「H3」ロケット2号機 打ち上げ成功 前回の失敗乗り越える

日本の新たな主力ロケット「H3」の2号機が17日午前、打ち上げに初めて成功しました。激しさを増す宇宙ビジネスをめぐる国際競争で今後の日本の宇宙開発を担う“切り札”として対抗していくことが期待されます。

「H3」の2号機は17日午前9時22分すぎ、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられました。

JAXA=宇宙航空研究開発機構によりますと、2号機は補助ロケットや1段目のエンジンを切り離しながら上昇を続け、午前9時40分ごろ、ロケットの2段目のエンジンの燃焼が停止し目標の軌道に到達したということです。

その後、搭載した2つの超小型衛星を切り離して軌道に投入したほか、アルミ製の模擬衛星の分離動作も確認するなど計画どおりに飛行し、打ち上げに初めて成功しました。

「H3」は去年3月に打ち上げた初号機では2段目のエンジンが着火せず打ち上げに失敗していて、JAXAなどはおよそ1年かけて対策を講じ、17日の打ち上げに臨んでいました。

「H3」は、現在運用されているH2Aに代わる新たな主力ロケットで、激しさを増す宇宙ビジネスをめぐる国際競争で今後の日本の宇宙開発を担う“切り札”として対抗していくことが期待されます。

JAXA会見 山川宏理事長 “こんなにうれしい日はない”

JAXAは午後0時半すぎから記者会見を開きました。

会見の冒頭でJAXAの山川宏理事長は「ロケットは計画どおりに飛行し機体を所定の軌道に投入し衛星を分離できたことを確認した」と発表したうえで「H3ロケット試験機1号機の打ち上げ失敗を受け原因究明に真摯(しんし)に向き合い、再発防止に向けて全力を挙げて取り組んできた。本日、打ち上げの結果を報告できたことに安どしている」と述べました。

また「宇宙業界に長らくいるがこんなにうれしい日はなく、こんなにほっとした日はない」としたうえで「H3プロジェクトのスタートから10年にわたって継続的に努力されてきた皆様に本当に感謝している」と述べました。

開発責任者「打ち上げは成功」

開発責任者のJAXA 岡田匡史プロジェクトマネージャは「お待たせしました。H3が産声をあげることができ、ものすごく重い肩の荷が下りた気がします」と笑みを浮かべながら述べました。

記者から今回の打ち上げについて採点すると何点になるかと問われると「満点です」と答えたうえで「H3はまだ打ち上げを2回経験しただけ。これからが勝負なのでしっかりと育てていきたい」と今後の抱負を述べました。

そして「いままで35年ぐらいロケットの仕事をしてきて、大きな節目になるタイミングで成功できてよかった」と話したうえで、次の世代に伝えたいこととして「ロケットの失敗はやってはいけないことです。ただ、失敗があるとエンジニアはものすごく強くなる。この1年で強くなったエンジニアにあとはよろしく頼むぞという思いです」と期待を込めていました。

また、今回の打ち上げが成功したのか問われ「成功しました。成功と失敗の境目は難しいですが、今回の結果からすると成功と報告できると思っています」と述べました。

岡田プロジェクトマネージャは17日夕方、NHKの取材に応じ「まずは『H3』を1人前の大人にしないといけない。いろんなバリエーションの衛星に対応させることなど、世の中がロケットに求めている姿に『H3』をあわせていく素地ができた段階だ」と述べました。

その上で「コストダウンもまだ道半ばだ。部品の調達などで効率化を図るとともに、作り続けることで習熟度を上げ、製造中の不具合を減らすなど全面的にコストダウンを図りたい。一方で、日本のロケットだからという信頼性や価値を売りにして打って出るのが攻め口だと思っている」と述べました。

専門家「ようやく国際競争の場に立つことができた」

宇宙政策に詳しい笹川平和財団の角南篤理事長は「欧米の民間企業に加えて中国、それに、インドの台頭で打ち上げをめぐる国際環境が厳しくなる中で、去年、初号機が失敗し、さらに1年遅れたという状況を考えると、本当に『待ったなし』の状態だったと思う。そういう意味ではようやく日本が国際競争の場に立つことができたという状況だ」と指摘しています。

その上で「去年の各国の打ち上げ実績を見ると、ほぼ半分がアメリカで、打ち上げのコスト面や柔軟性、より顧客のニーズに合ったサービスなど課題がたくさんあると思う。日本の宇宙開発はここ数年、失敗が相次ぎ、世界から大きく遅れてしまったという雰囲気があったが、今回の成功はわれわれが再び自信を持つ機会になった。日本が宇宙開発で世界をどうリードできるかもういちど見つめ直し、官民を挙げて宇宙産業を育てていくことが必要だ」と述べました。

岸田首相「長年にわたる努力に敬意」

岸田総理大臣は旧ツイッターの「X」に「本日、『H3』の2号機の打ち上げが成功した。無人探査機『SLIM』の月面着陸成功に続いて宇宙分野ですばらしい成果が得られたことは大変喜ばしい。関係者の長年にわたる努力に敬意を表し、今後もわが国の基幹ロケットが着実に実績を積み重ねることを期待する」と投稿しました。

宇宙政策を担当する高市科学技術担当大臣は談話を発表し「本日、『H3』の2号機の打ち上げが成功した。わが国の宇宙政策の最重要課題であるロケット打ち上げ能力の抜本的強化に向けた新たな一歩であり、大きな飛躍だ。今後は海外の打ち上げ需要も取り込んだ『H3』の活用がわが国の経済成長につながることも期待している」としています。

盛山文部科学大臣は、文部科学省のホームページで談話を発表し「すべての関係者が諦めることなく、難易度の高い技術にひたすら向き合い、本日の打ち上げまで着実かつ確実に10年にわたる日々を進めてこられたことに、心から敬意を表したいと思う。今後、H3ロケットが、技術を蓄積・成熟させ、わが国の宇宙基本計画の着実な実施に貢献するだけでなく、国内外の多様な打ち上げ需要を担う素晴らしいロケットとなることを期待している」としています。

SNSでは飛行機から撮影した動画が話題に

SNSでは、「H3」の2号機の打ち上げを飛行機の機内から撮影した動画が話題を集めています。

動画には、ロケットが雲を突き抜けて上昇し、青空に向かって飛んでいく様子が映っています。

撮影した20代の女性は、17日朝8時すぎに伊丹空港を出発し、那覇空港へ向かう飛行機に搭乗しました。

飛行中の午前9時20分すぎに機内で「H3ロケットが打ち上げられる」というアナウンスがあったあと、左側の窓からロケットが見えたということです。

ほかの乗客からも歓声があがっていたということで「初めてロケットの打ち上げを見ることができました。すごかったです」と話していました。

17日 9:40ごろ

開発責任者ら 抱き合って喜ぶ

JAXAが公開した中継映像では発射場の総合司令棟にいる開発責任者、岡田匡史プロジェクトマネージャなどエンジニアたちが抱き合って喜ぶ様子が見られました。

17日 9:40ごろ

プレスセンターでもJAXA職員ら涙流す

「H3」の2号機の機体が計画どおり飛行し、初号機では着火しなかった2段目のエンジンの燃焼が停止したことが確認されて目標の軌道に到達したことがわかると、鹿児島県の種子島宇宙センターにあるプレスセンターではJAXAの職員らが目に涙を浮かべながら喜ぶ様子が見られました。

17日 9:40ごろ

JAXA「機体が計画どおり目標の軌道に到達した」

JAXAは17日午前9時40分ごろ、「ロケットの2段目のエンジンの燃焼が停止したことを確認した」と発表し、機体が計画どおり飛行し目標の軌道に到達したと明らかにしました。

17日 9:22

種子島宇宙センターから打ち上げ

日本の新たな主力ロケット「H3」の2号機が17日午前9時22分すぎ、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられました。

17日 9:12

最終判断の結果「GO」

新型ロケット「H3」の2号機についてJAXAは午前9時22分55秒の打ち上げに向けて最終判断の結果、「GO」となったと発表しました。

16日 午後

組み立て棟から姿現す

ゲートから出て発射地点に移動するロケット

「H3」の2号機は17日午前9時22分に種子島宇宙センターから打ち上げられる予定で、これを前に16日午後3時ごろ、組み立て棟から姿を現し、30分かけて発射地点に移されました。

JAXAによりますと、17日の打ち上げ時間帯の天候はおおむね晴れで、気象条件に問題はないということです。

今回の打ち上げでは、初号機ではできなかった2段目のエンジンが計画どおりに燃焼し、地球を周回する軌道にロケットを投入させることを大きな目標としています。

また、ロケットの性能を確認するため衛星を分離する動作を実証することにしています。

打ち上げに失敗した初号機

「H3」は現在運用されているH2Aに代わる日本の新たな主力ロケットで、JAXAと三菱重工業が10年前に開発に着手しました。

日本の大型ロケットとしては30年ぶりの新規開発で、開発費用は2000億円を超えています。民間企業の参入で宇宙ビジネスをめぐる国際競争が激しさを増す中、今後の日本の宇宙開発の行方を左右する「H3」の打ち上げが初めて成功するか注目されます。

前日16日朝 宇宙ファンが続々と

種子島の玄関口である西之表港には、前日の16日朝、鹿児島港から高速船でロケットの撮影機材などを抱えた人たちが続々と到着していました。

仕事を休んできたという鹿児島県霧島市の60代の男性は「H3の2号機のリターン・トゥー・フライト、再挑戦を目の当たりにしようと思ってきました。技術者の努力が報われてくれることを願っています。絶対、成功すると信じています」と話していました。

去年3月の初号機の打ち上げの際も見に来たという徳島県の小学4年生の女の子は「前回、ロケットの打ち上げに失敗した時、いつ飛ぶのかなと気になっていました。あすはちゃんと宇宙まで飛んでいってほしいです」と話していました。

ホテルは満室… 公園で

種子島では、多くの宿泊施設がすでに満室となっているため、南種子町の「宇宙ヶ丘公園」ではテントやキャンピングカーで過ごしながら、打ち上げを待つ人たちの姿が見られました。

13日から妻と9か月の子どもとキャンピングカーで寝泊まりしているという兵庫県姫路市の30代の男性は「宿が取れなかったので、キャンピングカーを借りました。きのう打ち上がる前提で帰る予定だったのですが、宇宙センターでJAXAの岡田プロジェクトマネージャと話す機会があり、打ち上げを見ないと帰れないと思い、とどまることにしました。子どもにもロケットの記憶が少しでも残ってくれたらと思います」と話していました。

初号機打ち上げ失敗 原因は

「H3」は去年3月に初号機が打ち上げられましたが、2段目のエンジンが着火せず打ち上げに失敗しました。このためJAXAはおよそ半年間にわたって原因の究明を進めてきました。

ロケットは1段目と2段目の分離まで計画どおり飛行し、その後に2段目のエンジンが着火しなかったことが分かっていて、飛行データを分析し、同じ現象を再現する試験などに取り組んできたということです。

そして、2段目のエンジンに搭載された機器の一部に損傷が発生したことが原因だと結論づけ、損傷の要因を大きく3つに絞り込みました。

2023年3月 打ち上げ直後の初号機

このうち2つは運用中の「H2Aロケット」と共通する部品が関係しているケースで、
▽製造時の部品のずれや打ち上げ時の振動などによって着火直後に点火装置でショートが発生したというものと、
▽点火装置の内部にある電気の流れをコントロールするトランジスターが、地上の点検などで過度の電圧に耐えられなくなっていてショートしたというものです。

残る1つは「H3」だけに搭載された機器が関係するケースで、
▽2段エンジンを制御する部品の一部が故障してショートしたというものです。

JAXAはこの3つの要因についてそれぞれ対策を講じ、点火装置の部品を強化したり、製造検査を厳しくしたりしたほか、ショートの原因となりうる機器の設計を一部変更したとしています。

国際的に激化する宇宙開発競争

宇宙開発をめぐっては近年国際競争が激しくなっています。

内閣府によりますと、去年、世界で成功した打ち上げは過去最高の212回に上りました。このうちアメリカが半数以上の108回を占め、そのうちのおよそ9割はイーロン・マスク氏がCEOを務める宇宙開発企業「スペースX」によるものでした。

中国が68回、ロシアが19回、インドが7回、フランスが3回と続きますが、日本は2回にとどまりました。

アメリカの大手投資銀行「モルガン・スタンレー」の試算では、宇宙ビジネスの市場規模は、2040年には2020年の3倍にあたる1兆ドル規模まで拡大すると見込まれています。

アメリカがリードし、各国がしれつな競争を続ける中で、日本の新たな切り札「H3」が、その市場に食い込んでいけるかが鍵となっています。

今後の打ち上げ計画は

新型ロケット「H3」は現在主力の「H2A」の後継機として運用される計画です。

「H2A」はことし1月(2024年)に48号機を打ち上げていて、2024年度の50号機までで製造を終え、2025年度以降「H3」に切り替えられる予定です。

内閣府の宇宙基本計画によりますと、「H3」の打ち上げは、2024年度以降に地球観測衛星の「だいち4号」や、“日本版GPS衛星”とも言われる「みちびき」の5号機、宇宙ステーションに物資を補給する輸送船の「HTV-X」など、2032年度までに少なくとも22回計画されています。

海外の商業衛星の受注も

「H3」による海外の商業衛星打ち上げはイギリスの衛星通信大手からすでに1件受注しています。

「H2A」では5件にとどまっている受注を増やしたい考えです。

「アルテミス計画」にも

さらに、地球から遠く離れた月や火星の探査にも活用され、火星の衛星からサンプルを地球に持ち帰る探査機のほか、月の南極に着陸し氷の量などを調べる探査機を打ち上げる計画です。

また、2030年にはアメリカが進める国際的な月探査プロジェクト「アルテミス計画」で月を周回する新たな宇宙ステーション「ゲートウェイ」に物資を運ぶ予定にもしています。