている設備をできるだけ長く使おうとするのは自然な流れだが、限度を超えると遮断機が下りないなど危険なトラブルにつながりかねない」としたうえで、「トラブル防止のための対策を各社で個別に考えるのでなく、複数の会社で共有するような観点も必要になるのではないか」と述べました。

トラブル発生の原因について、「人為的なミス」が9件あったことについて綱島教授は「熟練の技術者が少なくなっていたり、人手不足で保守・点検に関する十分な教育ができていない可能性もある」と指摘しています。

そのうえで綱島教授は「設備の老朽化や人手不足の影響に加え、温暖化による気候の変化もあるので、抜本的な対策をとらなければこうしたトラブルの件数が増えるおそれもある。不具合を減らしていくための対策を急ぐべきだ」と警鐘を鳴らしています。

“下りたまま”の遮断機も

踏切のトラブルの中には遮断機が下りないケースだけでなく、列車が接近していないのに遮断機が下りてしまったり、下りたまま上がらなかったりしたとみられるケースもありました。

こうしたトラブルは昨年度までの5年間に全国で少なくとも21件ありました。

原因としては、ケーブルを草刈り機で誤って切断したとみられるケースや、設備の老朽化、異常気象でレールが伸び、部品が故障したケースなどがありました。