元横綱 白鵬の宮城野親方「2階級降格」「報酬減額」の懲戒処分

大相撲の元横綱・白鵬の宮城野親方が弟子の暴力問題で、日本相撲協会から最下位の年寄への「2階級降格」と「報酬減額」の懲戒処分を受けました。また、師匠としての素養や自覚が大きく欠如しているとして宮城野部屋については、来月の春場所は、所属する伊勢ヶ濱一門の中で任命された師匠代行が監督することになりました。

日本相撲協会によりますと先月、公式のSNSに宮城野部屋に所属する幕内力士の北青鵬が、同じ部屋の力士に暴行を繰り返していると投稿が寄せられました。

そして、その後の調査で北青鵬は2人の後輩力士に対し、顔面に平手打ちをしたことやほうきの柄で尻をたたくなどの暴行を行っていたことを認めたということです。

また、師匠の宮城野親方については暴行を把握しながら協会のコンプライアンスの担当理事への報告を怠った上、協会の調査に部外者を関与させるなどして妨害したとしています。

23日、東京 両国の国技館で開かれた協会の臨時理事会では宮城野親方は監督責任などを問われて現在の委員から最下位の年寄への2階級降格と、報酬減額の懲戒処分を受けました。

さらに師匠としての素養や自覚が大きく欠如しているとして宮城野部屋については、来月の春場所は所属する伊勢ヶ濱一門の中で任命された師匠代行が監督することになりました。

さらに4月以降も伊勢ヶ濱一門が宮城野部屋を預かり宮城野親方に対し、師匠・親方としての指導と教育を行うことを検討することになりました。

また、北青鵬は引退届けを提出し、受理されましたが「引退勧告」相当の事案であったことが確認されました。

北青鵬 暴行の詳細と処分理由

コンプライアンス委員会の調査では、北青鵬がおととしの8月以降、週に2、3回の頻度で2人の力士に繰り返し暴行を加えたことなどが明らかになりました。

暴行の内容としては顔面や背中などに平手打ちしたり、ほうきの柄やまわしで作った丸太のような棒で尻をたたいたりしたほか、殺虫剤スプレーに火をつけて体へ近付けるなどしたということです。

そして「北青鵬の暴行は制裁という名目で行われ2人が痛がる反応を見て面白がっていたとも認められ、動機の面においても卑劣極まりない」と指摘しています。

さらに暴行を受けた後輩力士の被害感情が非常に強いことに加え、他の所属力士らの多くが、北青鵬に反省の態度が認められず、宮城野部屋に残ることになれば、暴行を繰り返すおそれがあり、部屋への復帰は受け入れられないという姿勢を示したということです。

北青鵬は調査に対して「深く反省し、二度と繰り返さない」と誓約するとともに、「許されるならば今後も相撲を取りたい」と希望したということですが、コンプライアンス委員会は「このような反省や誓約は遅きに失したというべきで、酌むべき事情とは言いがたく、相撲協会の協会員として残すという選択肢はないといわざるを得ない」と結論づけました。

その上で「懲戒解雇処分も検討すべき事案だが、いまだ22歳という年齢とその将来を考慮し、引退勧告の懲戒処分が相当と判断した」としています。

宮城野親方 処分理由

日本相撲協会では今回の問題について先月、コンプライアンス委員会に事実関係の調査と処分意見の答申を委嘱していて23日はその内容も合わせて発表されました。

それによりますと今回、宮城野親方には3種類の違反があったということです。

▽1つ目が、北青鵬に対する監督が不十分だったことで、2人の後輩力士に対する暴行などを防止できなかったとする「監督義務違反」。

▽2つ目が北青鵬の暴力行為などを知ったにも関わらず、速やかに協会のコンプライアンスの担当理事に報告しなかったなどとする「報告義務違反」です。

これについて委員会は「北青鵬に対する監督と協会への報告を怠った結果、被害者2人に対する常態化した暴力被害を生じさせた」と厳しく非難しています。

▽そして、3つ目は部屋の内部で行った聞き取り調査に参加させた部外者が所属する力士などに口止め工作を行い、事実認定をゆがめる危険を生じさせて相撲協会の調査を妨害したとする「調査協力義務違反」です。

これについては宮城野親方が口止め工作を意図的に指示したとは認められないまでも、聞き取り調査に部外者を同席させることなどを依頼したことに原因があったと判断しました。

さらに、宮城野親方が現役時代に3回の処分を受けていることも勘案し、「相撲協会の委員の職にとどまらせることは不適当であり、その責任は極めて重大であるから、降格および報酬減額の懲戒処分が相当と判断した」と結論づけています。

そして、協会は臨時理事会でこれらの調査結果と処分意見を踏まえて最終的な処分を決めました。

協会で広報部長を務める元横綱・大乃国の芝田山親方はコンプライアンス委員会の委員の一部から、宮城野親方については「相撲協会から排除するべきではないか」という厳しい意見が出たことを明かしたうえで「彼の残した足跡は大きなものがあるわけだから、それに負けないでしっかりと今後、頑張ってやってもらいたい」と話していました。

宮城野親方「弟子を守ることができなかった」

宮城野親方は、東京 墨田区の部屋の前で取材に応じ、「弟子を守ることができなかった責任を受け止めております。そして日本相撲協会や大相撲ファン、応援してくれている皆様に心配をおかけしたことを深く反省し、申し訳ない気持ちでいっぱいです」と述べ、深く頭を下げました。

また、宮城野親方とともに取材に応じた北青鵬は「部屋の弟弟子に暴力を振るってしまったことを深く反省しています。日本相撲協会、宮城野部屋、応援してくださったファンの皆様の期待を裏切ってしまい、本当に申し訳ございませんでした」と謝罪しました。

宮城野親方とは

元横綱・白鵬の宮城野親方は現役時代、史上最多となる45回の優勝を果たしたほか、通算1187勝、横綱在位はおよそ14年にわたる84場所といずれも史上最多を記録し、現役生活およそ20年で数々の記録を打ち立てて、3年前の秋場所後に引退しました。

引退後は間垣親方として宮城野部屋の部屋付きの親方として後進の指導に当たり、おととし7月に宮城野部屋を継承し、部屋の師匠として新たなスタートを切っていました。

師匠としてはこれまでに今回、引退勧告を受けた北青鵬や去年の名古屋場所で幕内で優勝争いに加わった伯桜鵬などを育ててきました。

北青鵬とは

北青鵬は札幌市出身の22歳。

モンゴル生まれで5歳の時に来日しました。

子どものころに今の師匠で元横綱・白鵬の宮城野親方に会ったことをきっかけに相撲を始め、高校卒業後に宮城野部屋に入門して令和2年の春場所で初土俵を踏みました。

身長2メートル4センチ、体重182キロの体格を生かした四つ相撲を持ち味に序ノ口から幕下までいずれも優勝して番付を上げ、初土俵から1年半で新十両に昇進しました。

右ひざのけがで休場した影響で一度、幕下に陥落しましたが再び、十両に返り咲き、4場所連続で勝ち越して去年の春場所で新入幕を果たしました。

また、昭和28年の秋場所の前に十両以上で身長などの公式計測が始まってから新入幕を果たした中では最も長身の力士に並びました。

長い手足を生かして相手の肩越しに右上手を取り、豪快に投げたり強引に寄り切ったりする相撲は「規格外」とも呼ばれ、去年の秋場所では、幕内では初のふた桁勝利となる10勝5敗の成績を収めました。

しかし、先月の初場所では序盤戦を2勝3敗で終えたあと、右ひざの半月板の損傷で手術をする予定とした上で4週間のリハビリを要するとする診断書を提出して6日目から休場していました。