「店を再開していいのか」迷いの中、街の人の声に支えられ…

「復旧作業が続く中、再開していいのか迷いがあったんです…」

石川県穴水町で19日に営業を再開した、洋菓子店の店主のことばです。

でも街の人たちからは「お店続けられそう?」「またお菓子食べたいわ」「開いたら買いに行くね」との声が。

自分にもできることがある。

そう思って小学3年生の娘と一緒に考えたのが、このクッキーでした。

再開した店は10軒だけ

穴水商店街には倒壊した建物が残る

穴水町の中心部にある穴水商店街では、店舗の電気や水道は復旧したものの倒壊した建物が多く残っています。

道路の補修も、まだ終わっていません。

穴水商店振興会によりますと、地震の前、商店街では40軒の店舗が営業していたということですが、現在、営業している店は理髪店や飲食店などおよそ10軒だけだということです。

休業している店舗の店主は、自宅が倒壊して避難所で生活したり、金沢市などに避難したりしている人が多く、再建のめどはいずれもたっていないということです。

穴水商店振興会の吉村扶佐司会長は、被災後、経営する文具店を再開させました。

吉村扶佐司会長
「つぶれたお店の方で、地震の後どこ行ったんだろうという人もやっぱり中にはおいででですね。不安な状況が続いとるということですよね。本来なら、もう2か月近くになる時点で、商店主の人たちが集まってこれからどうするかという話をする時期にくると思うんです。でもなかなかそういう雰囲気にもなれない。そんな気持ちが起きてこない。お店が残っとっても、その裏側にある住宅の部分がかなり被害を受けておって、そんな気持ちになれないというのが今の気持ちじゃないかなと思うんです」

そのうえで、これからの商店街について、こう話しています。

「本当に、一歩なのか半歩なのかはわかりませんけども、まず店の中を片づけて、電気をつける。ドアを開ける。っていうことが、第一歩だと思います」

「再開してもいいのか」

こうした中、商店街の洋菓子店の店主の滝川若葉さんも、再開に迷いがあったと話しています。

滝川若葉さん
「やっぱりその、被災地でまだ復旧の作業が続いている中で、再開してもいいのかどうかってすごいすごい迷いはあったんです」

地震で屋根瓦が落ちるなどの被害を受け、一時休業していました。

「町の人たちとか会うたびに、やっぱ皆さん『大丈夫?』って言って『お店続けられそう?』って、『またお菓子食べたいわ』『開いたら買いに行くね』って言って何人にも声をかけられてとても力が湧きました」

「頑張って」って言って声をかけてくれた人の中に「復興クッキー作って」と言ってくれた人がいました。

「それなら自分もできるかもしれない」

そう思ったと言います。

「力を合わせて少しずつ」

お店は屋根の補修工事などが終わり、19日、営業を再開しました。

避難生活をしている人たちにも手軽に食べてもらおうと、商品は日持ちするクッキーやサブレなどの焼き菓子に絞りました。

特にこだわったのが、「がんばろう能登」と刻まれたクッキーです。

2つの笑顔と握られた手が印象的なハート型のデザインは、小学3年生の娘と一緒に考えたものです。

いまは手を取り合い協力することが大事だという思いが込められているということです。

このクッキーをレジの横の目立つ場所に置くと話を聞いた客が早速、買い求めていました。

「地震の影響で誕生日にケーキを食べることができなかったので、ぜひ作ってほしい」

休業中、滝川さんはなじみの客からそう声をかけられ再開を決めたということで、ケーキも予約制で販売します。

店をよく利用するという40代の女性は。

40代の女性
「本当に勇気が湧くというか、何もなくなってしまったらどうしようという気持ちがいつもあるので、本当にうれしいです」

滝川さん
「やっぱり甘いものって、必ず必要なものではないと思うんですけども、大事な人たちと一緒に過ごすためにほっとするアイテムとして、甘いものを食べる時間ってあったらとっても気持ちも優しくなれるのかなと思うので」

「少しずつ進んでいって、やっぱり皆さんに元気を与えるってより自分が元気をもらうほうが強いような気がするんです。お互いだと思うんですけども、そうやって力を合わせて少しずつ前に進んでいけたらいいなと思います」

穴水町では循環バスも再開

穴水町ではもう1つ、再開の動きがありました。

地震の前は町の中心部で100円の料金で利用できる循環バスを運行していました。

しかし地震で道路が被害を受け、運休。

それから1か月半あまり、町は道路の復旧にあわせて運行を再開させました。

走るルートは地震前とは異なり、避難所となっている公共施設と医療機関、駅など最小限のルートに変更、運賃は無料です。

「40~50分かけて歩いてました」

早速、最初の便に乗った70代の男性に話を聞きました。

「助かっております、本当に」

バスが運休していた間はどうしていたのかをたずねると。

「歩いて会社まで行っていました。仕事場で片づけもありますので、その用事に行っています」

男性は視力が弱く、車を運転することができないということです。

「会社まで距離がありますので、歩いて40~50分かかります。地震で道がでこぼこなもんだから、視力も弱いもんだから足元が悪いので気をつけて歩いています。40~50分かかっとったのが、バスだと4、5分で着くもんだから、本当にありがたいと思ってます」

「すごく小さな一歩かもしれないけれど」

運行は平日に1日3本の予定です。

のと鉄道の穴水駅では、午前8時半と正午、それに午後3時半に出発します。

けさの始発の便には70代の男性が早速乗り込み、職場近くのバス停まで利用していました。

一方、町ではこれまで運休していた中心部と郊外を結ぶバスについても、便数を週1回に減らした上で、きょうから無料で再開させました。

利用する際には、事前に町の社会福祉協議会に電話で予約が必要だということです。

穴水町観光交流課 牛谷政樹課長補佐
「まずは無事に走らせることができたことをホッとしております。1日も早く公共交通が通常どおりに走ることが復興につながると思います。きょうはすごく小さな一歩かもしれませんけれど、こういうことを積み重ねて、通常の生活に戻れるよう頑張っていきたいです」