朝ドラ「まれ」主題歌が能登半島地震の“復興のメロディー”に

あの日、大きな揺れで一変した、吹奏楽団の部室。指揮台の向こう側にいるはずの、生徒の姿はありません。

日常が全部なくなって、毎日が悪夢みたいだ

そう感じていたときに聴こえてきたのが、あの曲でした。

~ひとりぼっちのままで泣く夜が続いても~

ことし1月に発生した、能登半島地震。

石川県輪島市にある日本航空高校石川も被災し、校舎での授業や部活動もできなくなりました。

学校の吹奏楽団で音楽監督を務める藤井一弥さんは実家に帰省していたため、直接の被害を受けることはありませんでした。

しかし、およそ2週間後、校舎にようやく入ることができて目にしたのは、慣れ親しんだ部室が大きく変わってしまった姿でした。

藤井一弥さん
「楽譜を入れる重い棚が倒れてしまったり、天井の一部が剥がれ落ちていたり、地震のひどさを感じました。“日常が消えた”という感覚です。本当はここに生徒たちがいて、一緒に笑いながら楽器を吹いていたのに、と」

たった1人で壊れずに残った楽器を運び出す作業を続けましたが、この先どうなるのかという不安が襲い、心が折れそうになったと言います。

~風が強く冷たいほど教えてくれる 出会うべき人のことを~

高校では、現地で授業を再開することが難しかったことから、山梨県にある系列校で生徒たちの受け入れを始めることになりました。

輪島市の寮で暮らしていた藤井さんも、山梨に避難します。

そこで、地震のチャリティーコンサートへの参加を打診されました。

山梨県内の音楽家の有志らが、“少しでも現地の力になれれば”と、企画したものでした。

そのとき、藤井さんの頭に思い浮かんだのが「希空~まれぞら~」という1曲の歌です。

2015年にNHKで放送された、能登半島が舞台の連続テレビ小説「まれ」の主題歌。地元の人たちにもなじみのある曲で、以前から演奏したいと考えていた曲でした。

未来に向かって進もうと呼びかける歌詞に復興への思いを重ね、選曲したということです。

「希空~まれぞら~」
作詞:土屋太鳳 作曲:澤野弘之

さあ翔(か)け出そうよ、今すぐに 未来が今は遠くても

ひとりぼっちのままで泣く夜が続いても 本当のわたしへ

風が強く冷たいほど教えてくれる 出会うべき人のことを

どうか希望の地図を そっと開いてみてね
あたたかい未来たちが僕らを待っているよ

 
さあ旅にでよう、おそれずに 小さな一歩だとしても

出会うはずの場所が 出会うはずの人たちが あなたを待っている

藤井一弥さん
「とてもエネルギーのあるメロディーと、強いメッセージ性のある歌詞で、被災した方がまた立ち上がれるようなエールになったらと思い、この曲を選びました」

~どうか希望の地図を そっと開いてみて~

2020年撮影 輪島市にある「まれ」のオブジェ

ドラマで主演を務めた土屋太鳳さんが作詞したこの曲。

曲に思い入れのあるドラマの出演者も、現地へ思いをはせています。

今回、取材を申し込んだところ、出演者のひとり、中川翔子さんがコメントを寄せてくれました。

撮影で訪れた時の美しい景色
今でも心に鮮やかによみがえります

そのご縁で能登・輪島でコンサートも開催させて頂き 会場の皆様と「希空」を合唱できた事 一つになれたミラクル
人生のきらめく宝物な時間でした

つらい事の先の希望に想いをはせる 強く優しい歌声 忘れません

さらに、道路の復旧工事を行う国土交通省の金沢河川国道事務所がこの曲を「復興のメロディー」とSNSで紹介しました。

金沢市と能登半島を結ぶ「のと里山海道」では、一部の区間で、制限速度を守って走ると路面から音楽が聞こえる道路、通称「おとのみち」を、2015年に整備していました。

路面に浅い溝を刻み、その上を車が通過すると、タイヤとの接地音がメロディーになる仕組みで、ここで流れるのが「まれ」の主題歌です。

地震で大きな被害を受け復旧工事が進められていましたが、今月15日から緊急車両などに限って通行できるようになりました。

途中、う回路を設けているところや、舗装を整備し直したところもあり、メロディーは途切れ途切れだということですが、復興の一歩となる通行の再開に、SNSでも喜びの声が相次いでいました。

地震で被害を受ける前の「おとのみち」メロディー、聞こえますか?

~さあ旅に出よう、おそれずに 小さな一歩だとしても~

2月17日、日本航空高校石川の藤井一弥さんは、輪島市から避難した2人の部員とともに、チャリティーコンサートにのぞみました。

演奏と合唱がおわったあとは、大きな拍手が鳴り響き、終演後も「航空頑張れ」「能登頑張れ」と、大勢の人が声をかけてくれたそうです。

藤井さんは、演奏した部員たちに「きょうが、再始動の一歩目です」と伝えました。

日本航空高校石川 吹奏楽団 音楽監督 藤井一弥さん
「起きてしまったことは、変わらない事実だけれど、未来に向けて今をとにかく一生懸命に生きる、という気持ちで演奏しました。明るいニュースも聞こえるようにはなりましたが、その裏ではまだまだ悲しみの中にいる方もいるし、課題もある。どうか、能登の方々のことを忘れずに支援を継続してほしいし、私たちにとっても音楽を止めずに演奏をし続けることが、力になると感じました」

現地では、1日も早い復旧のため道路の工事などが進められています。

以前のように道路が通行できるのはまだ先になりますが「復興のメロディー」として、再び多くの人に曲が届く日がくることを願っています。

(取材 ネットワーク報道部 記者 石川由季/SNSリサーチ 三輪衣見子)